#日本の渋滞
渋滞の定番は5月ゴールデンウィークや夏お盆の帰省ラッシュなどでの高速道路渋滞だろう。昨今は移動時期の分散化が進んで緩和されているが、それでも数十キロにわたるノロノロ運転はざらで、通過に2時間、などという悲惨なことになる。そう、それは、非常用の簡易トイレを持参しないといけないくらい、悲惨だ。
日本記録は1995年12月27日、東名高速から名神高速に掛けて起こった154km*の渋滞。通過するのに時速10kmなら15時間、30kmでも5時間掛かることになる。
よく知られていることだが、高速道路での渋滞原因の第一位(4割弱)は「上り坂」だ。似たようなもので第三位(1割強)には「トンネル入り口」。いずれも、ドライバーの無意識での反応(スピードを落としてしまう、落ちていても気がつかない)が、渋滞の原因となっている。
心理には心理で。
これらの渋滞への対応としては、「この先上り坂!」などの表示でドライバーに意識させることや、壁のデザインを道路と平行ではなく、斜めにすることで「坂であること」を意識させることなどが、ある。後者は実際に首都高の東京港トンネルで採用されていて効果を上げているという。
#世界の渋滞
世界に目を向ければ、日本では考えられない交通渋滞が山ほどある。
日本ほど信号を律儀に守る国も少ないが、イタリアや中国では「かなり」信号を軽視している。イタリア人に言わせれば「信号が故障したら日本や西ドイツじゃ、渋滞になるだろうが、イタリアじゃあ、関係ないね」
確かにそうかもしれないが、その代わり、イタリア(特にローマより南)では毎朝毎夕、交差点がにっちもさっちも行かない状態になる。信号に関係なく車が突っ込んでくるのだから、どうしようもない。しかも3車線道路に車が5台横に並んでいたりする。
それより面食らうのは、動物渋滞。
イギリスに行けば「羊」渋滞。放牧地を道路が横断しているのだからこれまた仕方がない。あちこちで迷い羊がとぼとぼ道を歩くのを見かけるし、「羊注意」の標識も立っている。
インドに行けば「牛」渋滞。IT都市バンガローなどでも最新のビルと、過積載の自動車と、野良牛(所有者のいない牛)が町に混在する。これはクラクションくらいじゃビクともしない。待つしかない。
米国イエローストーン国立公園に行けば、絶滅の危機からようやく立ち直りつつあるバッファロー(アメリカ・バイソン6000万頭→1000頭→数万頭)と出会えるかもしれない。クラクションを鳴らすなんてとんでもないから、1時間半ほどはゆっくりご一緒させていただくことになるだろう。
これらに解決方法は、あまりない。
どちらかというと、こちら側の忍耐や精神力が鍛えられる、という感じだろうか。そういう精神修業の場として、これら世界の道路をお薦めする。
#日本の社会的渋滞
日本の道路の渋滞は、国民に年間14兆円の経済損失をもたらしているという。しかし、日本の社会全体を見れば、それどころじゃない渋滞がある。それが「人事」の渋滞だ。
政治家で見ても、大国米国のオバマ氏は大統領になれば47歳で、ロシアのプーチン氏は48歳で大統領になり、今55歳で後任を42歳のメドヴェージェフ氏に託した。現在、ヨーロッパの主要国の首相はほぼ例外なく50代だ。60代は、いない。スウェーデンのラインフェルト首相はなんと41歳と2ヶ月でその任についた。
欧米アジアの企業エグゼクティブでも、同様だ。
国の治め方、企業の治め方の難しさに、日本と外国でそんなに差があるわけがない。あるとすれば、それこそ心理的なもの。年功序列意識、年長者尊重意識によるものだろう。
世界で戦う企業にとって、そんな心理的壁に囚われている余裕はもう無い。多くの大企業が、トップの若返りを進めて、50代(もしくは40代)にその舵取りを任せつつある。(H.I.S.の新社長平林朗氏は40歳)
しかし、問題はミドルだ。ここ10数年、団塊の世代をなんとか乗り切るために、日本企業は大幅な人事渋滞を引き起こしてきた。
ちょっと先輩を飛び越すと「抜擢人事」なんて呼ばれるほどに、若手の昇進は押さえられてきた。
それでも団塊の前の世代くらいは全員部長にはしてやろう、でもっとヒドいことになった。まともにやっちゃ時間が掛かりすぎる、で、部長ポストが2年交替で持ち回りになったり、「副」部長とか「副」本部長とかが大量に出現したり・・・
ではどうすればよかったのか?
#渋滞の本質と解決方法
渋滞回避のために「渋滞学」をひもとくのも良いだろう。
パイプの中に水や油や粉を通す(流体学や粉体学)のとはちょっと違う難しさがそこにはある。パイプを通るのは、一個一個が動力やブレーキ、意思を持った自律的粒子、その意思はそれほど複雑ではない。
近づきすぎるとブレーキを掛け、空いていればアクセルを踏む。ただ、アクセルを活発に踏む者(上昇志向)もいれば、ゆっくりの者(マイペース)もいるだろう。
パイプの容量があって、そこを通る粒子達がいる。でもそれが詰まり気味だったらどうしよう?根本的にパイプを太くする(道なら拡幅、線路なら複々線化)にはお金が掛かりすぎる。
バイパスを造ったり、パーキングエリアを充実させたりするのもいいだろう。出口専用インターチェンジを増やしたり、流入制限をしたり。車線を分けてスピードを変える、ファストパスを発行して優先度を変える。いろいろな工夫がある。
それよりもっと凄いのは、ディスニーランドの心理戦か。建物の中を複雑に迂回させて渋滞感をなくす、渋滞箇所にミッキーを派遣して渋滞の苦しさを楽しさに変える。
いや、そんなごまかしだけに逃げちゃいけない。若く優秀なエグゼクティブを育て、かつ、ミドルのやる気を維持するにはどうすればいいのだろう。
答えの一つは、組織の分散化、パイプの分化だ。それは子会社や関連会社にヒトを掃き出していくことではない。組織そのもの、本社そのものを分散化させることだ。分社化にひた走る、JTBの試みが興味深い。
さて、他によい答えはないか? 日本企業独自のものを、知恵を絞って作り上げよう。
*1990年8月11日の名神高速、中国自動車道に掛けての135kmとする説もある。