三谷宏治の学びの源泉

[第74回] ペットボトルのカタチの秘密~後編

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 #ペットボトルのカタチ? 前回の復習

 途中に第73回「アジア杯」が挟まったけれど、第72回からの続き物なので、 まずはその復習から!

 根本は、『発想 = 発見 × 探究』であり、発見は常識を疑うところから始まる、であった。そこで何かを見つけたら、なぜ?と掘り続けていくことが探究だ。
 その力をつけるために、身近なモノの代表選手とも言える、ペットボトルで練習しよう。「ペットボトルはなぜあんな形か?」という問いからスタートだ。

 まず『発見』から。
 「なぜあんな形か?」と言ったが、ペットボトルはそもそも、「どんな」形なのだろう。
 典型的な形はどんなで、例外的にはどんなものがあるだろう。数百アイテムが瞬時に頭に思い浮かぶならよし、そうでなければコンビニエンスストアに行って、確かめてこよう!

 そうするとわかる。今のペットボトルは
 ・基本の形は3種類。円柱と正四角柱と長四角柱
 ・中身が炭酸だと全て円柱、他だと四角柱が優勢
 ・四角柱も500ml以下だと断面が正方形で、1L以上だと長方形
 だと。これが「どんな形か」への答えだ。

 次は探究。そうである理由を「なぜ?」と考えていこう。
 「なぜ」を考えるとは、「誰にとってどう便利か」を考えることだった。使うヒトにとってどう便利か、売るヒトにとってどう便利か、捨てるヒトにとって・・・。
 特に500mlペットボトル飲料にとって、ダイジなのは売るヒト、つまりコンビニエンスストアだ。ここに列べてもらえないことには話にならない。
 だから、コンビニエンスストアにとって便利な形になった。それが四角柱だ。
 ハカって見ればわかる。円柱よりも正四角柱の方が、1割以上巾が狭い。つまり、70cmの棚に、10本でなく11本列ぶということだ。スペース命のコンビニエンスストアにとって、これはウレシイ。

 #もう一人の「誰」、地球のための3R

 他のカタチ探究の答えは、前々回号を見てもらうものとして、今号のテーマへと進もう。それは「地球」だ。
 もちろん地球に明確な意思などないわけで、それは自然環境の維持・改善を意味する。その方向性はヒトによってさまざまでもあるだろう。しかしここではその細部には入らず、いわゆる環境負荷(*1)の少なさ、を「地球」の意思としよう。

 ペットボトルたちは、今、地球にとって良い形、を競っている。それはどんな形なのだろうか。

 答えを先に言うと、
 ・リブとくぼみ
 ・薄さと分厚さ
 なのだが、どういうことかわかるだろうか。

 そもそも環境負荷を下げるためには、資源やエネルギー消費を少なくすること、排出物や廃棄物を出さないことである。
 そのための合い言葉がある。それが3つのR(アール)だ。
 ・Reduce(減らす)
 ・Reuse(そのまま何回も使う)
 ・Recycle(回収して資源を再生する)
 ペットボトルも、それらを目指している。当然だ。
 ペットボトルの消費量は国内だけで年間200億本、60万トンに上る。この10年間で倍近くになった。その原料は基本的に石油であり、製造コスト(500mlで12~15円?)の多くをPET樹脂が占める。

 さてこれを、どう減らし、何回も使い、再生しようか。

(*1)環境への負荷を数値化したものとして、①人間が消費する資源量を再生産に必要な面積で現した「エコロジカル・フットプリント」、②工業製品の生産から廃棄まで放出される二酸化炭素量で示す「カーボンフットプリント」などがある(Wikipediaより)


 #Reduceのためのカタチ

 コカ・コーラの「い・ろ・は・す」に代表される「薄いペットボトル」が、日本でもようやく普及し始めて来た。原料の使用量をReduceしたかったら、薄くする、は第一の策だろう。

 ではどれくらい原料使用量が減っているのか、ハカって見よう。2Lペットボトルだと、
 ・旧来品:55g
 ・軽量品(*2):35g
 で、なんと35%減。
 でもそのままでは、薄すぎて強度も低く使い勝手が悪い。
 それを克服するための形が「リブとくぼみ」だ。

