三谷宏治の学びの源泉

[第112回]「見当たり捜査官」の識別能力~スーパー・リコグナイザー

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 #人混みを見つめ続ける大阪府警の捜査官たち

 2010年、大阪のゲームセンターで窃盗の容疑者が逮捕されました。その2年前、兵庫県警から指名手配されていた手配写真が決め手となりました。
 逮捕されたのは30歳の女性で、その手配写真は7年前に撮られたという可愛らしい女性の姿です。しかし、逮捕されたとき、その彼女の姿は「ガッチリした体格で頭はスポーツ刈り、ジャンパーを羽織って、肩をいからせながら歩く、外見上はどう見ても男性」のものでした。

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 にもかかわらず、大阪府警の捜査官は繁華街の見回り中に、その「男性」を、兵庫県警からの指名手配犯だと見抜いたのです。

 この捜査官の名は「見当たり捜査官」。大阪府警が1978年にはじめて組織化したもので、これまで数千人の被疑者を発見・逮捕しています。大阪で逮捕される指名手配犯の2割は、この見当たり捜査官たちのお手柄なのです。
 500人以上の手配写真(*1)を捜査官たちは頭に納め、繁華街や駅を歩き、立ち続けます。たまたま、相手が自分の目の前を通り過ぎるのを待ち、それを見つけて逮捕する。それが「見当たり捜査」であり、それにあたるのが「見当たり捜査官」なのです。
 これまで誤認逮捕は1件もありません。大阪府警にはじまったそれは、現在、日本中の主要警察署に拡がっています。

(*1)全国で指名手配されているのは1000人程度。

 #ヒトを「目」で見分ける

 なぜこんな捜査が可能なのでしょうか。手配写真が古かったり、その後太ったり痩せたり、髪形が変わったり、なかには変装、整形しているケースもあるでしょう。それでどうやって容疑者を識別するのでしょう?
 見極めの決め手は「目」だといいます。
 ベテラン捜査官たちは言います。「ポイントは目ぇです。自宅のトイレでもくり返し、その写真の人物の目ぇを憶える。目は指紋と一緒で個人差が絶対にある。一重や二重、白目と黒目の比率、上がり目・下がり目、目尻の角度、みな違う。どんなに髪形や服装を変えたり、年齢を重ねたりしても目ぇだけは変わらへん」「目を中心にした顔の真ん中の部分を見る。『目の玉』の雰囲気だけは簡単には変わらない。黒目や白目の大きさなどは人それぞれ。手配犯を見つけると、目の部分が『バシッ』と頭に入ってくる」

 ヒトの脳の中には、顔を見たときにだけ強く反応する「顔反応性細胞」という神経細胞が各所に存在しますが、それが顔の視覚的特徴をどのように伝え、どう顔の認識に関わっているのかは、まだよくわかっていません。
 顔の主要なパーツである目鼻口とその相互位置関係が大切なこと、特に目の形が重視されることはわかっていますが、さまざまな表情や年齢を超えて、どう識別されるかはまだナゾなのです。

 #ヒトの顔を忘れないスーパー・リコグナイザー

 2009年、ハーバード大学のリチャード・ラッセル(Richard Russell)らが、「スーパー・リコグナイザー:傑出した相貌認識能力を持った人たち」という論文を出しました。そこでは4人の男女(26~40歳)の相貌認識能力が、一般人に比べてどれほど優れているのかをテストしています。
 ・Before They Were Famous (BTWF) Test:有名人の幼少期の写真を見て、名前をあてるテスト
 ・Cambridge Face Memory Test (CFMT):顔の識別用に特別につくられたもの。角度や表情、ノイズなどさまざまな条件下で、元と同じ顔を当てるテスト
 結果として、いずれのテストでもこの4名はほぼ満点をとり、一般の25名の誰よりも高い相貌認識能力を示しました。それを受けてラッセルらは、この4人を「スーパー・リコグナイザー Super-recognizers」(SR)と名付けました。

 SRの能力は驚異的です。2か月前にたまたま同じ店で買い物をしていただけの人をすれ違いざまに特定できたり、5年前に別の町の喫茶店で応対したウエイトレスの姿を町で見つけて特定できたり......。
 SR4人の中でも最高点を叩き出した、ジェニファー・ジャレット(Jennifer Jarett)さんは言います。「友だちは冗談で私を、ストーカーって呼ぶんです」「どんな人混みの中でも、有名人やその恋人がいたら、一発で見つけちゃうんですから」「20年間会っていなかった小学校のときのクラスメートだってわかります」

 #ヒトの相貌認識能力には大きな幅がある

 顔の認識する能力について、これまで人々が関心を持ってきたのは、識別できない「相貌失認(*2)」と、幼児の能力獲得過程などでした。相貌失認は、顔の認識能力がほぼゼロの状態ですが、それ以外はみな「能力あり」と一括りに捉えられていました。
 ラッセルの発見は、SRの存在だけでなく、その「認識能力の拡がり」にもありました。

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出所:Russellら(2009)のfig.3A(2種の相貌認識能力のテスト結果)


 顔の識別能力には大きな個人差があり、ひとりひとりバラバラなのです。だから、
 ・セキュリティ要員を採用するとき
 ・犯罪目撃者から証言を得るとき
 には、まずはその相貌認識能力をチェックすべきだろうとラッセルは言っています。
 そう、そしておそらくは「見当たり捜査官」の選抜においても。

 首都東京を管轄する警視庁も、大阪府警に遅れること23年、2001年に専従の「見当たり捜査」班を設置しました。約10人の選ばれし者たちが、毎朝 手配写真をじっくり見つめ直してから、3~4名のチームに分かれて街頭に出ます。
 そして、ひたすらに追うのです。容疑者たちの姿を、そして、目を。

(*2)ヒトの顔が識別できない「相貌失認」は、パーツは認識できても、顔の全体像が認識できないことによって起こる。ブラッド・ピットなどがそう。


 参考資料
 ・"Super-recognizers: People with extraordinary face recognition ability" Richard Russellなど(2009)
 ・「'Super-recognizers' never forget a face」3/31/2009 New York Times
 ・「指名手配犯、逃さない! 街頭に光る"眼光"「ミアタリ」」5/8/2010 産経新聞


 読者のみなさんへ
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プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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