三谷宏治の学びの源泉

三谷宏治の学びの源泉

[第90回]『実例で必ず身につく! 一瞬で大切なことを伝える技術』発刊記念(前編)

 #富士通マーケティングの新人たちに『伝える技術』を伝えてみたら・・・

 春4月、今年も富士通マーケティングの新入社員研修のお手伝いをしました。「伝える力と決める力」をテーマに2時間半。1ヶ月にわたる新人研修の、ほぼ冒頭でのセッションです。
 超氷河期ともいわれる最近の就職戦線を勝ち抜いてきた若者たちは、なべてとても意欲的で、でも素直です。個性がないと揶揄(やゆ)されることもありますが、よくみるとトンガってもいます。何よりそんな揶揄に負けない気概(きがい)を持っています。
 でも気概だけで、世間は渡っていけません。まわりは鬼ばかりなのです。だからスキルが必要です。知識や経験に頼らず、考え、そして伝えるためのスキルが。
 それは実は、新人だけでなく社会人すべてが求められていることでもあります。
 昨今(さっこん)の事業環境(含む、震災・洪水などの自然災害)は、これまでの常識が通用しないことばかり。解決方法が難しいだけでなく、問題そのものが曖昧な世界になってきています。

 東日本大震災後、地震学のプロたちは自戒を込めてこう言いました。「東北にそんな危険が潜んでいることを、想像もできていなかった」「これからの数十年は、われわれの知らない日本列島になる 」「しかしだからこそ今、研究を続けなくてはいけない」
 そこではもう、過去の経験やノウハウといったものがムダなどころか邪魔にすらなってしまいます。新入社員たちは、そして会社全体は、どうやってそんな力をつけていくことができるのでしょうか。
 そうそう、この『伝える技術』セッションを経験した新人たちは、その後どうだったでしょう。私のセッション中はとても熱心に取り組んでいましたが・・・。

 そうしたら最近、こんなことを人材開発部の方から聞きました。
 その研修中、別のセッションの講師の方が驚いていたというのです。課題を与えられた新人たちが、あまりにテキパキと「役割分担と時間配分は?」「決め方はどうしようか」「まず大きな方向性は何があるかな」と議論を進めていくので。同じようなことをリーダークラスにやってもなかなか右往左往(うおうさおう)するばかりで進まないというのに、大したものだと。

 こういう時代に、新人たちは実は有利です。捨てるものがないから。新しい考え方を素直に身につけ、素直に使っていけばいいのです。
 あとは上司たちがそれを邪魔せず、伸ばすだけ(笑)

 #上尾中央医科グループの老人介護保険施設スタッフたちの「重要思考」

 上尾中央医科グループ(AMG)は日本有数の医療グループです。埼玉県上尾市の上尾中央総合病院を基幹として、関東一円に27病院10クリニック20介護老人保健施設等を擁(よう)し、医師・看護師・介護士・事務などの職員はなんと1万4000人弱。
 ここでも『伝える技術』の実践と展開が始まっています。
 現場において必要なのは、まずは医療・介護の専門知識であり専門スキルです。しかし、それだけでは顧客(患者・入所者とその家族)満足度は上がりませんし、医療・介護事故も減らせません 。結果として病院経営も立ちゆかなくなるでしょう。
 今求められているのは、コミュニケーション力や判断力といった「ノン・テクニカル(非医療技術)スキル」なのです。

 AMGのグループ事務局では、この論理的な考え方や伝え方をグループ全体に浸透すべく、数年前からさまざまな研修や活動を行っています
 たとえば事務職員の主任初任者研修の一部として、看護師のファーストレベル研修 に数時間のコマとして、さらには次世代幹部職員育成のための「戦略的経営研究会」研修においてまで。求められれば施設丸ごとのオリジナルの研修も行います。
 介護老人保健施設(老健施設)である「三郷(みさと)ケアセンター」では、主任・副主任クラスのみなさん9名が業務後、6回の1時間半セッションに取り組みました。研修のテーマは「自分を知り、今できることを考える」でした。
 老健施設への入所基準は法律で定められており「病弱な寝たきり老人」か「認知症老人」です。つまり老健スタッフにとって、その介護対象の多くが寝たきり、もしくは強い認知症の老人なのです。ナニゴトも簡単にはいきません。なんとか業務をこなすのが精一杯の毎日でした。

 でも、この「重要思考」を中核とした6回の研修を通じて、大きな変化が生まれたのです。
 新しい目標が定められ、具体化され、実行に移されました。それらは何より、スタッフの笑顔を生みました。そして「顧客」たちの状態にも大きな改善が!
 目標を定め、それをどう実行するかをちゃんと考える。「重要思考」を用いた数時間のセッションの威力、と言えるでしょう。

