三谷宏治の学びの源泉

[第80回] ポスト ポウスト チーム ティーム

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 #次女の受験勉強から生まれた「ポスト」問題

 大きなダイニングテーブルの一角(というか二角)を、次女が占拠して早、数ヶ月。次女がもくもくと受験勉強をしています。
 手放せないのが電子辞書。ときどき、耳を近づけています。あ、今日もまた。
 ちょっと離れた私には「?うすと」と聞こえました。

 次女に尋ねました。「toast? post?」
 「postだよ。ポウスト」
 ふむふむ、考えてみると、これは結構面白い。

 post、という英単語があります。

 名詞では、郵便(郵便物や郵便局や郵便箱)や職位のことであり、動詞では、投函する、貼り付ける、告示する、まっすぐ立てる、配置するという意味があります。

 だから、ポスター(告示物)、ポスティング(チラシ投函)サービス、マルチポスト(重複投稿)なんて言葉もありますよね。日本語でも使われています。

 フシギなのはその発音と表記のズレ。

 postもposterも、英語での発音はポストでなくポウスト。
 mostもそうですが、「オ」でなくはっきり「オウ」なのです。
 なんでカタカナにするとき、ポウストにしなかったんでしょう・・・。(これは今のところ不明)

 さて、ここからが問題です。

 ポウで始まる日本語はあるでしょうか?(外来語や、擬声語等は除く)

 単語の途中ならいくらでもあります。
 憲法、拳法、割烹、梱包、連邦、連峰、一方、前方・・・。
 でも先頭に「ポウ」とつく単語はなさそうです。
 これは、一体なぜなのでしょう?

 #なぜ「ポウ」で始まる日本語がないのか?

 それは多分、「ほ」が「ぽ」だったから。
 正確には、昔は「ほ」と書いて、Poと発音していたから。

 もう少し詳しく言うと、「は行」の発音は歴史的に、
 Pa(奈良時代以前)→Φa(奈良~平安末期)→Ha(江戸以降)
 であったことがわかっています。(昔の発音をどうやって調べたのかは『ハカる考動学』参照)
 大昔は、「法」だってPouと発音していたのです。それが全部、Hou(やOu)に変わってしまいました。
 Pouの音は語中でのみ、しかも撥音「ん」や促音「っ」の後ろにおいてのみ残存・再生したのです。
 だから、先頭にPouとつく単語はありません。

 いや、Pouだけでなく、パピプペポのどれも(外来語や擬声語等以外では)、先頭には来ないのです。
 ピン芸人のピンだって、ポルトガル語のPintaからきた外来語なんですから。

 #NHKの「ティーム」問題

 postがなぜポウストでなくポストと表記されるようになったかは、ナゾのままでした。
 明治時代に編纂された『大言海』を調べても、あっさり「ポスト:英語のPost、郵便物や郵便箱のこと」と書いてあるのみ。
 ポウストと書こうかどうか、悩んだ跡は見つかりませんでした。

 外来語をどう発音・表記するのか、は外来語好きの日本語にとって大きな問題です。
 最近気になるのはNHKの「ティーム」問題。
 NHKのアナウンサーたちはここ数年、チームのことを必ず「ティーム」と発声しています。メジャーリーグであろうが高校野球であろうが、関係ありません。「このティームの特長は・・・」とか話します。
 しかも、テロップ等での表記は「チーム」のまま、発音だけ(しかも一部だけ(*1))英語風にしているのが最悪です。

 ポストでは、元の発音とまったく違う表記(と発音)が日本では定着してしまったことが問題でした。でも、ポストと書いて、ポストと読んでいるのでまだましです。
 しかしNHKはなぜかチームと書いてティームと読むべし、と主張しているわけです。
 なぜこんな「表記と発音をズラすべし」という大胆な提案を、NHKが白昼堂々、公共の電波と組織とわれわれの払う受信料を使って行っているのか、まったく理由はわかりません。
 わかるのは、誰もそれを正さない、ということだけ。そのうちポスト・シーズン、とかも「ポウスト」シーズンと、発音するようになるのでしょうか・・・。

(*1)発音記号では tí・m であって、tí・mu ではない。

 #言葉のつくり方、守り方

 言葉は時代とともに移り変わります。新しい単語が生まれ、発音も変わり、死んでいく言葉も出てきます。
 昔は「お茶」はテーでしたが、今ではティーが普通です。ただしフランス語由来だと、テが正しい(カフェラテとか)というややこしさ付きで。

 1985年発行の『NHKアナウンス・セミナー』によれば、外来語での「ti」「di」の発音について、
 ・ 第一原則は「ティ」「ディ」とする
 ・ 第二原則として慣用が熟している言葉は、「チ」「ジ」とする
 のだそうです。そこで第一原則派は「ティーム」とやり、第二原則派は「チーム」と発音していたのでしょう。
 そして局内で徐々に第一原則派が勢力を伸ばし・・・。ああ、クダラナイ。

 NHK職員のみなさんへ。

 放送はアナウンサー個々人の主義主張の場ではありません。プロなんですから日本語をどう発音するかは、必ず揃えてください。
 かつ、勝手に表記と発音をずらさないでください。これはアナウンサー(発音担当)対ディレクター(テロップ担当)の戦いなのでしょうか? ちゃんと話し合って、表記と発音を揃えてください。


 ダイニングテーブルの一角で、もくもく受験勉強を続ける次女は、父がこんなことまで調べたり考えたりしたことは、もちろん知らない。
 電子辞書の発音機能って便利だね。そこから始まった、一考察であった。
 あ~、ちょっと面白かった。


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プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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