三谷宏治の学びの源泉

[第88回] 太陽がもたらす環境と生命の大循環

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 #100年に一度の太陽黒点減少

 ガリレオ・ガリレイが宇宙にお手製の望遠鏡を向けて、木星を回る4つの衛星を見つけたのが、1610年の1月でした。
 彼はその姿に驚愕しました。これら小さき光の点は、明らかに木星の周りを回っている。それならばすべての星が地球を中心として回るなどという天動説など成立するはずがない。彼の地動説(*1)への賛意は、確信へと変わりました。彼はその後、太陽の観測も始めます。黒点の様子を克明にスケッチし、黒点が太陽表面に存在すること、太陽が完全な球体で自転していること、また黒点が増減することなどを証明(*2)しました。
 以来400年、人々は太陽黒点の観測を続けています。そしてすぐ11年周期で、大きく増減することを見いだしました。その間隔は極めて正確で、ほとんどずれることがありません。
 ところがこの数年、それが大きく乱れています。前回の周期では黒点が減少してからなかなか戻らず、1周期が13年近くかかったのです。

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(NASAの月別データから三谷作成)

 たった2年のズレと言うなかれ。これは100年ぶりの事件であり、同じく黒点が大きく減少し周期が乱れた1645年から70年間(*3)、地球はミニ氷河期ともいえる寒冷化に見舞われたのでした。
 その予兆かもしれないのです。

(*1)ニコラウス・コペルニクスが1543年『天体の回転について』で「Heliocentrism(太陽中心説)」を唱えた。ガリレオは後年、この説を支持した咎で2度、カトリックの異端諮問を受け有罪となり、その後一生を軟禁状態に置かれた。俗に言う「ガリレオ裁判」である。
(*2)ガリレオ・ガリレイの「太陽黒点に関する第二書簡」より。
(*3)マウンダー極小期と呼ばれる。

 #1200年かけた水と熱の大循環

 地球上の大きな循環で、最近注目されているものは海の深層海流による「熱塩(ねつえん)循環」です。
 海には表面を流れる海流だけでなく、深海をゆっくり廻る流れがあります。北大西洋グリーンランド沖で冷やされ沈み込んだ高密度の海水が、海底を南下し南極海を廻り、太平洋海底を北上して北太平洋ベーリング海で表層に戻るまで数万㎞。
 水が一周するのに、なんと1200年かかる大循環なのです。
 地球上では赤道付近の熱を、大気(台風とか)や水(海流)が両極へ逃がすことでバランスが保たれています。深層海流もその一部を担っているのです。
 映画「The Day After Tomorrow(デイ・アフター・トゥモロウ)」でも描かれましたが、さらなる地球温暖化はこの深層海流を突然に止めてしまう可能性があるのです。そしてそれは、救いようのない寒冷化や小氷河期を招くかもしれません。
 実際、直近最後の氷河期が終わる頃、全体では温暖化が進みながら、ヨーロッパでは1300年の間、急激な気温低下が起こったことが知られています。
 温暖化で氷河などの巨大氷床が溶け、冷たい真水が海に大量に流れ込み、この深海海流の大循環を妨げてしまったのです。そのため、暖かな低緯度からの熱の供給が滞りました。
 お蔭で高緯度地域は再び寒冷期に逆戻り。このとき、イギリスの年平均気温はマイナス5℃であったといいます。オーロラで有名な、アラスカのフェアバンクス(Fairbanks)並みの気温です。
 今の地球環境を支えているのは、こういった大きな、しかし脆弱な循環なのです。崩れるのに要するのはたった数十年、でも回復には1000年以上かかります。

 #生命を形作る「元素」たち

 この宇宙でもっともスケールの大きい循環の一つが、恒星(太陽など)と物質(各種元素)のそれでしょう。太陽が元素を生み、元素がまた太陽(や地球や生命)を生み出します。
 人間を元素に還元すれば、61%は酸素8O(8は原子番号)です。それに炭素6C、水素1H、窒素7Nと続きます。これだけで全体の約97%。
 残り3%をカルシウム20Ca、リン15P、硫黄16S、カリウム19K、ナトリウム11Na、塩素17Cl、マグネシウム12Mgなど数十種類が占めています。中には、重金属といわれる重い元素も多く存在します。鉄26Fe、コバルト27Co、銅29Cu、亜鉛30Zn、モリブデン42Moなどがそうです。
 いずれも必須のモノであり、一つとして欠けていては、生命活動は成り立ちません。たとえばコバルト原子はビタミンB12の中核ですが、ビタミンB12なくしてわれわれは赤血球を生産できません。

