三谷宏治の学びの源泉

[第65回] 分ける・減らす・早めにやる、の仕事整理術

転職のご相談・お問い合わせ

経験豊富な
エージェントに転職相談(無料)してみませんか?

1分で完了無料登録・転職相談

 #"Sea of inventory"

 18年前、INSEADで学んでいたとき、教授から来週みなにJIT(*1)(トヨタ生産方式)を説明せよと言われた。相手は38カ国からの同級生、80名。
 こりゃマズいと改めて勉強し直していたとき、印象的な図表に出会った。題名は「Sea of inventory(在庫の海)」
 深い深い海の底に、さまざまなproblems(問題)が沈んでいる。でも、在庫という名の海が、それを覆い隠している。在庫がある限り、問題が何なのか分からない。問題が分からなければ解決しようともしない。だから問題をあぶり出すために、まず、在庫を無くせ!

 これは旧来の欧米流の生産管理の考え方と、真っ向から衝突する概念だ。
 工程毎のばらつきをなめらかに繋ぐために、もしくは工程毎の最適生産ロット(*2)を実現するために、在庫は必要不可欠。在庫は善なる存在であり、如何に「適切な」在庫を持つのか、それが生産管理上の腕の見せ所だった。

 それに対してJITは「在庫は悪だ」と叫ぶ。そんなものに頼るから、工程そのものが強くならないのだ、と。
 もっと小ロットで最適になるように工程自体を改善せよ、工程間をなめらかにカンバンで繋げ、それらが必要になり、かつ機能するように、まずは工程間の在庫を撤去せよ。
 淀んだ大海のように貯まった、全ての在庫をまずは取り除け!その必要性を示すための絵が「Sea of inventory」だった。

(*1)Just In Time

 (*2)例えば元来、プレス工程の最適ロットは非常に大きく、人的組立工程のそれは小さい、など

 #「悩み」の海に沈む、ホワイトカラーたち

 ホワイトカラーたちの仕事(とプライベート)を見たとき、その思考の非効率性は驚くべきレベルだ。
 このとき在庫に当たるものはなんだろうか。
 それを「悩み」だと考える。

 ヒトの心は「悩みの海」に沈んでいる。
 考えているようで、実は考えていない時間。真剣なようで、実は逃避しているだけの時間。脳が理性ではなく、感情に支配されてしまった時間。それが「悩み」だ。
 日本の心あるホワイトカラーはみな、日々悩んでいる。
 作業をどう進めればいいのか、自分が判断すべきかどうか、判断が正しいのかどうか、上長に伝えるべきか否か・・・。
 頭の生産性を上げようとすれば、まずはこれを取り除くことだ。そうでなければ、思考や判断の生産性アップなどおぼつかない。
 仕事もプライベート(*3)も、ほぼ同じ。その深さや種類が違うだけだ。

 ではどうすれば、そういった悩みの海から脱出できるのだろうか。
 そのための第一歩が「分ける」だ。

(*3)英Matalan社の、2491人の女性(16~60才)を対象にした調査によれば、女性は一生の間に、平均287日分の時間を「着る服を悩む」ことに費やしている、という。

 #すべてのことを、対応別に「分ける」

 高校1年生のある夏の日、行きつけの書店(*4)の中を一巡りした後、友人が「昼飯を食おう」と言った。
 なに食べようか、と私。でも彼は「なんでもいい」とだけ応えた。
 おいっ、なんでもいいは無いだろう。なんか意見を言うべきだ、とちょっと憤る私。でも彼は涼しい顔で言う。
 「いや、本当になんでもいいんだ」
 「オレはこだわることと、そうでないことを決めている」
 「食事は、こだわらない」「だからお前の好きにしていい」
 衝撃だった。世界が変わって見えた。

