【佐竹】伊藤さんは、東大、マッキンゼー、ベインキャピタルという華々しい経歴をお持ちですが、なぜ中小企業向けのサーチファンドに取組もうと思ったのか、自己紹介も兼ねて、ご説明をお願いできますでしょうか。
【伊藤】伊藤公健と申します。2020年に当社サーチファンド・ジャパンを立ち上げ、代表をしています。その前の経歴としては、新卒でマッキンゼーに入社した後、ベインキャピタルというラージキャップのPEファンドに転職し5年半ほど働いていました。当時はベインキャピタルが日本オフィスを開設して間もない時期で、少人数の投資チームの組織の中でPE投資の経験を積むことができました。
その後ベインキャピタルを辞めて、当時あまりなかった中小企業向けのPE投資に取り組んでみたいと思っていた2014年に、サーチファンドに出会い自らチャンレジした結果、中小企業のM&Aと経営を実現することができました。自分の経験を踏まえ、この仕組みを日本に広めたいと思いサーチファンド・ジャパンを立ち上げ今に至ります。
【佐竹】サーチファンドはアメリカではよく聞く言葉だと思いますが、日本ではまだ浸透していない新しい投資の仕組みだと思います。サーチファンドの仕組みを簡単に教えて頂けますか。
【伊藤】サーチファンドはPE投資の一種で、経営者を目指す個人が投資家から出資を受け、M&Aと投資後の経営を主導する仕組みです。サーチファンドの仕組みでM&Aと経営者を目指す個人は一般的にサーチャーと呼ばれます。
個人でPEファンド的な活動をすることになるため、個人版PEファンドともいわれます。
【佐竹】伊藤さんは日本ではじめてサーチャーとしてサーチファンドに取り組んだと聞いています。どうやってサーチファンドに出会ったんでしょうか。
【伊藤】最初にサーチファンドを知ったのは、とあるサイトでたまたま見つけたという偶然の出会いでした。当時は、カタカナで検索しても全く情報が無い状態でしたが、海外の情報を調べてみると自分のやりたいことにぴったりな仕組みだと思い、手探りで活動を始めました。
【佐竹】偶然の出会いだったんですね。サーチファンドという仕組みをしって、そのビジネスモデルにどんな可能性を感じたのでしょうか。
【伊藤】私がサーチファンドの仕組みを知った2014年当時は、中小企業向けのPEファンドがあまりなかったんです。規模が小さい投資は、組織的なファンドからすると手間がかかる割にリターンが小さいので、取り組みにくいんです。ただサーチファンドの仕組みで、個人が中小企業を対象とした投資ができるようになれば、PE投資のすそ野が広がる可能性があると感じました。
さらに、当時の私のようにまだ個人としては実績のない人材がM&Aと経営にチャンレジできる仕組みであり、経営者になる新しいキャリアパスという意味でも非常に大きな可能性を感じました。
【佐竹】確かに日本では、経営人材がまだまだ足りないという事は言われて久しい一方で、経営の経験を積む場が限定的という問題もあります。そんな中、サーチファンドという仕組みは社会的な役割も大きくなりそうな気がします。
伊藤さんが日本初のサーチャーとして事業承継を実現してから10年が経ち、サーチファンド形式の投資ファンドが日本でも複数立ち上がっています。サーチファンドのパイオニアであるサーチファンド・ジャパンは、どのようなミッションを掲げ事業を推進しているのでしょうか。
【伊藤】私がサーチファンド・ジャパンを通して実現したいミッションは、「中小企業を承継し再成長させる、新しいアントレプレナーシップのかたちを日本に定着させる」というものです。特にM&Aを通じた経営者輩出の視点が強いです。
自分にとってサーチファンドを通じて経営者を経験したことは、大きなキャリアの転換点でした。アントレプレナーとして、トップとして自分の責任で仕事をすることで、仕事に向き合うマインドが大きく変わりました。
同じようにサーチファンドという仕組みで、経営経験を積んだリーダーを増やすことは、サーチャー自身にとって、また日本経済や社会にとっても大きなプラスになると考えています。
【佐竹】今後5年後、10年で、サーチファンドの仕組みを通じてどういう世界を実現したいとお考えでしょうか。
【伊藤】30年前には転職というキャリアは一般的ではなかったと思います。15年前には起業というキャリアも珍しかった。でも今は転職も起業も立派なキャリアとして当たり前になっている。サーチファンドの仕組みで経営者になるというキャリアも、10年後にはそのくらい当たり前になっているといいなと思います。
そのためには、サーチファンドの仕組みで活躍する経営者の成功事例を積み上げることが大事な時期だと思っています。