 もう一度、「い・ろ・は・す」や「サントリー天然水」や「アルカリイオンの水」をよーっく眺めてみよう。どんな形だろうか。いや、これは「い・ろ・は・す」だけ眺めていてもわからない。
 普通のやつと見比べてみよう。そうすればわかるだろう。
 ・細い環状の凹み(リブ)が多い
 ・真ん中に大きく深いくぼみがある
 ことが。

 前者はまさに紙コップのトップカールと同じく、容器の強度を大きく上げるためのものだ。
 では後者は?

 細くなるから持ちやすい?
 それだけではない。水を入れて、確かめてみればすぐわかるが、深くくぼんでいることで持ち方が変わる。
 握って押さえるのではなく、つまんで引っかける持ち方に。この方が、断然少ない握力で支えられる。
 つまりは容器に強い力がかからなくなり、余分な強度が要らなくなるカタチな訳だ。

(*2)コカ・コーラ、サントリー、キリンビバレッジが1グラム単位で『最軽量』を競っている。


 #Reuse・Recycleのためのカタチ

 一方、Reuseのための形は「分厚くする」。これは、失敗すると環境負荷を高める両刃の剣だ。
 Reuseの優等生は、ビール瓶。平均25回程度使用され、その後も砕かれてまた瓶に再生される。牛乳瓶も同様だ。
 しかしペットボトルの再使用は、日本において殆ど行われていない。そこには、回収率と地域内処理、さらには再使用品の売れ行きという3つの大きな壁が立ちはだかっている。
 1. 再使用に耐えるためにはペットボトルを分厚くすることが必要で、回収率が低いと資源消費量が増えて逆効果になる。90%以上が必須(*3)と言われる。
 2. 同時にペットボトルは安価で軽く、長距離の運搬には向かない。故に地域内で再使用サイクルが完結しないと、運搬コスト倒れになる。
 3. 併売状況下では再使用品も新品と同等の売れ行きでなくてはいけないが、そうなりにくい。

 これらは、形で解決しきれるものではなく、強い制度的な後押しが必要なのだろう。そうでなければ、安価でかさばるペットボトルのReuseは維持できない。
 ペットボトルReuseが成立しているのは、世界でもデンマークとドイツのみであり、ドイツでもその存続が危ぶまれているのが現状である。

 Recycleにしても、同じだ。
 現状のリサイクル率が70%近いと言ってみたところで、その先は一度、カーペットや衣類になって終わり。その先はない。
 回収率が93%を超え、しかも缶から缶へのリサイクル率が60%を超えるアルミ缶と比べるべくもない(*4)

(*3)リユース先進国であるデンマークではデポジット制などを取り入れて、回収率98.5%、再利用回数40回を達成している
(*4)アルミ缶業界がエライと言っているわけではない。アルミを精錬するには多大な電気エネルギーがかかるために、回収して再利用する方が遙かに安上がりだからそうなるのだ。

 #Reduceを超えて・・・

 ペットボトルにおける3つのRを概観してみた。
 ・Reduceは形の努力で原料3~4割減
 ・Reuseは難しく逆効果にも
 ・Recycleにも限界

 もしReduceがさらに進んで、石油使用量などを数分の1に出来るなら、それも環境負荷を下げるには素晴らしいことだろう。
 しかし、もっと効果があるのは、ペットボトルそのもののReduceなのだ。これをRefuse(使わないこと)と呼ぶ。

 ペットボトルは、一般の缶と違い携帯性を備えている。フタを開けたり閉めたりしながら、携帯し、じわじわ飲める。
 おかげで水筒は、売れなくなった。みなが使い捨ての水筒を手に入れたからだ。
 これを今一度、元に戻せないか。いや、革新的な形(デザイン)によって、新しい水筒を生み出せないか。
 消費者自身が、ペットボトルはもう要らない、とRefuse(拒絶)する世界を作れないか。


 これは、みなさんへの宿題とする。

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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