三谷宏治の学びの源泉

[第72回] ペットボトルのカタチの秘密~前編

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 #ペットボトルはなぜあんなカタチか?

 これから何回か、発想をテーマに書こうと思う。
 これまでも書いてきたが、

 発想 = 発見 × 探究

 であり、発見は常識を疑うところから始まる。そこで何かを見つけたら、なぜ?を続けていくことが探究だ。
 せっかく面白いモノを見つけても、AHA!で終わってはもったいない。それで多少、脳の働きがよくなろうと、そんなことよりダイジなのは、その先になる「何か」、だ。

 この作業は、繰り返すことによってスキルになる。つまり、発想はセンスだけではない、ということだ。
 新しいものを創り出すために、モノゴトに潜む本質を見つける練習は、とても役に立つ。他人(や自然)が創り上げた本質を見抜けずして、自分で創ることなどできようか。

 練習テーマは「カタチの秘密」。
 今回の題材はペットボトル入り飲料(以降ペットボトル)だ。

 「ペットボトルはなぜあんなカタチか?」と問われて、まず何から考えるべきだろうか。
 もしくは、何から調べ始めるべきだろうか。いきなりこの問いをコピペして、ネットに投げるのも手だろう。何の練習だかはしらない(笑)

 そう、まずは問い自体を疑おう。
 これは「正しい問い」か、と。

 「あんな」カタチ、って「どんな」カタチのことを言っているのだろう?
 「なぜ」、ってどういうタイプの理由を求めているんだろう?歴史的必然、コスト的必要性、特許が    云々・・・。
 まずは、「あんなカタチ」から片付けよう。

 #ペットボトルは「どんな」カタチか?

 ペットボトルのカタチ、と言われてどうイメージするだろうか。
 スタンダードな円柱から、エヴァンゲリオンの綾波レイ型まで、さまざまといえばさまざまである。
 でも、コンビニに行ってまじまじ観察すればわかるが、典型的には2~3種類だ。
 それは円柱と四角柱。さらに四角柱には、断面が正方形と長方形がある。

 本当はここから述べることは、コンビニに自分で行って発見して欲しいこと。だから、時間があるならここでコンビニに走って欲しい。
 ペットボトルは、一体どんなカタチのものが、何アイテムくらいあるのか。そしてその各々の中身は何か・・・。
 そして、そのカタチの理由は何か!

 さて、炭酸系は円柱(もしくはコカコーラボトル型)しかない。断面が円形でないと炭酸の圧力に耐えられないからだ。
 しかし、非炭酸系では驚くほど四角柱が多い。これはここ数年の傾向だ。
 なぜ、四角柱が増えたのだろう?

 #「なぜ」ペットボトルは四角柱が多いのか?

 なぜ、というコトバは曖昧で悩ましい。
 辞書を引けば、「理由」や「原因」という意味が載っているが、ただ言い替えただけで曖昧なままだ。
 ビジネスで考えるなら、多くの場合、『なぜ?は』『DMU(*1)にとっての価値』と定義づけられる。つまり、誰にとってどんな価値(便利さや安さ=うれしさ)があるか、ということだ。

 当然、ペットボトルであるからDMUは最終消費者だ。ゆえにこの問いは、「ペットボトルが四角柱だと、消費者は何がうれしいのか?」となる。
 いや、本当にそれだけだろうか。DMUは最終消費者、だけだろうか。

 飲料全体では、新商品が年間2000アイテム以上出るという。そのうち1年後に存在しているのは数アイテム。まさに千三つの世界だ。ほとんどの商品は、消費者の手に取られることなく消えていく。
 ペットボトルの場合は特に、自動販売機での販売シェアが低いので、小売り経由でないと消費者に届かない。なかでもコンビニエンスストア(以下コンビニ)経由は、メーカーにとって売上面でも利益面でも大切なチャネルだ。
 そう、もう一つのDMUはコンビニ(のバイヤーさん)。ここに採用してもらえなければ、アウトだ。
 ゆえにこの問いは、もう一つの問いとなる。「ペットボトルが四角柱だと、コンビニは何がうれしいのか?」だ。