サーチャーが経営者として成功し、その人に憧れてサーチャーになる人が続いて・・というサイクルが回る社会にしていきたいですね。
【佐竹】素晴らしい世界観ですね。そのサイクルを加速するためにはどんな工夫が必要だとお考えでしょうか。また課題として感じていることがあれば教えてください
【伊藤】はい、そこがまさに当社の投資戦略にも繋がってくるところです。もともとサーチファンド発祥の地アメリカの仕組みでは、M&Aの全プロセスをサーチャーが独力で推進することが求められます。案件ソーシング、エグゼキューション、投資後の経営、これらすべてを一人でやることを前提とした仕組みなんです。
でもこれを前提とすると、サーチャーになれる人が非常に限られてしまい、サーチファンドの仕組みが広まらないと考えています。
当社では、M&Aの専門的な部分は投資家として手厚いバックアップを行い、サーチャーには経営者としての事業の見立て、戦略作り、投資後の経営実行に集中してもらえる支援体制を取っています。
M&Aに関する知識や専門性の不足を我々が補うことで、サーチャーにチャレンジできる人のすそ野を広げていくというのが我々の戦略です。
【佐竹】サーチャーとサーチファンド・ジャパンが二人三脚で事業承継を進めていくという事ですね。
今後の展開についてもお話をお聞きしたいと思います。従来のPEファンド業界では、バイアウト投資だけでなく、グロース投資やベンチャー投資にも取り組むファンドも増えています。サーチファンド・ジャパンとしては、投資領域や戦略の広がりについてはどうお考えですか?
【伊藤】現在の投資対象は、従来のPEファンドと同様、いわゆるバイアウト投資に注力していますが、将来的には投資の幅は広げていきたいと思っています。例えばベンチャー投資や再生投資、また マイノリティ投資や長期目線での自己勘定投資などの可能性も模索していきたいです。
「個人がM&Aを通じて経営者になる」というのがサーチファンドの最大の特徴なので、投資対象や手法は広げていけるといいなと思います。
【佐竹】今後の広がり、可能性を感じますね。
現在運用中のファンドの状況や投資方針についても教えていただけますか。
【伊藤】足元では、2023年3月に2号ファンドを立ち上げ、投資家を追加募集中です。
これまでの投資実績としては、1号ファンドからの累計で6件、うち2号ファンドからは2件投資を実行しており、投資自体は順調に進んでいるかなと思います。10月には初のエグジットも実現しました。
投資方針としては、投資の件数を増やしていきたいと思っています。経営者の数を増やすのが我々の大事なミッションですので。2号ファンドからは10件弱の投資をしたいと思っています。
また、より大きな企業への投資も積極的に検討していきます。2号ファンドでファンド規模も多くなり、1号ファンドよりも大きなM&Aに対応できるようになりました。
【佐竹】最後に、どんな人にサーチファンド・ジャパンの門を叩いてほしいですか。また今サーチファンド・ジャパンに参画する魅力についても教えて頂けますか。
【伊藤】サーチファンドという新しい投資の仕組み・マーケットを一緒に作っていけるまたとないタイミングだと思います。同時に、サーチファンド・ジャパン自体も立ち上げ途上ですので、コアメンバーとして会社創りを一緒にできるタイミングでもあります。
ですので、マーケットや会社を自分たちで立ち上げることを楽しめる方に来てもらいたいと思いますね。
あとはチームの雰囲気としては、当然、投資検討のクオリティは大事にしつつ、私も含めて全員平場できれいごとや青臭い議論を大事にしながらやっています。一人のプロとして、「思い」も含めて誠実に投資に向き合える方は、当社のチームで高めあえるのではないかと思っています。
【佐竹】伊藤さん、サーチファンドの可能性、サーチファンド・ジャパンの特徴について理解が深まりました。本日は、ありがとうございました。
プロフィール
伊藤 公健 氏
代表取締役
マッキンゼー、ベインキャピタルを経て、日本初のサーチファンド活動。㈱ヨギーほか、中小企業への投資・支援多数。2020年当社設立、代表に就任。株式会社マクロミル社外取締役。東京大学修士(建築)、福井県出身
神戸 紗織 氏
シニアマネージャー
地方銀行へ入行後、金融商品開発、中堅中小〜大手上場企業向け融資営業、経営企画業務、合併業務・DX推進業務に従事。2022年に当社入社。一橋大学卒、長野県出身
新實 良太 氏
シニアマネージャー
日本政策投資銀行へ入行後、法人営業、採用、金融機関/事業会社との協働ファンド投資業務に従事。2020年の当社設立当初から当社チームに参画。東京大学卒、愛知県出身
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