三谷宏治の学びの源泉

[第63回] ソーシャルゲームとうさぎとホンダ

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 #「みんなの動物広場」のうさぎ

 mixiアプリである『みんなの動物広場』(提供者はRAKOO(*1))をやっている。始めてから1ヶ月ほどだろうか。
 一昨日、マイミクさんちの牧場に行ったら、牛がお腹を空かせていた。
 そしてあの、眼が赤いうさぎたちが10数匹、楽しそうに跳ね回っていた。

 水をくんで、牧草の種をまいて、うさぎを全部捕獲した。
 すっきりした。

 それにしても、この動物広場におけるうさぎの存在は謎である。
 初期の頃は、捕らえると経験値が貯まり、売り飛ばすとお金になるのでウレシい存在だったが、しばらく経てばこれほどウザッタイものは無い。

 一匹や二匹なら許せる。
 しかしちょっと放っておくとあっというまに増殖する。まさにリアルうさぎの如く。
 かつ私としては白うさぎがキライである。
  黒うさぎは「捕まえにくい」からまだチャレンジ精神も刺激されるが、白うさぎはただ面倒なだけ。

 うさぎが嫌いになりそうな、今日この頃である。

 #ガーデニングゲームのブレークスルー

 もちろん、動物広場的なヤツ(ガーデニングゲームと言うらしい)は実にうまいところを突いているとも思う。
 『ブラウザ三国志』のような「マイミクとチームを組んで」みたいなゲームは正直面倒くさい。いくらソーシャルゲームと言っても、そこまで行くとゲーム自体が相当好きでないとやってられないし、メンバーとの余計な人間関係に煩わされる。
 でもガーデニングゲームは、他人の農場や牧場などの「お世話をする」こと(だけ)でマイミクとの繋がりが感じられる。そんなゲームだ。

 これこそソーシャルゲームにおける、新たなコミュニティレベルの創造、であった。

 ガーデニングゲームの先駆は『サンシャイン牧場』である。ユーザー数はなんと473万人。1000を超えるmixiアプリ中でも最大数だ。
 提供者はRekoo。前出のRAKOOとの名前の違いは一文字だけ。
 この2社は実はいずれも中国の会社で、両ゲームとも中国のSNS上でヒットしたゲーム(*2)のmixi版である。
 ただいずれのゲームにせよ、ユーザーは初期に爆発的に伸び、すぐにフラットとなる。これがSNSでのソーシャルゲームの特徴(*3)だ。
 例えば、『みんなの動物広場』のユーザー数は1ヶ月掛からずに100万人に達したが、なんとその内1/4はオープン初日に集められた。
 mixiなどの強力なSNS内において、ソーシャルゲームは急速に伝播・浸透する可能性を持っている。

(*1)他に『みんなの農園』(166万ユーザー)、『みんなのイケス』(82万ユーザー)を運営

(*2)サンシャイン牧場の中国版は、51.com上で1784万人のユーザーを集めている

(*3)例外もある。DeNAの『怪盗ロワイヤル』は数ヶ月間コンスタントにユーザー数を伸ばし続けている。現在284万人。(3/24/2010)

 #ソーシャルゲームのエンドゲーム

 しかし問題はその継続の仕方、終り方だろう。
 ユーザー数が100万を超えると言っても、その内アクティブなのは、おそらく数分の1(*4)に過ぎない。
 いくら継続性が強いガーデニングゲームといっても、時間と共にユーザーたちがゲームから離れて行くことは必然である。
 なのに、それにつれて、残った者たちは強い孤独を感じる。
 マイミクの広場を訪れても、空白かうさぎだけが飛び跳ねる、まことに寂寥感の漂う風景ばかりが拡がる。

 まあ、おそらくだが、運営者としては「ライトユーザーの排除」ということなのだろう。
 こういうゲームは、ユーザー同士の紹介によって急速に広まるが、運営者の収入は多く「アイテム課金」によって成り立っている(*5)
 さまざまな便利で希少なアイテムたち。それを運営者がリアルなお金で売り捌く。レベルアップや競争心に火が付いたユーザーたちは、平気で数千円・数万円をそれに注ぎ込む。
 これが、月当たりいくら、といった「定額制」では打ち破れなかった、ネットゲームの限界を集客の壁を打ち破った「アイテム課金」の在り方だ。

