三谷宏治の学びの源泉

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[第121回]スターバックスのフタはなぜ「あんな」カタチなのか?

 #なぜコーヒーは、フタ付きで渡されるのか?

 スターバックスやマクドナルドでコーヒーの類を買うと、ほとんどの場合「プラスティック製の使い捨てフタ付き」で出てきます。なぜなのでしょう?
 それはズバリ、「(熱い)液体がこぼれないようにするため」です。店頭で受け渡しをするとき、事業者が一番避けたいことが、これなのです。1970年代からこのフタ(業界用語でリッド(*1)という)はジワジワ進歩を遂げ、バルブ式の飲み口がついたものなどが生まれました。ちょっと出っ張っていて、押すとプチッと穴が開くあれです。

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 そういった発明を大きく後押ししたのが、1992年のステラ・リーバック(Stella Liebeck)による訴訟でした。マクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買った彼女(当時79歳)は、コーヒーのフタを開け損ねて膝にコーヒーをこぼし、対処の遅れなどもあって重度のヤケドを負いました。彼女は賠償額(20万ドル)の支払いを求めてマクドナルドを訴え(*2)、勝訴します。陪審員たちの心証を損ねたマクドナルドに課された賠償額は、懲罰的損害賠償額も含めて、なんと270万ドル(*3)
 それを受けてまず改良されたのは注意書きです。リッドには大きく「Caution(注意)」「May Be Hot(きっと熱いよ)」などと書かれるようになりました。

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 そしてガレージ起業家たちが「より開けやすく(でも勝手には開かない)」「より飲みやすく(でも熱すぎない)」「より安全な(ヤケドしない)」プラスティック・リッドの発明・開発に挑み、多くの特許をとりました。でもそこで覇権を握ったのは、老舗ブランドである「SOLO(*4)」のSOLO TRAVELERでした。

(*1) lid:まぶたのこと。
(*2)当初は治療費(1.1万ドル)の支払いを求めただけだったが、マクドナルド側は800ドルしか提示しなかった。リーバックはこれに憤慨して訴訟を起こした。
(*3)最終的には60万ドル以下で和解した模様。
(*4)紙コップの発明企業であるDixieの元従業員が1936年、Solo Cupを立ち上げた。2012年にDart Containerに買収された。

 #スターバックスでじっと見てみた、フタのカタチ

 SOLO TRAVELERは、スターバックスを初めとした、多くのコーヒーチェーン店、ファーストフード店で採用されています。そしてこれまで、数々の改良を重ねてきました。
 スターバックス・ラテのホットなどに添えられるリッドは今、どんなカタチなのか思い浮かべられますか?

 答えは、こんなカタチ、です。

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 確かに、ここには様々な工夫が見て取れます。
 ・全体がドーム状:飲料上部のクリーム状の部分がつぶれないように
 ・下段と上段の境目:この凹みのお陰で外しやすくなっている
 ・飲み口近くの凹み:上唇がちょうど納まり、飲み物を吸い上げやすくなる

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 他にも、
 ・上部の小さな穴:空気穴。これを閉じると飲み物が出ない
 ・飲み口の穴の大きさ:一度に内容物の多くが出てこないように

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 そう、小さな工夫だらけ。このトラベラー・リブはSOLOの知財(知的財産)の塊なのです。下記はこのリッドの原形となったものの特許図です(米国特許 第4589569号)。

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 少し冷めた状態のコーヒーを、フタをしたまま少量ずつ飲めるように、楕円型の飲み口は小型(横3/6インチ、縦3/16インチと決まっている)であり、その周りは側壁に囲まれています。空気との接触面積を増やして冷ますためです。また、上唇が直接コーヒーに当たらないようにD型の凹みは十分大きく深く成型されています。

 #匂いは楽しめなくなるが、味は良くなる?

 安全性や飲みやすさはいいとして、肝心の味や香りはどうなのでしょう?
 カップにフタをしてしまうことで、当然、香りは抑制されます。でも、スターバックスの日本の広報担当者曰く、味は良くなるそうです。
 「ラテやカプチーノの場合、エスプレッソの上にスチームミルクを入れていますが、フタを外して飲むと、混ざり合わずに一気に出てしまうんです」
 「ですから、上のもの(スチームミルク)と下のもの(エスプレッソ)とが、バランスよく出て本来の美味しさが楽しめるために、フタをして穴から飲むことをお勧めしています」
 確かにそういわれてみればそんな気もします(笑)

 みなさんのお気に入りのカフェでは、どんな「リッド」が使われているでしょうか? たとえばタリーズだとこれ、です。

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 この優美なリッドのカタチには、どんな秘密が隠れているのでしょうか。何だかドキドキです。
 ぜひ、リッドのカタチの謎を、探究してみてください。

 実はスターバックスのSOLO TRAVELERリッドで、残った謎がひとつ。D型の凹みの底に小さな穴がぽつり。これは一体......。
 みなさんの答えを募集します。

 参考資料
 ・「Who Made That Coffee Lid?」PAGAN KENNEDY(The New York Times、2013/10/25)
 ・「Why is the Solo Traveler the dominant coffee cup lid?」Brian Roemmele(Quora、2012/5/16)
 ・「Solo Cup Company」Wikipedia
 ・「Dart Container」Wikipedia
 ・「マクドナルド・コーヒー事件」Wikipedia
 ・「スタバとかの穴のあいたフタつきカップを考える」Excite Bitコネタ(Excite、2008/1/22)〔注:文中、トラベラーリットとあるが、トラベラーリッドの誤り〕
 ・「米国特許 4589569

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プロフィール

三谷 宏治 氏

K.I.T.虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に小学生から大学生)の道へ。 近著に「ペンギン、カフェをつくる」「お手伝い至上主義でいこう!」「ルークの冒険 ~カタチのフシギ」「コンサルタントの整理術」「ハカる考動学」「発想の視点力」「正しく決める力」「観想力 - 空気はなぜ透明か」など。早稲田大学ビジネススクールおよびグロービス経営大学院 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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