 では、これら多種多様な元素たちは、どこで、いつ、生まれたのでしょう?
 答えは「太陽の中」で、「太陽が死ぬとき」です。

 #100億年かけた物質の生成と大循環

 宇宙は誕生して137億年といわれます。その初期の頃、宇宙に存在する物質は水素 1H(とヘリウム2He)がほとんど(*4)でした。
 そしてしばらくして、多くの恒星(太陽と同じ、自ら光を放つ星たち)が、それを燃料として核融合反応(*5)を起こし、燃え始めました。宇宙誕生から2億年の後、第一世代の恒星たちの誕生です。
 この世代の星々は大きく、われわれの太陽の100倍以上あったと考えられています。その巨大な星たちの中で急速に核融合反応が進んで、より重い元素たちが作られました。水素1Hがヘリウム2Heに、ヘリウム2Heが炭素6Cに、炭素6Cとヘリウム2Heで酸素8Oがつくられました。
 われわれ生命の構成元素は、巨星の中心、約1億度の高温下で生み出されたモノなのです。
 しかし、その核融合による元素生成も鉄26Feまでが限度です。鉄は極めて安定なので、それより先には反応が進みません。それ以上の重金属(コバルト27Coとか)は、この第一世代の巨星たちの、まさに死の間際の狂乱「超新星爆発(スーパーノヴァ)(*6)」の中でつくり出されていたのです。
 老いた巨星の中心が100億度を超え、鉄原子すら分解し始めるとき、その星は最期を迎えます。
 その刹那(せつな)、星中心は支えを失い、瞬間的な爆縮(爆発的な縮小)と、その激烈な反動の中で様々な反応が起き、あらゆる元素たちが一気に生成されます。コバルト27Co、銅29Cu、亜鉛30Zn、モリブデン42Mo・・・金79Auやプラチナ78Pt、ウラン92Uまで。
 直後に起こる宇宙最大級の大爆発が、超新星爆発です。
 爆縮から大爆発まで、その間わずか1秒以下。
 その大爆発はあまりに強烈で、半径 数千光年内の星々の生命を滅ぼすほど。しかし同時に、宇宙中にこれら重い元素たちをばらまいてもくれるのです。
 そこからまた星が生まれ、惑星が、そして生命が生まれます。

 われらが太陽は第三世代。ゆえにわれらをつくり上げる元素の一つひとつは、2度、こういった星の最期を経験してきた強者(つわもの)たちといえるでしょう。
 そしていつかわれらの太陽が寿命を迎えるとき、私たちも宇宙へと還ります。自らの中に全宇宙がある、とは仏教の教えの一つですが、それは究極の意味において真実なのです。
 この世の中で、消えて無くなってしまうものは何一つありません。すべてのものが廻り廻って、形を変えて、新たな役割を果たし続けるのです。

(*4)いわゆる暗黒物質(ダークマター)を除く。
(*5)核分裂と異なり、軽い元素が融合して重い元素が生まれる反応。その際に質量が数%減少しその分がエネルギーとなって放出される。
(*6)発見当時は「何もなかったところに新しい星が生まれた」と誤解されたための命名。短期間だが一銀河に匹敵する輝きを放つ。

 #太陽観測衛星「ひので」が捉えた太陽の磁気異常

 今起こっている太陽の異常は黒点だけではありません。その発生源でもある太陽磁気そのものが、新しい様相を示しているのです。
 JAXAが2006年に打ち上げた「ひので」は従来の10倍の高解像度を誇る、太陽観測衛星です。2ヶ月をかけて無事に太陽近傍にたどり着き、これまでもさまざまな成果(*7)をあげてきました。
 その最新成果が2012年4月19日にリリースされました。「太陽の磁場が半分だけ反転している」というものでした。
 太陽は大きな磁石のようなもので、やはり11年に一度、そのNS極を反転させてきました。今までは北極がSで南極がNでした。ところが現在、北極がNに反転したにもかかわらず、南極はNのままだというのです。

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(雑誌『Newton』が配信。2012/04/19

 だから?
 これもまた、地球寒冷化への予兆かもしれないのです。過去のミニ氷河期のときと、同じだと。

 太陽は、有史以前からわれわれの営みを支配し、左右してきました。これからもそうでしょう。でもただ畏れることには意味がありません。
 太陽を、もっともっと知ることです。偉大なる先達ガリレオに負けず、そして文科省の予算縮小にも負けず・・・。次期 太陽観測衛星「SOLAR-C」が予算化され、数年後に無事打ち上げられることを期待しましょう。

 そうそう、もうすぐ身近な太陽観測の日がやってきます。5月21日は関東地方を含め、日本の多くの地域で金環食が観測できる日です。まずは晴れることをみんなでお祈りです。そして、観測に向けた万端の準備を。
 くれぐれもガリレオのように望遠鏡で直接のぞいて、視力障害など起こさないように!

(*7)「コロナ加熱問題」や「太陽風の加速機構」など。前者は「なぜ太陽表面は数千度なのに、その大気ともいえるコロナは数百万度という超高温なのか」というものである。

 参考:JAXAプレスリリース資料「太陽観測衛星『ひので』~太陽極域磁場の反転を捉えた」

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プロフィール

三谷 宏治 氏

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
http://www.mitani3.com

1964年生まれ、三女の父。 87年、東京大学理学部物理学科卒、92年、INSEAD MBA修了。87年から96年までBCG、96年から06年までアクセンチュア戦略グループ。03年から06年は同 統括エグゼクティブ・パートナー を務める。 06年8月からは教育(特に子ども・親・教員向け)に注力し全国で講演・研修・授業を行う。 著書多数。『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『一瞬で大切なものを決める技術』はビジネス書賞を獲得。近著に『戦略子育て』『新しい経営学』『戦略読書〔増補版〕』など。早稲田大学ビジネススクールおよび女子栄養大学 客員教授。永平寺ふるさと大使。

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