三谷宏治の学びの源泉

[第117回]「重要思考」の誕生と展開物語

 #「重要思考」の個人学習教材、『戦略思考ワークブック』、出ました!

 2014年9月18日刊行の『ビジネスモデル全史』に続き、この10月7日には『戦略思考ワークブック』(ちくま新書)が発刊となりました。筑摩書店によるちくま新書は、この10月がちょうど発刊20周年とのことで、オビにも力が入っています。
 その上、新書ではとても珍しいことですが、書店の店頭で「関連する人気の単行本に並べる」展開を頑張っています。つまりは『ビジネスモデル全史』『経営戦略全史』のお隣に置く作戦です。くまざわ書店大手町店だと、こんな感じ。

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 未だにほとんど書店は、こういった展開をやりませんし、許しません。単行本、新書、文庫、マンガの区分は絶対のものであり、売り場は別々です。各々、「担当者」が違い、その担当者からすれば、自分の縄張り(売り場)で他の本が売れても自分の数字(売上)にならないからです。それでは貴重な店頭スペース資源を割く価値がありません。
 かといってこれを崩すと、毎日押し寄せる数百冊の新刊を捌ききれません。売上減に悩む書店に、「テーマ別編集」や「ジャンル混合の棚づくり」といったことをやる余力は(ほとんど)残されていないのです。だから売上が伸びない、の悪循環......。
 でもやれないことではありません。分野を絞って、品揃えを絞ってやることです。くまざわ書店大手町店はわずか30坪の小型店ですが、日本有数のビジネス街という特性を活かし、近隣の大型店と競っています。がんばれ、山本善之店長!(笑)

 話が逸れました。そうそう、『戦略思考ワークブック』です。
 この本は、私の21冊目の著作です。私は自分の著作ジャンルを3つに分けていますが、そのひとつ、「意思決定力」に属するもので、そのジャンルとしては7冊目にあたります。「重要思考」というオリジナルの論理思考法を中核に、書く力・伝える・ほめる力、自分・みんなで決める力、などについて書いてきました。
 その中でこの本の位置づけは「個人学習教材」、テーマは「重要思考」そのものです。
 つまり、重要思考を、(学び)練習するための本なのです。20問の問題があり、20個の答えがあります。でもその解法は1プロセスしかありません。それが「重要思考」です。

 #「重要思考」はいつ、なぜ、生まれたのか?

 ボストン コンサルティング グループでの業務の傍ら、28歳頃から一般のビジネスパーソン向けの「研修講師」を務めるようになり、アクセンチュアに転職した32歳からは、グロービスのような社会人向けの教育機関で、定常的な科目を持つことにもなりました。そこで感じた大きな違和感が、「重要思考」という名の論理思考の誕生につながりました。
 受講生はみな熱心。ケース等の予習に何十時間も掛けて、クラスに乗り込んできます。「発言点」でも評価されるので、授業中の発言も活発です。
 「DELLはなぜ成功したのかな?」という問いに対しても、「ダイレクトモデルだからです!」「消費者の声を聞いて商品開発をしたから」「在庫が少なかったから」「納期が短かったから」と、10や20、すぐその理由が上がります。
 でも、なんの議論にもなりません。みんな「という点も(成功要因として)1つあると思います」というだけなので、否定しようがなく、次のヒトも他の「成功要因」を1つ加えて終わり、です。
 知りたいのはそんな「成功要因の候補リスト」ではなく、「成功のメカニズム」であり「もっともダイジな成功理由」なのに。

 みなの発言がただ言いっ放しに終わり、議論しようとしてもすれ違ってしまうわけは簡単でした。
 「これがすごい(競合品より優れている)」と言うばかりで、「これ、がダイジ(顧客にとって価値が高い・コストで多くを占める)」を言ってないからです。
 「在庫が少なかったから」勝ったと言いたいなら、そもそもそのビジネス(PC販売)において、「低在庫がダイジ」と言わなくてはなりません。もし在庫の多寡が影響しない業界(例えばダウンロード可能なネットコンテンツビジネス)なら、「低在庫」なんてどうでもいいことです。でも、生鮮品を扱う業界であれば在庫の多寡は生死を分けます。粗利の低いスーパー業界でいえば、生鮮品が1つ売れ残れば、10個売って儲けた利益を吹き飛ばします。PCもまた同じ。製品寿命が短く(3~4ヶ月)て、粗利が低いので、在庫を何ヶ月分も抱えたら終わりです。
 つまり「在庫が少なかったから成功した」わけではなく、「PC業界では在庫の収益インパクトが大きく、DELLはその在庫が他社の数分の1だったから成功した」のです。まず言うべきは「在庫が収益にとってダイジ」であることです。そこでの議論が最初にあって、やっと「誰がすごい」「何が素晴らしい」の話に意味が出るのです。
 そんなことをクラスで伝え続け、それを整理したのが「もっとも単純なビジネス論理思考」としての「重要思考」でした。(内容の詳細は、『戦略思考ワークブック』をご参照ください)

 #「重要思考」はいつ、なぜ、生まれたのか?

