三谷宏治の学びの源泉

[第51回] 理系対文系

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 #領空侵犯、あり

 西から来たテポドン2号のことではない。4/6の日経新聞の「インタビュー 領空侵犯」コーナーのことだ。
 作家の鈴木光司さんが「理系軽視に異論」として、次のような主張をされた。
 ・組織リーダーには現状、文系出身者が多い
 ・これからのリーダーには科学する能力や論理性が重要
 ・文系も理系科目を学ぶべき
 ・理系担当教師に面白さを伝える力が足りないことも問題
 全く以て、その通りと思う。(私は、鈴木光司さんのデビュー作「楽園」以来のファンである)

 同時公開される、日経ネットPLUSでのフォロー企画「ちょっとまった 領空侵犯」に載せるということで、インタビューを受けた。
 そして改めて考えた。理数系を学ぶ価値って何だろう。論理力を高めるためなのか、科学する力ってなんだろう、そもそもリーダーには何が必要なんだろう・・・
 私の結論は「論理力より探究力」だった。

 #ビジネスパーソンに必要な素養

 外資系経営コンサルティング会社の幹部たちは、結構理系出身者が多い。会社によって濃淡はあるが、文系・理系半々程度ではないだろうか。
 ある日のこと。プロジェクトの中盤、そろそろ種々の分析も進み、メッセージを決める頃だ。数名の若手コンサルタントたちが、持てる限りの能力と体力を駆使してクライアントへの価値を生み出していく。
 マネジャーである私のもとに、文系出身のコンサルタントがやってきて言う。「分かりましたよ」「これを変えるべきなんです」「誰に聞いてもそう言ってました」
 わかった。で、あなたはどう思うの?数字は見た?前言っていたことと辻褄は合っているけど、それだけ?
 コミュニケーション力に頼りすぎると、こうなる。
 数時間後、徹夜明けの理系出身コンサルタントがやってくる。「分かりました!」「あれを変えるべきなんです」「分析結果からするとですね・・・」
 わかった。で、お客さん(クライアント)はどう言っているの?顧客や取引先はどうかな?ジャンプはあるけど、着地点を確かめないと死んじゃうよ。
 分析力に頼りすぎると、こうなる。

 結局、両方が必要なのだ。理系的素養と文系的素養。科学する心や力と、社会的な心や力。もちろん両方中途半端じゃダメ。徹底的にそれらを伸ばした上で、専門性は花開く。
 そうして若手コンサルタントたちは、一人前になり、あちらこちらへと巣立っていく。

 #物理とはモノのコトワリ

 論理力自体は、国語という科目の中でも常に問われるものであり、理系科目でないと育たないわけではないと思う(『正しく決める力』第1章 賢者アーファンティの項、参照)
 ただ、理系科目でこそ強く培われ鍛えられるのが、科学する心と力、探求心と分析力だ。
 例えば物理学はその名の通り、モノのコトワリをとことん突き詰めるのがテーマだ。物質の究極は?宇宙の果ては?時間の始まりは?重力って何だ?
 そういう問いを発し、そして、それに答えようとしている学問が物理学なのだ。そこには無限の好奇心と、無限を相手に戦う力が要求される。
 なぜ質量(重さ)というものがこの世に存在するのかという問いを発し、それに答えたのは南部陽一郎博士だ。「自発的対称性の破れ」、それが彼の出した答えであった。「宇宙は本当は、対称性以外が好きなんだよ」
 対称性こそが宇宙の力の源泉であり、モノは常に対称を好み対称状態へ向かう、と信じていた世の物理学者たちにとって、これは革命的なアイデアだった。
 あまりの独創性ゆえに、専門家たちが理解するまでに10年かかり、ノーベル財団に至ってはその理解に50年を要したが。
 根源を問い詰め、本質を追い求める探求心と分析力を、理系科目で培おう。

 #先生ガンバレ!敵は、受験!?

 鈴木光司さんの、最後の指摘ポイントは、まさにその通りだ。理系担当教師は、理科の面白さを生徒たちに伝えられていない。
 国立教育政策研究所は09年1月、高校教員2400人のアンケート調査を行ない3月に結果を公表した。
 高校で理系科目を担当する教員は
 ・「最新科学技術も話題に取り入れる」にYesが6~9割(小学校では3~6割、中学校では7割)
 ・「科学と日常の関わりを解説」にYesが9割前後
 ・「学んだことが日常に応用できることを教えている」にYesが8割前後
 ・「実験からの推論をさせている」にYesが6割前後(小中学校は8割前後)

 教員たちの「ちゃんとやっているぞ」の声が聞こえてくる。しかし、
 ・「生徒による実験回数が週に1~2回以上」にYesは1割以下(小学校は6~8割、中学校は6割)
 ・「生徒に発表機会を与えている」にYesは3~4割(小学校は7~8割、中学校は6割)
 に過ぎず、生徒主体の活動の少なさが目立つ。

 そして「担当授業が好きな生徒が全体の60%はいる」にYesは、なんと2割前後(1~4割)に過ぎない(小学校は6~8割、中学校は4割)。これは普通科のみならず、理数科やSSH(Super Science High School)でも同様である。
 教員自身も認識しているのだ。自分は理科の楽しさを伝え切れていない、と。

 教員たちが挙げる、阻害要因の第一番目は「授業時間不足」であり、特に2年生以上を担当する教員だと「入試指導に時間を取られる」との認識が過半を占める。
 これに直接対応するのは至難の業だ。しかし、手はないわけではない。それが社会人・会社をもっと使うことだ。メーカーに勤める個人の力を借りる、メーカー自身の力を借りる。
 最初は教員・学校側も手間が掛かるだろうが、回っていけばきっと楽になり、かつ、多くの面白い授業をやってもらえるはずだ。
 社会を、企業を味方に付けて、高校のみならず学校にはもっともっと理系科目の充実を図ってもらいたい。
 そのとき、最大の敵はおそらく、お上や上司であり、かつ親たち自身なのだ。


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是非、お訪ね下さい。NHK「ソクラテスの人事」(木曜2200~2245)も始まりました。最後の一瞬、登場しています。

参考:平成20年度 高等学校理科教員実態調査
集計結果(速報)(国立教育政策研究所)
http://rikashien.jst.go.jp/highschool/cpse_report_005_1.pdf

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プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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