三谷宏治の学びの源泉

[第75回] 自粛と共に滅びぬために~反自粛戦線を!

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 #災害ではなく「自粛」の空気が日本を滅ぼす

 「今ごろ、花見じゃない」と花見自粛を求めた政治家がいた。
 「同胞の痛みを分かち合うことで初めて連帯感が出来てくる」「戦争の時はみんな自分を抑え、こらえた。戦には敗れたが、あの時の日本人の連帯感は美しい」のだそうである。
 一言で言えばこれは、「滅びの美学」に酔うセンチメンタリズムに過ぎない。国民を戦時体制に導くための戦前教育の賜でもあろう。負け戦を必死で戦ってこそ美しい、と。
 しかし驚くなかれ、この時代錯誤的主張への同調者は実に多い。テレビ東京が震災発生から33時間連続で特番を続けた後、レギュラーのアニメ番組を流したら600件の抗議電話・メールがあった(*1)という。「不適切だ」と。
 そういった「空気」に押されて、多くの企業がイベントを控え、新商品を発売延期にした。一生に一度の入社式や卒業式すら。
 いや、無闇な「自粛」に走ったのは個人も同じである。結婚式は延期され、年度末の歓送迎会はあっさり流会となった。その分を寄付に回すとした前向きなものもあるが、多くは「空気」に押されてのものだ。

 ヒトは批判に弱い。一見正しい意見で攻撃されればなおさらだ。もしかしたら自粛することで良いことをしているような気になっているかも知れない。
 しかし、自粛などしても被災者は全く嬉しくないし、むしろ国家的な経済的困窮に繋がるだけなのだ。

 今回の大震災で試されているのは、われわれ一人一人の理性的対応だ。政府や東電や政治家を責めても(頼っても)仕方がない。感情や空気に流されない、各人の判断と行動こそが日本を救うのだ。

(*1)他に90件の激励・応援もあったらしい。


 #なぜ「自粛」がまずいのか~経済インパクト

 今回の東日本大震災で失われた道路や建物、設備などの総額は16~25兆円という。また、生産設備等の被害によりGDPを1~3兆円引き下げると(*2)
 巨大な数字ではあるが、前者は、国富(ストック)の1%弱であり、後者はGDP(フロー)の0.5%弱である。
 これで日本が滅びるわけがないし、経済的破綻に直結するわけがない。

 それよりコワイのは、自粛空気による全体的な経済停滞である。国民みんなが縮こまって外食を半分にすれば、24兆円の半分、12兆円が吹き飛んで100万人以上の雇用(*3)が失われる。
 そこまで行かずとも、毎月外食に行っていたのを1回止めるだけで8%減、2兆円の売上減少、そして20万人分の雇用が失われるのだ。

 我が国の500兆円に上るGDPの6割は直接個人消費に支えられており、ここが消費を8%「自粛」すれば、なんと24兆円のネガティブ・インパクトとなる。それはほぼそのまま雇用や給与の減少となり、企業収益や法人税の減少となる。
 それこそが破滅への道である。
 もっと食べよう、もっと遊ぼう、もっと学ぼう。

(*2)いずれも4/23発表の政府試算。但し東電の電源供給不足や原発事故の広がりに関しては考慮していないもの

(*3)外食産業(飲食店)全体の従業員数は280万人程度(総務省の「事業所・企業統計」)


 #なぜ「自粛」しなくて良いのか~分業

 ヒトがヒトたる所以は、その高度な「分業」能力にある。
 これこそが、われわれホモサピエンスと、ネアンデルタール人(約3万年前に絶滅)との決定的な差だとも言われている。
 ネアンデルタール人に分業という概念はなく、最も重要でかつ危険な作業である狩猟に、女性も子どもも参加していたことがわかっている。男性と同じく腕や頭の骨折痕が多いのだ。
 しかし同時期を生きたホモサピエンスでは、女性や子どもは小動物の狩りか木の実・植物の採集という分業が成り立っていた。
 これにより、集団全体としての「生産性」が高まった。何よりも貴重な子どもたちを生み育てる仕組みができた。集団は大型化し、さらに分業が進んでいった(*4)ものと推定されている。

 現代社会ではそういった分業がはるかに進み、相互の福祉や保険、リスク分散にまで至っている。
 そうすることで、一個人で何もかも対応しなくて済む。得意なことにじっくり取り組める。その技を磨き、生産性を上げられる。
 ヒト一人一人はもちろん確固とした人格を持った独立体だが、経済活動を見たとき、それは全体として人体のようである。ヒト一人一人は細胞だ。
 細胞は分化し、器官を成り立たせているが、同時に血管(物流)や神経(情報ネットワーク)で縦横に繋がっている。
 そして、右手がひどく傷んだとき、残る全体がやるべきコトは何だろう?
 それは、傷んだ右手のために諸活動を自粛して弔意を示すことでは断じてなく、個々器官の役割や得意分野に打ち込むことだ。白血球は救急に現地に走ればいいし、骨髄は血液の増産に励めばよい。肺は呼吸を「自粛」することなく、全細胞が精一杯活動できるよう頑張ればよい。
 心を通わせることと、行動とを混同してはならない。自分たちがヒトであることを再認識し、この高度な分業の恩恵をフルに活用せねば、それこそ破滅への道である。

(*4)分業の効果を突き詰めたのが『国富論』のアダム・スミスであり、T型フォードを作り上げたヘンリー・フォードたち

 #どう「自粛」と戦うのか~ひとりひとり

 遂に被災地から声が上がった。「このままでは経済的な二次被害を受けてしまう」「自粛よりお花見を」「存分にお酒を飲んで」
 岩手県の蔵元からの叫びだ。
 大震災から22日、4/2に『あさ開(びらき)』『南部美人』『月の輪』の皆さんがYouTube(*5)を通じて呼びかけを行った。
 南部美人の五代目 久慈浩介さんは言う。「私も覚悟を決めて、(この動画を)アップしました」
 確かにネットには、便乗商売だ、大した被害でもないのに、との書き込みも多い。きっと訳のわからない電話にも悩まされているだろう。
 『ハナ・サケ ニッポン!』と名付けられたそのキャンペーンは、「お花見」のお願いシリーズとして、④サンドウィッチマンによる東北(宮城)バージョン、⑤榮川(えいせん)酒造による福島バージョン、と広がりを見せてきている。
 お花見をしよう、外食をしよう。

 海外から、義援金は届いても観光客は途絶えた。2010年、年間860万人を数えた訪日外国人数は、このままでは1/3に落ち込むだろう。東京だけでなく、大阪でも九州でも状況は同じだ。
 一人10万円としてもそれだけで6000億円弱が、航空・観光産業から失われる。これを埋められるのは、日本に住むわれわれだけだ。
 観光をしよう、温泉に行こう。

 今年のボーナスはちょっと減るかも知れないけれど、そこで自粛を繰り返したら、それこそが日本経済破綻の時だ。政府の復興エコポイント(仮)とかに頼る必要も時間も無い。求められているのは、今現在の、ひとりひとりの行動なのだ。
 不安な感情や、自粛の空気に流されずに、あえて行動する理性と勇気が今、求められている。
 日本人の底力を、ともに。

 がんばろう、日本!

 ご報告:さる3/27、4/2の両日、無事、第21回三谷家お花見パーティが開催されました。のべ150名ほどに参加いただきましたが、BYOBだったので最後、10本ほどお酒が余りました。お好きな方はお寄り下さい(笑)そうそう、東北のお酒も発注しちゃいましたので。

(*5)4/8現在、『南部美人』は34万回再生されている。

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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