三谷宏治の学びの源泉

[第110回]スマホが子どものネット利用時間を3割増にする~東京都A中学校での全校調査から

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 #ネット利用時間と学力の「へ」の字な関係

 前回、文部科学省による全国学力テスト(2013)の面白い結果について紹介しました。
 子どもたちのテレビの視聴時間やインターネットの利用時間(スマートフォンの利用を含む)と、成績との間に、明確な「へ」の字型の関係があったのです。たとえば中3ではこうでした。

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〔出所:文部科学省「全国学力・学習状況調査」(2013)より三谷作成〕


 この結果と「マシュマロ実験」の結果(最新のものも含め)から、「ネット依存の危険性」や「子どもたち自身の自制心や状況理解の重要性」が言えるのではないか、と論じました。
 今回は、東京都内のA中学校全校で2013年10月に実施された全校生徒アンケートの結果から、もう一歩、「子どもたちが理解しておくべきこと」「親・教員がやりうること」を考えたいと思います。

 #スマートフォンがケータイ利用時間を倍加する

 以下、従来の携帯電話端末を「ガラ携」、スマートフォンを「スマホ」、両方を合わせて「ケータイ」と呼びます。
 A中学校の場合、平日のケータイ利用時間は全校平均で、
 ・ガラ携派:1.5h
 ・スマホ派:3.2h

 となりました。なにかをしながらの利用も多いでしょうが、「なし」「ガラ携」「スマホ」の各派で大差がつきました。自宅にあるパソコン(以下PC)の利用時間も合わせると、ネット利用時間は、
 ・なし派:1.3h(+1.3h:うちPC利用時間)
 ・ガラ携派:2.8h(+1.3h)
 ・スマホ派:3.6h(+0.4h)

 となり、なし派とスマホ派では2.3hもの差があり、スマホ派はガラ携派の3割増しとなっています。
 また、PC利用時間を見ると、スマホ派はPCをあまり使わず、ほとんどをスマホで済ませていることがわかります。
 意外なことにこの傾向には、男女差や学年差はあまりありません。

 #男女ともケータイはメールやライン、男子はゲーム、女子はツイッターにも使う

 ケータイやPCの用途を尋ねたところ、PCは男女ともに「調べ物」と「ゲーム」で同じでした。
 しかし、ケータイの使い方は、男女で大きく異なります。スマホ派で見れば、ともに「メール」「通話」「ライン」は75~95%の利用率ですが、
 ・男子:ゲーム利用
が88%、Twitterはほとんど使わない(スマホ派でも18%)
 ・女子:スマホ派ではTwitterも38%が使う
 女子は特にコミュニケーションツールとして、男子はゲーム機(と恐らくは動画視聴機)として使っていることがわかります。
 これらの結果として明らかに起こっているのは、就寝時刻が遅くなること、と、睡眠時間が短くなることです。
 平日の就寝時刻は1~3年生で大きな差がありますが、平均すると、
 ・なし派:23時6分
 ・ガラ携派:23時24分
 ・スマホ派:23時36分
 となります。ケータイの有無で20~30分、違うわけです。
 ここでガラ携派とスマホ派で大差がないのは女子の影響です。女子の場合、就寝時刻はガラ携派とスマホ派ともに23時36分でまったく変わりません。
 互いのコミュニケーションのツールなので、ガラ携でもスマホでも、夜、寝る時間は同じになる訳です。ケータイを布団のなかでも握りしめている女子生徒たちの姿が目に浮かびます。

 #スマホの利用が、中学生の睡眠時間不足につながっている

 公立中学生の場合、何時に寝ようと基本的に起床時刻は大差ありません。就寝時刻が遅くなれば、必然的に睡眠時間が削られます。平日の睡眠時間は、
 ・なし派:7.9h
 ・ガラ携派:7.6h
 ・スマホ派:7.4h

 で、ガラ携派はなし派より18分短く、スマホ派はさらに12分短くなっています。
 男子の場合、ガラ携派はなし派と同じ睡眠時間を確保していますが、女子の場合、ガラ携派はスマホ派と同じ睡眠時間になってしまっています。
 こんな「平均値」より問題は、短睡眠になってしまっている子どもたちの比率・人数です。平日の睡眠が6.5h以下の生徒の比率は、
 ・なし派:13%
 ・ガラ携派:20%
 ・スマホ派:27%
 で、ケータイの有無で大差がつきます。女子の場合、これが顕著で、
 ・なし派:14%
 ・ガラ携派:25%
 ・スマホ派:29%

