三谷宏治の学びの源泉

[第61回] 新しいハカり方への挑戦3:グラミン銀行

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 新しいハカり方は、テクノロジーによるものに限らない。創意工夫でさまざまなブレークスルーを作りうる。
 第3回目は、グラミン銀行の話から。

 #返済能力を仲間からの信頼でハカったグラミン銀行

 現在、世界では30億人もの人々が貧困状態にあるという。貧困層の子どもたちの就学率は低く、それが就業での困難に繋がる。いわゆる「貧困の連鎖」が生まれている。
 これを断ち切るための手段として期待されているのが「マイクロ・クレジット」というものだ。数百円~数万円といったごく少額の無担保融資であり、融資の対象を女性としているものが多い。

 1974年、バングラディシュの大学教授だったムハマド・ユヌス氏 は、ポケットマネーから27ドルを出し、飢饉にあえいでいた42家族に融資した。
 大変喜ばれ、かつ全額が返済されたという。
 76年にはそれが大学の実証実験プロジェクトとなり、大学周辺の村が対象となった。
 活動は爆発的に広がり、83年にはグラミン銀行が立ち上げられた。
 2009年時点で貸付対象者は787万人、貸付総額は81億ドル(平均1人103ドル)、支店のある村の数は8万以上に上る。
 利率は年20%程度。バングラディシュにおけるインフレ率10%、もしくは、貧困層向け高利貸しの年200%に比べれば、非常な低金利(*1)と言えよう。

 当初、大部分のヒトが、グラミン銀行の成功には懐疑的だった。貧困層にお金を低利で貸すなんてありえない、と。
 お金を貸すのに担保を取ったら簡単だが、それでは借り手がいない。逆に無担保なら借り手はいるが、その返済能力や意志が分からず、貸し付けリスクが大きすぎる、と。
 確かに100ドル貸すのにいちいち与信審査、個人調査なんてやっていられない。

 そこでグラミン銀行は、与信でのハカり方を変えた。「借り手の返済能力」を、担保ではなく「仲間からの信頼」でハカることにしたのだ。
 借り手は同性5人1組のグループを作り、個々人の資金計画についてグループ内でチェックすることを求められる。お互いに連帯保証人ではない(*2)が、同じ村の中同士なので互いのことは、分かっている。
 ムリな資金計画を出そうとしても、バレてしまうから、過大な融資は受けられない。
 結果として返済率は、98%を超える高率となっているという。

 自律的なマイクロ・インベスティゲイション(少額融資審査)という、新しい枠組みによる「ハカる」が、マイクロ・クレジットを支え、数千万人への融資を可能にしたのだ。

(*1)もちろんこれに対して「高金利すぎる」という批判もある

 (*2)「連帯保証人」だとしている資料も多いが、グラミン銀行はこれを明確に否定している。但し、連帯保証人「的」である、という批判もある

 #返済意志を手のたこでハカったバンク・オブ・アメリカ

 バンク・オブ・アメリカの創設者はアマデオ・ピーター・ジアニーニ氏。イタリア・ジェノバからの移民の子として生まれ、12歳から継父の青果物卸の仕事を手伝い始めた。
 14歳で学校を辞めてフルタイムで働き始め、19歳のときには共同経営者となり、31歳でいったんリタイアした。
 翌年金融会社に幹部として転身したが、2年後には独立し銀行を立ち上げた。
 その名もバンク・オブ・イタリー、「イタリア銀行」! 古巣の向かいのビルに借りた、たった1部屋からの出発だった。

 数年後、バンク・オブ・イタリー本拠地のサンフランシスコを、大地震 が襲った。人口の半分以上が住居を失うほどのものだった。
 多くの金融機関が営業を停止する中、ジアニーニ氏は周りの反対を押し切って、融資活動を翌日には再開した。店舗は、酒樽2つに板を渡しただけのもの。
 個人や中小企業主に、地震からの再建資金を貸し付けたのだ。もちろん、無担保で。
 そのときの貸付条件は「その人の手にたこがあること」だった。それを彼は「懸命に働く意志、返済する意志がある証拠」と考えたのだ。

 その果断な行動は実を結ぶ。
 「1ドルの損失も出ませんでした」
 「それどころか、何千人もの新しい友人を得たのです」
 友人とも言える親密な顧客の獲得を可能にしたのは、ジアニーニ氏の決断と「手のたこで返済意志をハカる」枠組みだった。

 その後もバンク・オブ・イタリーは、業界の常識 (*3)を破りながら成長を続け、28年にはニューヨークの古い貸付機関だったバンク・オブ・アメリカを買収する。
 そのムダのない、消費者や中小企業主に向いた革新的な経営は、VISAカードを生み出し、ネーションズとの合併を果たし、そしてサブプライムショックを乗り切って、メリルリンチを買収した。
 今や米国最大の金融機関、彼の夢を名実ともに超えた「アメリカ銀行」となった。


 創意工夫による新しいハカり方が、世界を変える。
 あなたの身の回りに、そのチャンスは見えますか?

(*3) 「銀行は農業や畜産・水産業者には融資しない」「他州には支店を出さない」など

参考資料:

『ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家』ムハマド ユヌス、アラン ジョリ、早川書房

『成功にはわけがある』ウィリアム・J・オニール、講談社

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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