#大震災後のツイッター躍進の原因を考える
今回の東日本大震災で最も活躍したITサービスはツイッターであり、グーグルでした。今回はその躍進のヒミツを、ITや組織でなく、ユーザーの視点から解明してみましょう。
グーグルが震災後、即日立ち上げた消息確認システム「Person Finder」は、60万件以上の消息情報を集め、提供しました。NHKや新聞社等 大手メディアが自社に寄せられた安否情報をグーグルに提供したことも画期的でしたが、各避難所に張り出された手書きの情報が草の根(ユーザー自身)で電子化されたことも大きな成果につながりました。
一方、ツイッターは、それそのものが草の根の塊で、種々雑多な情報がネット上を縦横無尽に駆け巡るための、最も効果的なツールとなりました。震災の月に、ユーザー数(PC使用)は一気に5割弱増え、1,757万人となりました(ニールセン調べ)。
さて、このツイッター躍進のことを社内で議論することになったとして、まずは自分としてはどう考えましょうか。躍進の原因は一体なんだったのでしょうか。
ツイッターってすごかったんだよ! ではダメですよね。
「重み」と「差」で考える『重要思考』でいきましょう。主体者(DMU(*1))にとってダイジなコトをはっきりさせるのです。
3月に増えた500万人のユーザーたちのことをここでは「3月新ユーザー」と呼びます。この新ユーザーたちにとって、ダイジなコト(「重み」)は、なんだったのでしょう。そしてそれにおいて、ツイッターはどの程度、他の手段やサービスに比べて優れていた(「差」)のでしょうか。
そういう順番で考えるのが、正当です。
でもこんな順番でも構いません。
ツイッターが他のSNSサービスに比べて、優れていることはなんでしょう。そしてそれらは、特に3月新ユーザーにとってダイジなコトだったのでしょうか。
前者が、「ダイジなコトから考える」やりかたで、後者が「差から考えてダイジかどうかに戻る」やりかたです。どちらでも構いませんし、どちらもできた方がいいでしょう。
でもすぐ「差」だけ考えて終わらないように、「ダイジなコトから考える」クセをつけるように頑張りましょう。
(*1)Decision Making Unit 購買意思決定者
#3月の新ユーザーにとってダイジなコト
ツイッターの基本的な仕組みは、140文字以内による「つぶやき(ツイート)」と、他者を勝手に「フォローする 」こと。それにキーワード(特に「ハッシュタグ 」)による検索機能。極論すればこれだけです。
全員が発信者であり、受信者であるわけですが、ユーザーのほとんどは「見るだけ」でつぶやかず、1日に1回以上つぶやく人は1割強に過ぎません。
でもその一部の発信者側は強力で、1日平均数十ツイートを放ち、国内2000万ツイートを支えています。そして、そのフォローによるツリー構造に支えられ、ヒトの興味をひいた情報があっという間に「拡散」(拡散とは本来、広まって濃度が薄まることだが、ここではネットで使われる「広範囲に伝播する」の意味で用いる)していきます。
さて、説明はこれくらいにして、3月新ユーザーがこんなに増えた理由を考えてみましょう。彼・彼女にとって、なにがダイジだったのでしょうか。
ユーザーがツイッターに求めるもの(利用し始めた理由)は、東日本大震災前だとこんな感じでした(11年4月 IMJモバイル調べ)。
・有益な情報を収集できるから(47%)
・有名人の書き込みが見られるから(39%)
・知り合いの様子がわかるから(31%)
でも、震災後はこんな理由が大きく増えました。
・非常時の連絡手段として利用できるから(15%から39%に)
他方大きく減った理由もあります。
・楽しそうだから(39%から19%)
・自分の考えや体験が共有できるから(27%から12%に)
・日記の替わりになるから(21%から10%に)
明らかに、3月新ユーザーは情報発信や楽しみでなく、非常時の情報収集や連絡の手段としてツイッターを求めたのでした。そしてそのダイジなコトにおいて、ツイッターは非常に優れた能力(差)を発揮したのです。
地震にも津波にも止まることなく、良くも悪くも偏ることなく。
#重みをもっとはっきりさせる
本当にダイジなコトを知るときには、こんな尋ね方をするとよくわかります。
「この商品やサービスを知り合いに奨めますか?」
「奨めたい点はなんですか?」
ツイッターユーザーは、地震直後にツイッターが非常に役立ったと評価しています。それはフェイスブックユーザーに比べても顕著で、最高評価の「役に立った」が45%(「やや役に立った34%」は)に達します。(フェイスブックは30%と32%)
結果、知り合いに奨めたいというヒトは全体の約6割。ではそのヒトたちにその推奨理由を尋ねてみましょう。
ダントツに高い項目が2つ。それが、
・有益な情報を収集できる(60%)
・非常時の連絡手段として利用できる(57%)
です。この回答は全体のものですが、3月新ユーザーもおそらく同様でしょう。かつ、3月新ユーザーの特色は、利用し始めたきっかけが「流り」とか「周りがやっていた」ではなく、「知り合いに奨められたから」なのです。
・震災後、情報収集・連絡手段として用いる→その評価が高い→知り合いに奨める→その人が情報収集・連絡手段として使い始める→その評価が高い→・・・
といったサイクルが回った様子がうかがえます。
さて、これで説明になったでしょうか。
問い:ツイッターが大震災後に数百万人の新ユーザーを獲得したのはなぜか?
