三谷宏治の学びの源泉

[第71回] 弱いつながりからの創造を(もしくは、反・人類補完計画)

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 #弱いつながりの時代:黎明

 第69号「弱いニーズの時代」で、ターゲットとすべきニーズタイプが変わってきた、と書いた。
 強く大きなニーズから、小さく明確なニーズへ、さらには弱いニーズへとビジネスターゲットは移ってきている。
 価格.comや@cosme(*1)が切り開いてきた「弱いニーズ」のビジネス化が、最近クックパッドやTwitter(ツィッター)という形で一気に爆発してきた。
 それは「弱いつながりの時代」の到来とも言えるだろう。リアルな強く複雑でストレスフルなつながりではなく、ヴァーチャルで弱く単純でストレスフリーなつながりへの欲求。それを可能にしたのが、ITだ。
 そこにはヒトを弱体化する危険がいっぱいだ。しかし、本稿では「弱いつながり」のプラス面、特に「創造」へとつながる可能性を見てみたい。

 こういった「弱いつながり」に最初に光を当てたのは、スタンフォード大学のグラノヴェッター博士(同時は学生)だった。彼は、就職・転職についての調査を行った。そのきっかけは誰からだったかと。その結果は、

 ・今の職は「友人」からでなく「知人」からの紹介だ、が、「友人」から、より圧倒的に多い
 ・今の職は会う頻度が低い「弱いつながり」の人から紹介された、という人が83%を占める

 というものだった。
 彼はこれを「弱い紐帯(ちゅうたい)の強み」"The strength of weak ties" と名付け、社会学における地位を築いた。1970年のことだった。
 「強い狭いつながり」ではなく、「弱い幅広いつながり」こそがジャンプを生む、ということを、なんと40年前に示していたのだ。

(*1)1999年12月サイトオープン。国内最大規模の化粧品情報専門サイト。コメントは累計833万件、1日平均2千件以上。


 #弱いつながりの時代:成長?

 先日、勤務先であるKIT虎ノ門の論文中間発表会で、院生の一人が「ツイッター様(よう)のものとイノベーションとの関係」について調べると発表した。

 Twitterの価値は独自の「弱いつながり」の発明にある。
 つまり「フォロー」の概念と仕組みだ。
 相互承認によるマイミクでも、なんでもなく、ただそのヒトのつぶやきを読むように設定する「フォロー」
 相手に連絡は行くし、相手は拒否もできるが、基本、無承認の弱いつながりだ。
 しかもそれがRT(Retweet)により増殖する。

 そういう弱いつながりは、これまでは発展・維持しづらかった。 でもITがそれをTwitterというカタチで可能にしたのだ。

 そしてそれは、次代のイノベーションすらを生むのかも知れない。
 "The strength of weak ties"の1つとしての、 "The innovations from weak ties" 弱いつながりからの創造、だ。

 #「弱いつながりからの創造」をハカる!

 アメリカでは頭打ちになったTwitter利用が、日本ではまだ伸びている(*2)という。参加人数も、1人当たりtweet数も。
 特にアクセス数は09年9月以降急増し、10年3月には月間ユーザー数が750万人とmixiに匹敵する規模になった。
 日本人はこういう(Twitterだと最大140文字)ショートメッセージを書くことが好きだ。月間の国別tweet数ではこの3月に本家米国を抜き、世界第一になったとの調査もある。
 日本では毎分約5千件、毎秒80件のtweetがなされている計算だ。

 こういった「弱いつながり」から生まれる創造をハカるために、例えばこんな調査をしてみたらどうだろう。

 Q:あなたの着想やアイデアは、どこから得ましたか?
 1. ひとりで
 2. 友人とのコミュニケーションから
 3. 知人とのコミュニケーションから
 4. 繋人(Twitter等でつながっているだけの人)とのコミュニケーション*から
 * Retweetを読んだ、等も含む

 3や4の回答が多いと、面白い。

(*2)2010年にTwitter投稿累計150億番目と200億番目のキリ番を踏んだのは日本人とか。


 #ネットが生む「フォロー人間」「RT人間」

 一方で、Twitterやmixiのような「つなげるツール」は、そこに人を飲み込んでしまう危険も持つ。

 恩田陸さんの『常野物語』3部作では神代から続く異能者たちの戦いが描かれているが、そこでは敵勢力がヒトを「裏返す」。裏返されるということ自体は、具体的には述べられていないが、裏返された者たちは言う。そこが「全体とつながって心地よい場所だ」と。彼は全体であり、全体は彼女である、自我のない世界。
 そして、その状態で心穏やかに、ヒトはハコに収められ倉庫に格納される。

 ガンダムはヒトとヒトがつながる「ニュータイプ」というものを示したが、エヴァンゲリオンが提起したのは、まさに『常野物語』と同じく、自我境界の消失、というテーマだった。
 自我があるから争いが起こる、全体と同化してしまえば、ズレがなくなり争い自体が消滅する。ゼーレが推進した「人類補完計画」とは、そんな理想郷建設計画だった。

 そして今、それに似た状態が、ネットによって実現しようとしている。

 ただセレブをフォローし、そこに(擬似的に)寄り添うことで満足感を得てしまう、フォロー型人間。
 もしくは、フォローした人の面白い発言をRT(Retweet)してみんなに拡げるだけの、RT型人間。これらが急激に増殖している。

 いずれも、戦いや争いに疲れた人間たちを誘(いざな)う、甘い甘い理想郷だ。行うのは、フォロー先のウォッチと、若干の選別と、RTボタンを素早く押すことだけ。それだけで、他人からの賞賛を受けられる(と勘違いする)。
 世にあるブログの大部分も、実はそうである。ただのコピペの巣窟だ。本人はそう思っていないかも知れないが、そこにはなんの自我も、そこから来る創造も葛藤もない。

 ネットによる弱いつながりは、ヒトに恐るべき誘惑をもたらしているとも言えよう。
 ヒトは弱い。
 そこに飲み込まれず、「裏返され」ずに、自我を保ちながらつながりを活用し、創造を続けられるヒトは、一体全体のどれほどだろう。

 #「弱いつながり」が生む「強いつながり」

 しかし、こういう提起もある。
 ネットが生み出した「弱いつながり」を利用して、「強いつながり」を作れないのか?

 それは可能だ。
 昔は手の届く範囲でしか集められなかった「同好の士」を、今なら世界中から集められる。その嗜好や夢が特殊であればあるほど、弱いつながりが役に立つ。

 例えば「ネットゲームを通じて世界を平和にしたい!」
 例えば「日本の高校生たちに、夢ある大学生と語り合う場を与えたい」

 肩書きも年齢も性別も関係ないネットでの弱いつながりだからこそ、ヒトはその人の問い掛けに素直に反応し、集まってくるだろう。
 賛同者が1人いればパートナーとなり、2人いれば会社やNPOができる。
 創造を生む、強いつながりの誕生だ。


 ヒトは弱い。しかしヒトのつながりは、無限の可能性を持つ。
 未来につながる、強いつながりを生もう。
 創造を生む、弱いつながりを造り上げよう。
 決して、つながりに、飲み込まれることなく。

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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