三谷宏治の学びの源泉

[第113回]「虎ノ門ヒルズ」のつくりかた:基礎編「上総層」「場所打ち杭」「逆打ち工法」「ナックルウォール杭」

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 #支持層は30m地下の「上総層」

 6月11日に無事、虎ノ門ヒルズが開業しました。高さは都内最高の東京ミッドタウン(六本木)より1m低いだけの247m。地上52階、地下5階の威容を誇ります。

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 その特徴はなんといっても「地下2階が道路」なこと。環状2号線の地下トンネルがビルの地下2階部分を貫く構造です。

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 1989年の法改正によりこのようなことが可能になり、森ビルが道路の地上権を数百億円で買い取り、周辺の自社ビルとも合わせて開発を進めたものです。
 総投資額は1400億円。その文字通り「基礎」をつくり始めたのが3年前の2011年4月でした。今回は「虎ノ門ヒルズのつくり方:基礎編」と称して、私が隣のビル(KIT虎ノ門大学院の入る愛宕東洋ビル 11~13F)からこの3年間見続けた、基礎及び基幹構造のつくり方を、ご紹介しましょう。

 地下構造物を撤去したり埋めたりしたあと、地上部分を整地したら、もちろんまずは杭打ちです。ビルの場合、その支持基盤は関東平野の地下数十メートルに横たわる「上総(かずさ)層」です。砂礫の硬く締まった層で、そこまで基礎杭を打ち込むことが、傾かないビルの必須条件です。
 逆にそこにいくまでは、関東平野は富士山が過去ばらまいた灰が変化した赤土か砂で、ショベルカーでサクサク削れる代物です。私の自宅なぞはその上に、コンクリート基礎をポンと置いてあるだけなわけですが......。
 それはともかく、ここからが虎ノ門ヒルズの工法の面白いところです。

 #地中で杭をつくる「場所打ち杭」

 工事現場を見ていたら、なんだか円い筒(ケーソン)があちこちに設置され、その中に大きなドリルが差し入れられています。

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 いったい何をしているのでしょう? 直径1.5mもの縦穴を掘ってどうするというのでしょう。

 これだけの大きさのビルになると、単純なコンクリート杭を打ち込むことはせず、たいてい「場所打ち杭」になります。縦穴を掘って、その中で鉄筋コンクリートの杭をつくり上げてしまうのです。
 大きなものがつくれるのと、形状に工夫の余地があるのが特長です。

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 虎ノ門ヒルズでの施工者である大林組は、ここでスカイツリー工事でも多用した「ナックルウォール杭」を採用します。

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 杭の基底部が膨らんでいるために、引き抜かれることがないので、地震時に建物を安定させる力が強くなるのです。

 #上下同時進行のための「逆打ち工法」

 工期を短縮するための採られたのが「逆打ち工法」でした。
 ふつうは、建物は下から上につくります。でも虎ノ門ヒルズでは、まず1階の床をつくってから、上下に進みました。地下を掘って地下1階、2階と進んで地階の構造物をつくり込むと同時に、地上はガンガン積み上げていきます。

 なぜそんなことが可能なのでしょうか?

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 この写真では、1階床の鉄骨が組まれていますが、それを支えているのが、多くの「逆打ち支柱」たちです。逆打ち支柱は、基礎杭に差し込まれた鉄柱なので、もちろんしっかり1階床を支えることができます。

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 その多くは最初、土に埋まっているわけですが、地下部隊はまるで「砂場の山崩し」のようにその周りを削り取っていくわけです。
 ショベルカーで赤土や砂をサクサクサクサク。でも絶対に支柱は削らないように(笑)

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 虎ノ門ヒルズは地階の構造が複雑であり、工期を短縮するためにもこのような工法を採ったのでしょう。

 #おまけ[1] まずは、考古学調査から!

 工事の本着工まで、結構時間がかかりました。考古学調査を延々としていたのです。

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 東京は掘れば必ず江戸時代の遺跡・遺構が出てきます。そして、事業者にはそれを届け出る義務(文化財保護法 第96条)があり、行政による発掘調査を待つ必要あります。
 ああそう言えば、私も大学後半の2年間、延々と続く遺跡・遺構調査のために、体育館・グラウンド建設はまったく進まず、一度も使えず終わりました。
 虎ノ門ヒルズは、見つかった遺構が吉野ヶ里遺跡でなくてよかったとするべきでしょう。

 #おまけ[2] 廃棄物を出さない「ゼロ・エミッション」

 工事期間中、毎日何百人もの人たちが働いていました。様々な職種に分かれた、現場作業員のみなさんです。
 夕方、仕事が終わって作業場から出てくる彼らの手には必ずゴミ袋。コンビニ弁当のカラなど、自分が持ち込んだものは自分で持ち帰る、が徹底されているのです。
 これほど大きな建設作業が行われたというのに、廃材がそのまま外に持ち出されたことは、ほとんどなかったように思います。既存施設のコンクリート片も、砕いて砂に混ぜれば、埋め立て材に使えます。そういったリサイクル、リユースの工夫が随所に見られた現場でもありました。

 ああ、最後の外構工事に至るまで、ずっと楽しみにしていた虎ノ門ヒルズの工事現場ウォッチング。それがなくなってしまったのは、非常に寂しいですが、これからは、虎ノ門ヒルズでの店舗・人間ウォッチングを楽しむことにしましょう。
 虎ノ門ヒルズにご来駕の際は、ぜひ、お隣のKIT虎ノ門大学院にお立ち寄りください。

 参考資料
 ・「超高層ビルの中を地下道路が貫く」大林組 HP
 ・「虎ノ門ヒルズ」東京都(23区)・建設中超高層ビルデータベース一覧

 読者のみなさんへ
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プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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