答え:震災後に新たに使い始めたヒトたちにとって重要だったのは情報発信や楽しさではなく「震災情報収集」と「緊急連絡」手段の確保だった。それに対してSNSではツイッターが最も優れた能力を示したが、特に新規ユーザーは知り合いからの推奨によって使い始めるため、新規ユーザーが大きく伸びることになった。
どうでしょう? まだ何か足りませんか?
そうですよね。ダイジなコト(重み)に注力しすぎたために、差の方が曖昧です。今度はこっちをなんとかしましょう。
#差をもっとはっきりさせる
「差」の部分を、「それに対してツイッターが最も優れた能力を示した」なんて、さらっと言っちゃいましたけど、何と比べてどうだというのでしょう。範囲も程度もわかりません。
これでは主張の「塊」として、失格です。
たとえば「震災情報の収集能力」を、他の手段と比べてみましょう。
テレビはその映像力を遺憾なく発揮し、被災地の状況を流しつづけました。そのリアリティは圧倒的でしたが、すべてのテレビ局がまったく同じ行動(一番衝撃的な津波映像を流しつづける)をとったために、個別の情報(地域別、テーマ別、組織別)はほとんどが流れることなく埋もれました。
震災後数日は、携帯電話もダメでした。通話回線がつながらなくなっただけでなく、携帯メールや携帯専用サイトも大幅な遅延や混雑を招きました。
その中でも動き続けたインフラが、インターネットであり中でもクラウド型のシステムに守られたツイッターやグーグル、フェイスブック、ミクシィといったサービスでした。
これらのサービスは、まずは「大震災時の稼働性」において、他のメディアに大きく差をつけたといえるでしょう。
グーグルもすぐさま震災関連のサイトリンク集である「Crisis Response」を立ち上げましたが、ツイッターはそれを上回る情報提供源となりました。それは種々の公式アカウントによる情報提供が活発だったこと、そして、あらゆる情報の告知媒体としてツイッターが活用されたことにあります。
情報発信者にとっては、サイトにおける公式発表より、短文のツイッターならより気軽かつ迅速に情報を提供できます。
また「フォロー」の仕組みによりツイッターでは、情報がプッシュ的に流れ、より素早く広範囲に拡散可能です。フェイスブックは基本的に許可制の友人関係をベースにしているのでこれがありません。
ツイッターは「情報発信の容易性・迅速性」と「拡散力」がグーグルより、そしてフェイスブックより格段に優れていたわけです。
#別のアプローチで考え方の復習を
今は「大震災後のSNSにおけるツイッターの躍進原因」をトップダウン的に(つまりダイジなコトから)考えてみました。
逆でもいいんです。
震災直後のツイッターって何がすごかったかな? から始めましょう。
・止まらずちゃんと動いた
・いろいろな震災関連ツイートがいっぱい流れた
・信頼できそうで役に立つ公式アカウントがいくつもあった
・自分が見聞きしたことをすぐ発信できた
・気に入ったツイートをリツイートすることで、他の人にも共有できた
・被災地からの生の声や叫びが伝わって、人々が動いた
・デマもいっぱい流れた
・マスメディアと違って東電・原発関係者や枝野官房長官への応援メッセージが多かった
まずは曖昧で構いません。塊やつながりを明確にする前に、「これってダイジなのかな?」と考えてざっと選別します。
でもそれは、誰にとって、なのでしょう。
ツイッターの躍進を、新しいユーザーの大幅増加、としているので、「誰」は「3月新ユーザー」です。
震災以降新しくユーザーになったヒトたちは、これらのことをすべてすごいと思っていたのでしょうか。彼・彼女らは、ツイッターに何を求めていたのでしょうか。
もちろんデマを求めていたわけではありますまい。どんどん発信するタイプのヒトたちでもなさそうです。
周りの人に聞いてみましょう。もしくはそういったユーザー調査がないか簡単に調べてみましょう。そして、ありそうな「差(ツイッターがすごかったこと)」に絞り込んで、それが本当に「3月新ユーザー」に とってダイジなコトだったのか、を調べていくのです。
どちらも『重要思考』です。今回は、震災直後のツイッターの躍進を題材に、その考え方の練習をしてみました。
これこそが、強いコミュニケーション力のベースです。そして、ビジネス戦略、CRM等々を学ぶときの根幹となるものでもあるのですが、そのお話はまたの機会に。
お知らせ:8/11に東洋経済新報社から『ペンギン、カフェをつくる ~ビジネス発想力特訓講座』が発刊予定です。今、追い込み作業中です(笑)
ペンギンのルークも登場してとても楽しく、発想の15の視点を学べる本になっています。お楽しみに。
また、10月には今回のテーマである『重要思考』をベースにした『伝える技術(仮)』を発刊予定です。これは今まさに、原稿執筆中。
どう考え、どう伝え、どう聞いて、会話・議論するのか。相手とかみ合う・価値ある議論の力をつけるためのバイブルとしたいと思っています。