(*1)Decision Making Unit 購買意思決定者のこと。その購買要因のことをKBF(Key Buying Factors)と言ったりもする。


 #コンビニが好むカタチ

 最近、お菓子のカタチがなんでもかんでも細長くなっているのに気がつかれているだろうか。
 横に狭く、縦に長くなっている。端的に言えば、長めの四角柱、である。
 スペースが限られるコンビニにとって、店頭スペース、特にフェイス数が命。
 定番だけでだいたい埋まっているのに、新商品もどんどん入れていかないと、売上の向上は望めない。でも、新商品は数限りなく、かつ、成功確率は極めて低い。
 そんななかで、開発されてきたのがこういった縦長四角柱パッケージなのだ。消費者のためというよりは、コンビニのため。

 四角柱ペットボトルも、そうなのだろうか。
 ズバリ、ハカって見よう。

 コンビニの主力商品である500mlペットボトル。円柱だと幅がだいたい、6.8cm。
 ふつうの70cm幅の飲料棚にちょうど10本m横に列ぶ。
 では、四角柱は?

 ハカって見ると、だいたい、6.0cm。これなら70cm幅に11本列べられる!
 これは1本の差、ではない。フェイス効率の、10パーセントの増加だ。奥行きについても同じだから、これはコストゼロで店舗面積を1割増やしたのと同じ意味がある。

 だからコンビニは、四角柱が好きなのだ。

 #消費者が好むカタチ

 では、もう一人の大事なDMU、消費者にとってはどうなのだろうか。
 500mlペットボトルで言えば、持ちやすさは円柱が優れている。握りやすいのはなんといっても「丸い」カタチだ。
 それでも四角柱のものが店頭で増えているのは、DMU(購買意思決定者)としてのコンビニの強さだろう。なにせ、消費者は数千万人いてバラバラだが、コンビニは数社しかいない。対メーカーの交渉力は抜群だ。

 ただ、1L以上の大型ペットボトルとなると話は別だ。消費者にとっても、四角柱がよくなってくる。
 容量 = 断面積 × 高さ なので、同じ高さであることを前提にすれば、容量が同じペットボトルの断面積は、みな同じのはずである。
 全高が30.5cm、実質的な高さ(*2)が25cmとすると、内容量2Lを確保するには必要な断面積は、80c㎡となる。
 このとき、容器の幅がどうなるか、3種類のカタチで比べてみよう。円と正方形と長方形(2辺が5対4)だ。すると幅は、
 ・円:直径10.1cm
 ・正方形:一辺9.0cm
 ・長方形:8.0cm×10cm(*3)
 となる。

 これが消費者が四角柱、特に長方形の四角柱のペットボトルを好む理由である。
 大きめのロックグラスでも、直径は8cm弱。ヒトが快適に握れる限界がそこなのだ。しかも、大型ペットボトルは、重い。

 しかも、コンビニにとっても、長方形はうれしい。
 スペースに余裕のないときには縦置きにすることで、フェイス数を確保できるからだ。
 そのために、最近のペットボトルのデザインは、2正面になっている。横に置いても縦に置いても、正面に見えるように、作ってある。
 横に置いたら6本しか列ばないものが、縦に置けば8本列ぶ(33%増!)のだから当然だ。

 でもまだ、ペットボトルのカタチの秘密は半分に過ぎない。最後に、隠れたDMUがいる。
 それが「地球」だ。
 地球にとって、好ましいペットボトルのカタチとは何だろう?

 それはまた次回。
 みなさんへの宿題とする。


 お知らせ:3月に2冊の本が出版予定です。1冊はプレジデント社から。親たちに向けた子育て本で「ヒマと貧乏とお手伝い」がテーマです。三谷家の子育て論、お楽しみに。
 もう一冊は実務教育出版から『ルークの冒険(仮題)』。これは子どもたちに向けた発想力ワークブックで、主人公のルーク(イワトビペンギンの子ども)が、この世に潜む「カタチの秘密」に挑んでいきます。
 その第3章が「ペットボトルのカタチ」。内容はここで議論しているものと、ほぼ同じです。
 フルカラー180頁の冒険譚を、お待ち下さい。

(*2)上部が細くなっているのでそれを差し引いた高さ。仮に寸胴だったとしたときの高さ。

(*3)実際には丸まっていたりでこぼこがあるので、長方形のものは、8.6cm×10.3cm程度

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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