#修羅場を作らぬよう努力せよ
『特別講義 コンサルタントの整理術』の中でさんざん書いたのは、
・〆切り間際の火事場のバカヂカラなど信ずるな
・それより早めに手をつけて、ジワジワ進め
ということだった。
早めに手をつけることで、良いことはいっぱいある。
・リスク: 必要な基礎データがあるか無いかで、所用工数や難易度は格段に変わる。それを早めにチェック出来る
・やる気: そのテーマを考察するのに必要な精神及び体力状態のときだけそれに取り組める。ダメなときには他の難易度の低いものをやる
・シナジー: 必然的に複数のタスクを同時並行的に処理することになるが、これが意外と役に立つ。アイデアのモトが相互にあったり
つまり、作業の生産性も上がるし、リスクも大きく減るわけだ。
もちろんぎりぎりに追い詰められないので、精神衛生上も、よい。気の弱い(私のような)ヒトにはこれ以上の効用はない。
修羅場とやらを作らぬようにすること。
〆切りに追われた複雑で命がけの状況にならないように、事前に手を打つこと。それこそがマネジャーの役割であり、プロたるものが提供すべき第一の価値だ。
#修羅場でこそヒトは育つ
一方、人材育成的側面を考えたとき、修羅場には大きなマイナスと共に、大きな効用が、確かにある。
マイナスはもちろん、気力体力の消耗・摩滅だ。
修羅場が続けば、職場の退職率は跳ね上がるし、傷病者も続出する。お客さんからも非難されるような状況になれば、いよいよ精神的なダメージは大きい。
しかし、ヒトは失敗の中でこそ多くを学ぶ。
私が遭遇した人生最初の修羅場は学生時代の大失恋だったが、たしかにそれは私を大きく成長させた。
まあ、それはともかく、社会人としてのそれは、2年目冬のあるプロジェクトだった。
私が請け負った検討対象は、百数十のビジネスユニットからなる組織だった。しかし、その方向性なるものが、考えても考えても、調べても調べても、分からない。
ビジネスユニットが多すぎて、現状把握すらままならない。会計上の数字はあるが、実態とはかけ離れていてまったく信用出来ない。実態把握のために担当者に話を聞きに行けば、すごく嫌われるか捕まるかのどちらか。
嫌われれば情報がもらえず、捕まれば5時間、熱弁を奮われることになる。みな第一線の技術者で、燃えていた。自分のビジネスの成功を信じていていた。
でも全体で見れば、明らかな赤字。
これをどう検討して良いのか、その糸口すら見えなかった。
苦しみ抜いたその6ヶ月間を通して、私は社内外で「問題発見と解決へのアプローチ」を探し続けた。
丁度あてはまる答えそのものなんて、見つかるわけがない。でも、どうやったらちゃんと現状を把握し、問題を特定出来、そして解決策を出していけるのか。そういう「アプローチ」の例を、ひたすら探した。
成功プロジェクトでは定義により使うアプローチは少ない。試行錯誤が少ないからだ。
でも(大)失敗のお陰で、私はそれをいっぱい自分のものにすることが出来た。それは、挫折と紙一重の、大きな学びの機会だった、と今思う。
もちろん、もう一度やりたくは、全くないが。
#修羅場で笑えなきゃ、プロじゃない
これは、日産自動車 テストドライバー 加藤博義さんの言葉(*1)だ。
プロたるもの「出来ない」なんて、簡単に言っちゃいけない。難しいことを実現するところにこそプロの価値がある、と加藤氏は言う。
故に修羅場は必然的に、来る。そういった極限でこそ、アマとはちがう、プロとしての力が試される。
その時こそ、余裕を持たなくてはいけない。緊張してガチガチの状態で、良い仕事や新しい解決策が生まれるわけがない。リーダーが萎縮していて、部下たちが力を発揮出来るわけがない。そんなチームにお客さんが、信頼を置くはずがない。
だから、余裕が必要だ。
加藤さんはそれを、地獄のテストコース 独ニュルブルクリンクで学んだ。あまりに難しいコースに、アクセルも踏み込めずテストにならない。テストドライバーなのに...。試作車のテストは結局、現地のドライバーに頼んでやってもらった。
それが、4年続いた。
5年目に、助手席に乗った後輩に言われる。「加藤さん、緊張感みなぎってますね」
格好悪くて泣きたくなった。せめて体の力を抜こうと、いろいろなりふり構わずやってみた。片足上げたり、座席を倒したり。そしてある日、ハンドルを握りしめず、指先だけでもってみた。そのまま勇気を出して、時速200kmのコーナーに突っ込んだ。
初めて、タイヤの動きが感じられた。クルマの性能評価が、出来るようになってきた。
彼は気付く。
「余裕は持つものではない。つかみ取るものだ」
私のスキーは基本、高速系である。
フラットな急斜面を、高速ターン3回で駆け下っていくのがスキだ。
もちろんスピードは、限界ギリギリ。
いや、限界内じゃ、意味がない。限界を超えたところにこそスリルと成長がある。転ばないスキーなんてスキーじゃない。
急斜面に、加速しながら前傾姿勢で突っ込んでいく、あのゾクゾク感。
思わず、大声が出る。笑い声と共に。
あ、加藤博義さんの「笑い」とはちょっとずれた。
でも、実は一緒かな。
おまけ:twitterで修羅場のことを呟いたら、thinkingtrierさんから、こんなレスがあった。
「ど素人は恐怖で笑う(または泣く)。素人は不安を口に出す。玄人は黙って仕事をする。本当のプロは周囲をみて微笑む」
座布団一枚。
新刊『特別講義 コンサルタントの整理術』は、お陰様で増刷になった。その勢いか、出版から2ヶ月目にもかかわらず、書店さんでも面出しして頂いているところが多い。感謝である。
※夏休みの読書にいかがでしょうか。ぜひご一読を!
『ハカる考動学』
(*1)NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』2006年5月11日放送 http://bit.ly/dvXEPc