三谷宏治の学びの源泉

[第98回]MECEのワナ

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 #「MECE」って、何者なんだろう

 日本で論理思考(Logical Thinking)を学ぼうとすると、「MECE」の練習から始まります。MECEは、Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの略で、ふつうは ミーシーと読み、「漏れなくダブりなく」とも訳されます。
 互いに(mutually)、排他的で重ならない(exclusive)が、集めると(collectively)、全体になってスキマがない(exhaustive)、というわけで、イメージは嵌め込みのパズルです。

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 ではなぜこれが、論理思考の基礎かというと、ふつうの人間の思考には、あまりにも「漏れ」や「ダブり」があるからです。
 例えば「AとBのどちらにするか決めろ」と言われても、AとBの他に、有力なCという選択肢があるなら、決められません。「漏れ」がありすぎです。
 逆に、AとBがほとんど同じことだったら? これまた、選びようがなくなってしまいます。(どっちでもいい、という決め方はあるが)「ダブり」すぎです。

 だからいつの頃からか、MECEにモノゴトを整理することが、論理思考の基礎だということになりました。
 でも、MECEに拘るがあまり、人々はいろいろなワナに落ちるようになりました。

 #MECEのワナ(1):7~8割でいいのに...

 MECEのイメージは嵌め込みパズルです。全体があって、それをスキマなく埋めるピースに「分解」していくわけです。
 例えば人間は、年齢別に分解でき、それはかなり厳密にMECEです。10歳刻みでも、1歳刻みでもそうです。
 でも性別となると簡単ではありません。男女の他に、性同一性障害の人をどう扱うのか、性転換者をどちらに分類するのか、性指向(男女どちらが好きか)の分けは...。全体の10%未満かもしれませんが、厳密にMECEであろうとすると、結構大変なのです。
 もしその「論理思考」の目的が「性別の厳密な定義」ならそのMECE追究にも意味があるでしょう。でもほとんどの場合、「男女別」で十分です。なぜなら、われわれが日常、ビジネスで求められることがそうだからです。
 多くの場合、「7~8割押さえてるならOK」なのです。2~3割のスキマは後回しで構いません。7~8割の中で1~2割ダブルカウントしていても、誤差の範囲内です。「強いニーズを示していた人が30%いた!」と「強いニーズを示していた人が27%いた!」でなにか結論が変わるでしょうか?
 われわれが拘るべきは、モノゴトをすべてMECEに切り分けることではありません。ダイジな7~8割をちゃんと捉えられたかどうかなのです。

 #MECEのワナ(2):足し算だけじゃないのに...

 英語版Wikipediaを見ると、MECEとは「全体をそのサブセットに分けること」とあります。これはまさに嵌め込みパズルのイメージです。
 でも、そういった「足し算」ばかりがモノゴトの分解法ではありません。「掛け算」もあれば、「方程式」もあります。
 例えば、ラーメン店チェーンの売上高は、さまざまに分解し得ます。足し算型なら、
 [1]売上高=Σ(都道府県別の売上高)
 [2]売上高=既存店の売上高+新規店の売上高
 [3]売上高=駅前型店舗の売上高+ロードサイド型店舗売上高
 いずれも完璧なMECEです。[1]では都道府県毎や地域別の調子がわかり、[2]では全体の伸びが新規店効果だけなのかどうかがわかります。[3]なら店舗立地別の伸びがわかるでしょう。
 でもこんな「掛け算」も、よく行われます。
 [4]売上高=店舗数×店舗当たり売上高
 [5]売上高=顧客数×顧客単価
 [6]売上高=従業員数×従業員一人あたり売上高
 どれもMECEであり、かつ、足し算では得られない、さまざまなことを教えてくれます。
 売上の伸び(もしくは停滞)はいったい何の効果だったのでしょう。店舗数が増えたお陰なのか、店舗当たり売上が増えたお陰なのか。顧客数が伸びたためなのか、客単価が上がったためなのか。はたまた従業員の生産性が上がったことが、理由なのかもしれません。[4][5]を組み合わせれば、
 [7]売上高=店舗数×店舗当たり顧客数×顧客単価
 も出来ます。かなり問題の把握がし易くなりました。さらにこれを、足し算の[2]と組み合わせて、
 [8]売上高=既存店舗数×既存店舗当たり顧客数×既存店顧客単価+新規店舗数×新規店当たり売上高
 という方程式にしたらどうでしょう。

 これらは完璧にMECEですが、嵌め込みパズルではもう表しきれません(不可能ではないが、わかりにくくて意味がない)。
 だから、こういった「ロジックツリー」的な思考をするときには、嵌め込みパズルのイメージを捨てましょう。
 大きく足し算で分けた後は、空間に浮かぶ立方体を思い浮かべて、掛け算のイメージを膨らませませるのです。

 #MECEの本当の価値:全体は何か!

 実はモノゴトをMECEに表現するのは(言葉の上では)簡単です。「A」と「A以外」(*1)と言えば良いのです。
 でもその前提が2つだけあります。
 ・Aがちゃんと定義されていること
 ・全体がちゃんと定義されていること
 です。
 A以外がいくらゴチャゴチャいっぱいあろうと、全体がハッキリしているのなら、それは「全体からAを除いたもの」と言えるので大丈夫。
 MECEの本当の価値はここにあります。
 MECEはわれわれに、「全体は何か」と問いかけているのです。

 例えば、マクドナルドの占める市場シェアをAとしましょう。Aの定義は「マクドナルドの売上高」で明確です。
 では「全体」は?
 これを「全ハンバーガーショップの売上高」とするのか、「全ファーストフードチェーンの売上高」とするのか。はたまた「全外食市場の売上高」とするのかで、話はまったく変わってきます。
 いや、すでに外食として外に出ている分ではなく、家庭の内食や、お弁当などの中食市場を全体とすることすら、可能でしょう。
 逆に「全体」を絞るということも可能です。拡げすぎるのではなく「時間のない、肉好きの人々の外食・中食・おやつ」という定義に回帰する、ではどうでしょう。
 そうであれば、あの「ENJOY! 60秒サービス(*2)」の意味もわかります。「短時間イメージ」を強く訴求するための(成功か失敗かは別として)、国内3300店舗を挙げたキャンペーンだったわけです。

 論理思考もMECEも、思考のツールや原則に過ぎません。それに振り回されるなんて論外です。
 MECEは「7割でOK」と割り切りましょう。そして、全ての基礎でなく「ロジックツリー作成時のテクニック」と理解しましょう。
 ただ、「全体」に思いを馳せることを忘れずに。そこにこそ、MECEの価値がある
のですから。

詳しくは、3月28日発刊の、『超図解 全思考法カタログ』書店版をご参照ください。昨年末にコンビニエンスストア限定で発売されたものに、ワークシート16頁分が追加されています。

(*1)足し算型の場合。掛け算型なら「A」「全体をA で割ったもの」と言えば良い。[6]参照。

(*2)2013/1/4~1/31 まで実施。会計終了後から60 秒以内にサーブ完了できなかったら、「お好きなハンバーガー無料券」などを提供するというもの。

参考図書:書店版『超図解 全思考法カタログ』ディスカヴァー・トゥエンティワン(3月28日発刊予定)

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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