「PEファンドとは何なのか」まずはその基礎を正しく理解してほしい

【堀】「ベインキャピタルはどんな集団なのか、という話をする前に、まずはPEファンドの役割とは何なのか、という話がしたい」
堀氏は冒頭でまずこう語り始めた。背景には日本のビジネスパーソンがいまだ「PEファンド」そのものを正しく認識できていない、との観測がある。堀氏はこの認識の不足を「ある意味やむをえないこと」という。
最近でこそM&Aなどの投資行為が、日本でも身近な経営マターとして認識されつつあるが、それでもなお「ファンド」という言葉に対する誤解が多いとのこと。たしかに、巨大な資本で株を市場で大量買い付けして経営改善を求めるアクティビスト・ファンドと、PEファンドの違いを明確に言い分けられる者でさえ、そう多くはないのが実態だ。
【堀】「私たちの役割は、大まかに言ってしまうと2つしかありません。1つはファンドへの投資家に代わって、優れた潜在可能性のある会社をファンドにアドバイスする役割。もう1つは、その企業の経営を支援して、企業価値向上を現実のものとするお手伝いの役割です」
短期的な株転売によるゲインを目的とするのではなく、当該企業の長期的な経営支援を自らが参画して行いながら、着実なリターンを投資家に提供する存在。それが優れたPEファンドなのだと堀氏は説く。
【堀】「現役のコンサルタントであれば、この程度の理解はあってしかるべきかもしれません。しかし、私自身もベイン・アンド・カンパニー時代には、少しイメージ違いを起こしていました。だからこそ、まずは多くの方にPEファンドの機能と存在意義を知ってもらいたいと思うのです」
それでは、数あるPEファンドの中で、とりわけプレミアムだといわれるベインキャピタルの特徴とは、どこにあるのだろうか?
「投資先企業の企業成長と価値向上に貢献する」ことに集中する姿勢こそが、真のリターンを生む

【堀】「何よりはっきりしているのは、先に申し上げた2つの機能にそった形で組織が分かれている点です。ディールグループと呼んでいる投資チームは、どういう企業にどんな戦略や経営改善を行えば有効なのか、という視点で、投資を具体化し、投資実行後も適宜サポートしていく役割です。ポートフォリオグループと呼んでいる経営支援チームは、投資先企業の組織に実際に参画し、経営陣とともに企業価値向上を実現していく役割です。この2つの強力なチームが常に両輪となって動く点が、他ファンドとの第一の違いだといえるでしょう」
ベインキャピタルは'84年の創設時から、ベイン・アンド・カンパニーで培われた「レポートを届けるのではなく具体的結果を届ける」という経営支援のノウハウも活用することで差別化を続けてきた。そしてベインキャピタルが多大な実績を上げていったことで、他の巨大ファンドもベイン流を少しづつ取り入れ始めたのが現在の状況のようである。それゆえ、表向きは他ファンドも似通った姿勢をとっているように見える。だが、「本気で経営支援に注力し、事実効果を上げる力」において、絶対の自信を持っていると堀氏もいうのである。
【堀】「違いは単純なところにも現れます。例えば1つの案件に関わる人員の数の違い。一定の投資規模に対する投入人員数を見ても、他のファンドのおよそ2倍以上の人員が関わっています。人手をかける。これはつまり、短期的なマネーゲームで終わらせるのではなく、本当に企業の成長と企業価値を上げていこうとする姿勢の現れなのです」
さらにもう1つの「現れ」が、クレジット・コミッティ(投資委員会)の判断の厳しさが他よりも際だっている点だという。
【堀】「案件を獲得して、投資ディールとして成立させることを優先すれば、時に多少無理な投資条件でも、目をつぶる場合もでてくるかもしれません。それを『うちは、柔軟な姿勢で投資判断を行っている』という言い方でごまかすこともあるでしょう。しかし、こうした安易なアプローチを行えば、当然リスクは高まります。結果として投資家と投資企業の双方を痛めてしまう結果にもなりかねません。ベインキャピタルのクレジット・コミッティは厳格を極めています。あくまでも投資先企業と投資家双方のメリットを追求できる投資案件を峻別するにとで、これまでも成功してきたわけです」
以上のような、取り組み姿勢の独自性だけでも大きいのだが、堀氏はさらに「他ファンドとのいちばんの違いかもしれない」と前置きをしながら、投資家自体の「違い」にふれる。
【堀】「ベインキャピタルでは、投資先企業の四半期ごとの業績で一喜一憂する投資家でなく、もっと長い時間軸で投資先企業成長し業績を大幅に向上し、結果的に高いリターンがあがることを評価をしていく投資家が中心です。それゆえ、主な投資家としては大学の財団や、個人の財団、企業経営者などが名を連ねているのです。『長期にわたってコミットし、その結果としてのリターンを得る』という考え方に賛同していただける投資家だけが我々のファンドに投資してくださっているわけです」
こうベインキャピタルの特徴を説明し終えた堀氏は言う。「以上のすべてが整合性を持って揃わなければ、企業価値を真に引き上げることなど不可能だ」と。「あくまで投資先企業によくなっていただくことが主で、目先のリターンはあくまでもその結果だ」と。
経営を知り、信頼関係を築き、倫理観を堅持できるロングターム型人材に期待