 すべてのことに対して、対応の仕方を決めること。それが「分ける」だ。
 大事なのは「対応スタンス」別に分けること。なんとなくの分類では意味がない。この事柄に対しては、基本的にこうする、こっちはこうする、を事前に決めてしまうことだ。
 そうすれば「悩む」ことは劇的に減り、ムダな時間が無くなる。

 対応スタンスなのだから、具体的対応内容まで決める必要は無い。
 各テーマに対して、自分自身の、
 ・こだわりレベル
 ・決め方
 ・コミュニケーションタイプ
 などを定めるということだ。

(*4)福井駅前の勝木書店本店にほぼ毎日通っていた。二人とも浪人し、今度は駿河台下の三省堂本店へ、やはりほぼ毎日通った

 #自分が「悩み」状態にいることを意識する

 それには「悩み」こそがトリガーになる。悩んだら、一歩下がって考えよう。これは、悩むべきテーマか? と。
 悩みという感情を、むりやり押さえつける必要は無い。ただ、悩んだときにその悩みに「意味があるか」「価値があるか」と問い直してみよう。

 ・悩んでも良くならないものに、悩まない
 ・焦っても速くならないものに、焦らない

 これらはある種の、割り切りであり、あきらめ(諦念)でもある。こう問い続けることで、悩みも焦りも、減るはずだ。
 だから、本当に感情に振り回されないようにしたいのなら、まずやるべきことは「感情自体を認識する」ことなのだ。
 自分がいまどんな気分なのか、怒っているのか、焦っているのか、羨んでいるのか。それを常に意識すること。
 それができたら、もう半分勝ったようなもの。

 #こだわらないモノやコトを「分ける」:

 モノやサービスを買うときに、どれくらい「こだわる」だろうか。
 野村総研は1万人調査の結果 として、「こだわる」購買スタイルの人が全体の約3割で、残り7割はモノやサービス自体にはこだわりがない人たちだとした。
 でも、実際にはそんなにきれいに分かれない。一人一人の中で、こだわりのあるものや無いものは、渾然一体となり悩みを生み出している。

 だからそれら各々に、こだわりの「レベル」を定義しよう。
 「レベル」は、こだわる・こだわらない、の2レベルでも良いし、すごく・少し・全く、の3レベルでも良い。でも、4レベル以上には分けないこと。覚えていられないし、結局悩む時間が増えるだけだ。

 お客さんに対して出す提案書にしてもそう。
 個々人、なにをウリにするのかで、こだわる場所やレベルを明確にしないとイイモノにならないし、作業も大変になる。
 例えば、TVCMの提案だとして、
 ・こだわるーー全体のストーリーと音楽(イメージでなくサンプルを作る)
 ・こだわらないーー個々のパーツの出来や詳細な業界・商品分析
 という割り切りもあるだろう。実際これで百戦百勝を誇った人もいる。

 ここでの目的は、「分ける」ことで悩む時間を減らすこと。だから、「こだわらない」と決めるモノやコトは、思い切って多めに取ろう。

 さて、このお話は、まだまだ続く。

 仕事(とプライベート)の生産性向上を図りたい方、また、多くの仕事をうまく回したい方は、是非、新刊『特別講義 コンサルタントの整理術』をどうぞ。
 「まずは仕事を上司に打ち返す」や「キーワードのメモしか取らない」など、ドキドキはらはらの仕事整理術(整流術)が満載である。

AmazonのURL
http://www.amazon.co.jp/dp/4408108510

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

初めての方へ 私たちキャリアインキュベーションについて

転職のご相談・お問い合わせ 業界の専門分野で10年以上の
経験を持つエージェントに
転職相談(無料)
してみませんか?

あなたのキャリアに関する相談相手として、現在の状況に耳を傾け、これまでのご経験や今後のポテンシャル、
将来の展望を整理し、よりふさわしいキャリアをご提案します。

1分で完了 無料登録・転職相談

現在約6000人以上が登録中!
転職活動にすぐに役立つ
メールマガジン(無料)もございます。

メールマガジン登録(無料)