 近年われわれは、海外から「ロジカル・シンキング(論理的思考法)」(の一種)を取り入れ、それを学生や若手社会人たちが熱心に学んでいます。きっと延べでいえば100万人以上がその洗礼を受けたことでしょう。そしてここ数十年、その内容はほとんど変わらず一貫しています。
 でも、社会が論理的になったようには、ちっとも感じられません。感情的な意思決定や不条理に溢れています。いったい、なぜなのでしょう?
 それはみながその学びを、実際には活かせていないからです。会社の実務にも、自分の人生にも。
 そして、自分の身についていないから、他人に広めることができません。それでは、チームや家族、友人たちと論理思考の力を共有し、その成果を得ることもないでしょう。
 感情や不条理に負けないための論理思考が、日本にもっともっと拡がっていくためには、大きな2つのギャップがあると感じます。
 ひとつは、「内容の難しさ」。もうひとつは「練習の不足」です。

 一般に教えられている「論理思考(ロジカル・シンキング)」はもともとが、経営コンサルタント向けの玄人版です。いわば職業軍人向けのコンテンツをわれわれは学んでいるわけです。骨格をそのままにして「高校生向け」とかをつくっても、結局使いこなせるわけではありません。
 練習の不足も深刻です。何かひとつの技を身につけようと思ったら、何百回・何千回とくり返す必要があります。でも教科書だけ読んでも、理解できるだけで、くり返しになりません。実例集や問題集はそのためにあります。しかし、実務に即した論理思考の問題集はほとんどありません。あっても、もとがプロ向けなので、アマチュアには解答が難しすぎます。

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 この本はその2つのギャップを埋めるのに、きっと役立ちます。
 まずは、何がダイジかをハッキリさせること。そしてそれに対して逸らさずに議論を尽くすことなのです。それだけです。
 それを私は「重要思考」と名付けました。コンサルティング会社内やクライアント先でそれを広めるだけでなく、社会人向けの大学院や小中高校大学での授業や講演を通じて、じわじわ広めています。
 これまでそれを、
 (1)教科書『正しく決める力』(2009)→改訂・文庫化『一瞬で大切なことを決める技術』(2014)
 (2)教科書『一瞬で大切なことを伝える技術』(2011)
 (3)事例集『実例で必ず身につく! 一瞬で大切なことを決める技術』(2012)
 という形でまとめることができました。
 そしてこの『戦略思考ワークブック』は最後の「問題集」 (の前編)にあたります。ただこの1冊だけでも完結できるように、第1章には教科書的な内容も含んでいます。①②をお読みの方は、第1章「営業と重要思考」から、そうでない方は序章からお読みいただければと思います。

 そしてこの本を、読み(解き)終わったら?
 「重要思考」を実際に使ってみるしかありません。「営業」「サービス」「マーケティング」「事業戦略」、そして「事務作業」の各ビジネス現場で。
 論理思考の方法論はこれひとつで十分です。いくつも身につける必要はありません。いや、そもそも思考法を使いこなすには、数百回もの練習が必要なので、いくつもにチャレンジする時間もないはずです。
 ただよいニュースがひとつ。思考法の練習には、たいしてお金がかかりません。グルメやスキー、芸術系の趣味を究めようと思ったらお金がいくらあっても足りませんが、重要思考の練習には、身の回りのすべてが題材になりますし、練習相手も割と簡単につくれるはず。

 最後にこんな一文を書いたら、それが手書きのまま、巻頭を飾ることになりました。

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 さあ、軽く高性能なOSとして、自分とチームに「重要思考」のインストールを!

 『戦略思考ワークブック』には書題として、【ビジネス篇】って添えてあります。もしこの本に人気が出たら、【ライフ篇】【子育て篇】とか出すつもり、なのですが......(笑)
 さてどうなりますか。それはみなさんの、ご支持次第。

お知らせ:『ビジネスモデル全史』読書会のご案内

 『ビジネスモデル全史』ですが、発売1ヶ月で4万部を突破しました! 内容をご紹介するセミナーも10月15日 日本橋セミナー@丸善 日本橋店で一段落。ここからは、読者による読書会が始まります。
 ・11月1日(土) FED主催@文京シビックセンター
 ・11月10日(月) アカデミーヒルズディスカヴァー共催@平河町森タワー
 各々、参加の条件等がありますので、お気をつけください。そして、人数制限もあるので、お早めに~。

 また、「ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書2014」の投票締切りが10月26日に迫っています。まだの方は是非、こちら、から投票を。DHBR読者及びイベント参加者が投票できますので。

 では、本の感想、お待ちします。ぜひHPのお問い合わせまで、お寄せください。

 参考サイト
 ・「頼りになる書店員さん 第13回」ダイヤモンドオンライン

プロフィール

三谷 宏治 氏

K.I.T.虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に小学生から大学生)の道へ。 近著に「ペンギン、カフェをつくる」「お手伝い至上主義でいこう!」「ルークの冒険 ~カタチのフシギ」「コンサルタントの整理術」「ハカる考動学」「発想の視点力」「正しく決める力」「観想力 - 空気はなぜ透明か」など。早稲田大学ビジネススクールおよびグロービス経営大学院 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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