#あなたの最初の本はなんですか?
みなさんは、自分が最初に読んだ本のことを、憶えていますか?
私自身に記憶はありませんが、読み始めたのは5~6際の頃のようです。小学校への入学式直後、40日間の入院をしました。そのとき先生方が「本の差し入れ」をしてくださり、それが40日間で累計100冊になった、と聞いているからです。
でも、なぜ小学校入学前に本が読めるようになったのかは、わかりません。母も記憶にないというか「2歳上の長女には最初の子だったからいろいろ教えようとしたけれど、あなたには何もしていない」だそう。きっと、姉の横にいて「門前の小僧習わぬ経を読む」状態だったのでしょう。
以来45年、本は私の人生の「最大の友」であったと言っても過言ではありません。
読書はヒトの知識を拡げるだけでなく、「思考力」「想像力」の向上に役立ちます。もちろん本来、本は楽しむために読むものであって、トレーニングの道具ではありません。でも、ヒトが(イメージや暗号でなく)言語で思考し、その言語が文字という図形で表されるがゆえに、読書という行為はヒトの脳を鍛える最高のトレーニングのひとつなのです。
書かれた文章を読むとき、脳はさまざまな働きをしています。
「図形の視覚的特徴を抽出する」「図形を認識(記憶にある特徴パターンと照合)する」「単語に区切る」「パターンの組合せから単語の意味を抽出する」「単語を組み合わせて文章の意味を仮につくる」「それまでに想像されていた状況にその意味で合うか当てはめる」
視覚、記憶、意味、想像など脳のあらゆる機能が総動員され「組み合わされ」ます。それこそが、ヒトの脳の特長である「巨大な連合野」の強化につながるのです。マンガでも絵本でもなく、本だけが「言葉」から情景を思い浮かべ、主人公たちの心を想像する力を育(はぐく)むのです。
このあたり、詳しくは『プルーストとイカ』などを読んでいただくものとして、問題は「どうやったら読書好きの子どもにできるのか?」です。そんな質問を、親向けの講演でもよく受けます。
さて、なんと答えましょう。
#魔法の1冊を見つけよう! 図書館で、書店で。
私自身の例は参考になりません。親も気づかぬうちに本好きになっていた、ので。代わりにわがやの3人娘たちの例で見てみましょう。
結局答えは、「本を好きにならせる」ではなくて、まず「好きな本を見つける」、次に「そこから芋づる方式で横展開する」方法でした。そしてその鍵は「図書館(や図書室・書店)」と「Amazon(などのネット書店)」です。
まずは立ち読みしまくって、子ども自身が「好きになれそうな本」を見つけることです。
どんな子どもにでも「魔法の一冊」がきっとあります。文字が小さくて絵が少なくて文字ばっかりで、でも、なぜか引き込まれる、そんな本が。
三女にとっては「王さまの本」がそれでした。
王さまシリーズは寺村輝夫さん(2006年没)のライフワークです。1956年から40年以上にわたって31冊が刊行されました。
どこかの国に住む、わがままな王さまが主人公のお話で、特に、真剣な学びや寓意があるわけではありません。でも、その強烈なわがままさと数々の失敗(と時々の成功)が楽しい、そんな本です。
三女は小学3年生のとき、これで「小さな活字がいっぱいの本」を読む楽しみを、初めて覚えました。
それまでいろいろ試したけれど、最後まで読み通すことのなかった「小さい活字」の本。そういった本を読む楽しさを「王さま」は無邪気に教えてくれました。それから彼女はひたすら王さまシリーズを読みはじめました。
さあ、まずは立ち読みから。自分に合うものを「探す」だけなのですから、最初から買う必要なんてありません。
そのための最適な場所は学校や地域の図書館・図書室であり、大手の書店でしょう。どんどん、ちょこちょこ、読みましょう。そして「読みたくなる」魔法の一冊を、見つけるのです。
#魔法の拡げ方:Amazonつながり
首尾良くそんな本が見つかったら、次にどうするか。
シリーズものであれば、まずそれを片っ端から読みましょう。同じ作者で攻める手もあるでしょうし、もしくは同じようなテーマで、というのも。
結構面白い、有力な手があります。それが「Amazonつながり」です。
Amazonではどの本を選んでも、必ず「この本を買った人はこんな本も買っています」情報が示されます。これを辿っていくのです。
王さまシリーズの第1作「おしゃべりなたまごやき」を買った人は、「エルマーのぼうけん」(ルース・スタイルス・ガネット)も買っています。うんうん、これも良い本だよねえ。この著者は他にも本、出してたっけ。
ルース・スタイルス・ガネット、をクリックすると「エルマーと16ぴきのりゅう」や「エルマーとりゅう」が出てきます。
ああ、この3部作がガネットの代表作なんだ。講談社から英語でも出ているや。コメントを読むと中学生程度の英語でも読めそうです。
こうやって、魔法の本の幅を拡げていくのです。
慌てる必要はありません。本を読む習慣さえ付けば、その内、興味の範囲は拡がってきます。
私は、高校卒業まで、読む本のほとんどはSFや科学系の本(ブルーバックスなど)だけでした。でも浪人時代、たまたま手にとった『竜馬がゆく』(全8巻、司馬遼太郎)が、その興味を幕末史や歴史小説にも向けてくれました。
楽しく読書量をこなしてさえいれば、読解力はついてくるので、興味がどこへ向かおうと大丈夫です。
#「魔法の一冊」の第2章
三女が「王さま」の次に気に入ったのは、『若おかみは小学生!』シリーズでした。
突如両親を亡くした小学6年生の「おっこ」が祖母の営む温泉旅館に引き取られ、ひょんなことから若女将修行を始めることに......。2003年からこれまで、既に20巻を数える令丈(れいじょう)ヒロ子さんのヒット作です。
最初、中学2年生の次女が図書館から借りて読んでいた第1巻を、小学4年生の三女が横から又借りして、はまりました。三女は一ヶ月余りで、あっという間に全巻を読み切ったのです。
三女がこの本で見いだしたもの。それは「もっと小さい活字」で「挿絵が少なく」て「登場人物が多い」本の面白さ。言ってしまえば、普通の本の、楽しさでした。
それまで決して本好きとはいえなかった三女は、この辺りから読書に加速がつき、中学を卒業するまで、毎年、年間1万ページを読むようにまでなりました。
普通の本の楽しさにつながるまで、図書館と本屋さん(含むAmazon)をどんどん探検させましょう。
そうして、子どもたちの思考力・想像力を飛躍させるのです。
参考サイト
・『プルーストとイカ 〜読書は脳をどのように変えるのか?』(インターシフト)メアリアン・ウルフ
・第33号:三谷文庫 創設記念授業(後編)
・第96号:幸せにつながる子育て ~ニュージーランド1000人32年間の追跡調査から
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