 そういったなかで、アイテムを買ってくれないライトユーザーは、ある意味邪魔なのである。

 ゆえに、うさぎたちは、ライトユーザーを駆逐するために放たれた必殺の刺客なのだ...。
 そして最後には、アイテムを買う少数のユーザーだけが残れば、良い。それがエンドゲーム(最終像)。

 #社会性を「消費する」ソーシャルゲームであってはならない

 いや、それではとてもソーシャルゲームとは呼べない。

 マイミク同士の繋がり(社会性)を元にして集客し、お互いの「お世話」によって発展させるガーデニングゲーム。
 その最後が、お世話も繋がりも失せた、うさぎ砂漠であって良いはずがない。それではただの「ユーザーの社会性の消費」だ。
 ソーシャルゲームのエンドゲームの在り方において、もっともっと有意義な楽しい解決策を望みたい。
 それをどうにか出来ないと、「アイテム課金」に成功したとしても、長期の収入には繋がらないだろう。

 いや、それでいいと割り切っているならそれも立派な戦略か。
 短期にアイテム課金で稼いで、その内に実質ユーザーを減らしてクローズする...。

 やっぱりそれはもったいないなあ。
 100万人以上のユーザーを折角獲得したのだから...。

(*4)『みんなの動物広場』で私のマイミクユーザーを数えると、ちょうど1/3だけが継続中。残りの2/3は休眠(?)ユーザー

(*5)mixiアプリの場合には、mixiから1PV(ページビュー)当り、最低0.01円の「広告」収入も保証されている。

 #mixiアプリを眺めてみると...

 最後に、最近のmixiアプリのランキングを眺めて分かることをいくつか。(2010/03/24時点)

 ・登録アプリ数は1200、総登録ユーザー数は120百万人。1アプリ当り平均は10万人
 ・実際には上位集中がかなり強い。上位20アプリで37百万人、31%を占める
 ・提供者も数百社あるが、上位20社で77百万人、64%を占める
 ・提供者のほとんどは専門のウェブゲーム制作会社だが、それ以外ではホンダが圧倒的

 ホンダのmixiアプリは懸賞型で、1つは『当たれ!Hondaマイミくじ』
 これは2009年9月に第一弾が行われ、数十万人のユーザーを獲得した。総額数百万円にのぼる豪華景品が、200名あまりに当たるものであったが、その応募条件は
 ・Hondaインサイトのメルマガを購読すること
 ・属性と車に関しての簡単なアンケートに答えることだった。
 たった数百万円で、数十万人のメルマガ購読者の獲得とその基礎アンケートが出来た計算だ。これに味をしめて、第2弾、第3弾(*6)が行われ、同様の成果が上がっている。
 ただこれらは、普通の懸賞サイトと変わりない。

 #ホンダのソーシャル懸賞アプリ

 しかし、2010年3月末まで行われる『Ole! Ole! CR-Z』は、同じ懸賞型でもSNSのソーシャル性を活かしたものと言える。
 賞品はズバリ、新型HV(*7)スポーツカー CR-Z!。その応募条件は
 ・自分のmixiでのニックネームに「CR-Z」という文字を入れる
 ことだけだった。

 だから私の周りにも急に、「XXX CR-Z」みたいなヒトたちが増えた(*8)のだなあ。
 結局『Ole! Ole! CR-Z』は、2/12にスタートし40日後、78万人のユーザーを集めるに至った。

 同日、ホンダはCR-Zについての受注台数を発表する。
 「2/26に発売されたCR-Zの累計受注台数が約1ヶ月で1万台を超えた」「これは当初の月間販売計画の10倍である」

 『Ole! Ole! CR-Z』のユーザー数は、なお増加を続けている。その数、毎日約2.5万人。増加数ランキングで3位に入る検討ぶりだ。
 締切日までに、100万人近くを集めることは間違いない。

 このmixiアプリはCR-Zの実売増加に、どれくらい貢献しただろうか。
 少なくとも宣伝効果は大きかっただろう。100万人の登録者とその数倍数十倍のマイミクたちが、「CR-Z」を意識した。
 そして、掛けたコストはまたもや総額で数百万円に過ぎない。

 ニッチで情動的な商品の、新しい広め方である。

(*6)2009/0925~2010/03/24まで。44万人を集めた。

(*7)ハイブリッド車。リッター25km走る。ユーザーは独身者が半分を占める。

(*8)マイミク内だけで数えても4人もいた。

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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