 #ルネサンスのマーケティング改革

 フィットネスクラブ業界3位のルネサンス。79年にDIC(旧 大日本インキ化学工業)の社内ベンチャーとしてスタート以来、群雄割拠・合従連衡の荒波 を乗りこえてきました。
 ルネサンスでは約100のフィットネスクラブ施設を中心に、従業員約700名、その他スタッフ1000人余が働きます。
 フィットネスクラブは施設型産業とも言われますが、その原価に占める比率は35% ほど。人件費関連はそれを上回る(37%)のですから、ヒト(従業員など)がダイジであることに疑いはありません。かつ、大きなお金を投じていったんつくってしまった施設は、簡単には移転することも改装することもできません。それをどう活かし、収益を上げていくかはまさにヒト次第なのです。

 2010年、ルネサンスは各施設でのマーケティング力を上げるために、エリアマネジャーや支配人向けの研修に取り組みました。目的は「実務につながるマーケティング基礎研修」です。
 ところが外部の研修講師にあたっても、「基礎からならば、まずは基本知識であるマーケティングの4Pから」とかの学問的知識とフレームワークの内容ばかりで、ちっとも実践的に見えません。業を煮やした経営企画部の若手が叫びました。
 「それなら私がやります!」

 彼は社会人大学院で学んだ「重要思考」をそのまま用いて、マーケティング計画づくりとそれを基にした本社・現場間の議論の枠組みをつくり上げました。
 「お客様にとって重要なところで競合と継続的に差をつけられるか?」を本社と現場長の、マーケティング上の共通言語にしたのです。
 もちろんまだまだ道半ば。でもすでに、いくつかの施設からは「これを実現すれば競合に勝てる!」という計画が練り上げられて来たといいます。
 ルネサンスは今、この『伝える技術』そして「重要思考」を組織全体に共通言語 として広めるべく、大きく舵を切りつつあります。

 『実例!伝える技術』の位置づけ

 前著『一瞬で大切なことを伝える技術』(以下『伝える技術』)は望外のヒットとなり、これまで数万人のみなさんの手に渡りました。
 有隣堂書店 ヨドバシAKIBA店では半年にわたりビジネス書ランキングで10位以内に入り続け、啓文堂書店ではビジネス書大賞に選ばれて全41店舗で6月1ヶ月間、強力展開いただきました。
 それ以前も、その中核となる「重要思考」は、K.I.T.虎ノ門大学院やグロービス経営大学院、早稲田大学ビジネススクールなどで、社会人向けに(そして子どもたち・親たち・教員のみなさんに)お伝えをしてきました。その数、延べ1万数千人。

 その中でこんな声が聞こえてきました。
 まずは「どうしたらこの「重要思考」を自分のものにできるだろう」「どうやったらこの技をチームや組織に拡げられるのか」という問い。
 そして同時に「使ってみたら、うまく使えました」「こうやって「重要思考」を組織に広めようとしています!」「さっそく成果が出てきました」という答えたち。
 であれば、それをつなげるのが「重要思考」の開発者たる私の役割でしょう。多くの実践現場を取材し、この実践例中心の新刊『実例で必ず身につく! 一瞬で大切なことを伝える技術』(以下、『実例!伝える技術』)となりました。

 「重要思考」での思考法やコミュニケーション法を説いてロングセラーとなった『伝える技術』に対して、それを実際にどう使い、どう組織に広めるかという視点でまとめたのがこの『実例!伝える技術』です。
 でもこの本は、単純な銀本の「続編」ではありません。目的を同じくした姉妹本です。これ単独で読めますし完結しています。しかし「重要思考」を身につけるためのアプローチが異なります。理論で迫る前著に対し、この『実例!伝える技術』はその名の通り実例で迫ります。
 さまざまな人々や組織が登場し、いろいろな状況で「重要思考」による「伝える技術」を駆使して成果を出していきます。架空の例はひとつもありません。12例すべて、リアルな実例です。
 ご自身の、興味あるテーマ・実例からじっくり味わっていただければと、思います。

 学びの源泉第90号は、発刊記念の前編として本書の内容の一部(「はじめに」と「プロローグ」)をいち早くお届けしました。7/23発刊、初版本にのみ無料セミナーの予約チケットが付いています。ご予約、ご購入はお早めに!

参考:『実例で必ず身につく! 一瞬で大切なことを伝える技術』(かんき出版)
一瞬で大切なことを伝える技術』(かんき出版)

プロフィール

三谷 宏治 氏

K.I.T.虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に小学生から大学生)の道へ。 近著に「ペンギン、カフェをつくる」「お手伝い至上主義でいこう!」「ルークの冒険 ~カタチのフシギ」「コンサルタントの整理術」「ハカる考動学」「発想の視点力」「正しく決める力」「観想力 - 空気はなぜ透明か」など。早稲田大学ビジネススクールおよびグロービス経営大学院 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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