当然のことかもしれないが、ここまで聞いてきたように、独自性の高い姿勢を維持するベインキャピタルでは、メンバーのキャリア・バックボーンの面でも、他ファンドと大きく異なるようだ。
【堀】「現在、世界全体で約400人がベインキャピタルのメンバーですが、そのうち約7割が事業会社もしくはコンサルティングファーム出身者で構成されています。金融業界出身者は約3割です。他ファンドの構成比は、おそらくベインキャピタルの逆でしょう。金融出身者の比率がずっと高い。もしもPEファンドの使命が金融の理論だけで成立するのなら、それでいいでしょう。しかし、少なくともベインキャピタルの使命は、金融の理論と産業の理論の最適バランスでのハイブリッドです。そういう視点でいえば産業側7割、金融側3割という構成比はベストだと自負しています」
ただし、例えばコンサルティングファーム出身者は金融の理論を知らなくてもいいのかといえば、そうではない、と堀氏。「総じてEXコンサルタントはPLには強いが、バランスシートには弱い(笑)。それではいけません。私自身、今も猛勉強中です」と微笑む。
ではPEファンドで活躍できる人材の条件とは、何なのだろうか?
【堀】「4つしか条件はありません。1つは経営に関わる基礎スキルをきちんと掌握できていること。もう1つは、真に経営者の視点でものを考えられる素地があるか。3つめが人との信頼関係を築くことができるかどうか、がそのうちの三つです」
根本的にはコンサルティングファームの求める人材像と変わりがないように見える。そう告げると、堀氏はうなづく。
【堀】「補うべき知識など若干の違いはもちろんありますが、本質的なところは変わりませんよ。ただし、PEファンドでは自分たち自身も投資に参加します。つまり、コンサルタントのように、お金を頂いて経営の支援を行うのか、自らリスクを背負って当事者として企業の方たちと一緒に経営に携わるか、という違いはあります。また、コンサルティングの場合、多くは1つの事業、あるいは1つの経営課題に取り組むことになりますけれど、PEの人間は会社の経営すべてにコミットする立場です。だからこそ、先ほど言ったように『本当に経営者の視点を備えているか』『本当に経営ができるのか』という部分が、厳しく問われることになります」
また、現在の東京オフィスの人員が20名弱であり、今後も着実に増強する予定はあるものの、人数を10倍に増やすような発想はないという。つまり、限られた人数で大きな仕事を担い、責任を果たす立場になる。だからこそ「他者と信頼関係を築く」力が必要条件になるのだ。
しかし、何よりも優先したい条件があるという。それが4つめの要素。
【堀】「私たちはインティグリティと呼びますが、わかりやすくいえば倫理観です。PEの仕事はともするとディール・オリエンテッドに陥りがちな面を持ちます。しかし、それでは本当の貢献はできません。きちんとした倫理観と投資家、企業双方に貢献する使命感とを正しく維持しなければ、ベインキャピタルでは務まらないと考えてほしいのです」
「クライアントにバリューを」というのは、ベイン・アンド・カンパニーのコアの思想だ。堀氏によれば、以上のようなベインアプローチを実践しつづけているのが、ベインキャピタルなのだというのである。自らもリスクを背負って、当事者として投資先企業にバリューをもたらす。この思想に共感できることが、ベインキャピタルのメンバーには求められるのであろう。
【堀】「人を急激に増やすつもりはありませんが、他方で1人ひとりのメンバーに長く在籍してほしい、と望んでもいます。一概には言い切れませんが、コンサルタントよりもずっと『ベテランになることの意味や価値』がPEの仕事にはあります。パートナーシップやチームワークが非常に重要なミッションですし、何年も前に築いた信頼関係が今になって大きく役立つ、という局面もある仕事です。ですからライフワークとして取り組みたい、という方も大歓迎したいですね」
コンサルティングと似ている部分、異なる部分をしっかりと把握し、ベインキャピタルが示す方向性に共鳴する人材ならば、今こそチャンスは開かれているのである。