 しかし男子の場合には、スマホ派だけが短睡眠気味との結果が出ています。
 ・なし派:12%
 ・ガラ携派:14%
 ・スマホ派:24%

 この「短睡眠」は問題なのでしょうか?
 大いに問題です。睡眠時間が短いほど、また、特に就寝時刻が遅いほど、訴える「不定愁訴」の数が格段に多くなることがわかっています。
 また、朝食を採らなかったり、抜いたりという率が若干高くもなっています。

 #中学生はケータイ所持率やスマホ率の地域差 大!ゆえにネット利用時間にも大差あり

 小中学生の場合、実はケータイの所持率には大きな地域差があります。2013年の全国平均は68.5%でしたが、
 ・上位県:神奈川85%、東京82%、大阪80%、千葉79%、埼玉76%
 と首都圏・大都市圏が並び、
 ・下位県:佐賀46%、秋田47%(1)、鳥取48%、山形49%、石川49%(3)、...、福井52%(2)、富山52%(5)、...岐阜57%(4)
 とそれ以外の地域が並びます。()内は全国学力テストでの都道府県別順位であり、上位県がいずれも携帯所持率の低い県であることは、興味深い現象と言えるでしょう。
 地域別に、「スマホの比率」も大きく異なります。
 全国平均では中学生の持つケータイの34%がスマホですが、東京都では51%、A中学では63%がスマホでした。(いずれも2013年8~10月の調査)
 ケータイ「なし」も含めた比率はこうなります。

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〔出所:A中アンケート、警視庁、文部科学省、ベネッセ調査より三谷作成〕


 その結果として、インターネット利用時間が地域によって大きく変わります。平日では、
 ・全国平均:1.5h程度
 ・東京都23区A中:3.0h
 と1時間半もの差がつきます。いや、平均などではなく利用時間の分布で見ましょう。

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〔出所:A中アンケート、文部科学省調査より三谷作成〕


 A中では、ネットを4時間以上使う生徒が3割弱いて1時間未満がほとんどいない、のに対し、全国平均では、利用1時間未満が3割強となっています。平日3時間以上をネットに使う子どもの比率は、全国17%に対して、A中では42%となっています。これが学習時間や効率、睡眠時間などを左右しないわけがありません。
 しかしこれは、A中の問題ではなく、東京都や首都圏・大都市圏共通の問題であり、さらには、全国のほんの少し未来の姿でもあるのです。

 #親や教師にできること。ルールと知識

 では親や教師にできることはなんでしょうか。
 A中のアンケートで、「ケータイやPCの使用ルール」について(子どもたちに)尋ねましたが、3分の2が「特にルールはない」でした。3年生だと8割近くが「ルールなし」。
 ただ、3分の1の「ルールあり」家庭からは、実践されている、いろいろなルールが出てきました。
 ・メールは消さない、ゲームはしない、ライン禁止、動画は見ない
 といった厳しめのものから、
 ・宿題をしてからゲームや携帯をする、決められた時間内のみ、夜9時以降はラインをしない
 ・ロックはかけない、月に一度親に携帯履歴を見せる
 ・使用時間と同じ時間だけ勉強する、充電器は親が管理、自分の部屋に持ち込まない、夜は親に預ける
 といった枠を設けているものも多くありました。「いまさらルールなんて」と思わず、ぜひ、トライしてください。成績が下がったとき、がチャンスかもしれません(笑) もちろん、一番良いのは「ケータイを持つ最初から」です。

 そして、なにより重要なのは、子ども自らが知識とともに自覚を持ち、合理的判断や自制心を発揮できるようにすることでしょう。
 このお話、ぜひ子どもたちに伝えてあげてください。そして自分でどうするのか、考えさせてあげてください。

 参考資料
 『全国学力・学習状況調査 報告書 クロス集計』文部科学省(2013)


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 また、『伝わる書き方』の読後コメント、ぜひHPのお問い合わせまで、お寄せください。

プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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