はじめに、デジタル領域における組織体制と、その背景や狙いについて教えてください。
【柴谷】BCGでは、クライアントである民間事業会社・公共官庁のデジタル化を支援するためこれまでに様々な部門が設立され、プラクティスが積み重ねられてきました。BCG Platinionは2000年に設立されたITアーキテクチャやDXに特化した専門組織です。クライアントのITプラットフォームやアーキテクチャの設計、構築、実装などを支援しています。具体的には、技術戦略、アーキテクチャ、プロダクトデザインなどのノウハウを蓄積し、クライアント事業のデジタル化に必要な要素をインテグレーションするアドバイスを行っています。
TDA(Technology and Digital Advantage)は、多様な業界を横断し、最新のテクノロジーやソリューションを活用して、クライアントへの価値提供を目指している組織です。デジタル戦略に特化したコンサルタントで構成され、クライアントに近い立ち位置で各産業のエキスパートと一緒に問題解決に取り組んでいます。
複数のデジタル組織を統合する形で2022年に設立したBCG Xは、テクノロジーやデジタルを駆使したビジネス、およびプロダクトビルディングを担う専門家集団です。0から1を生み出すようなイノベーション領域を担当することも多いです。
当初、戦略コンサルティングファームがデジタル領域に参入することは比較的新しい試みでした。各組織で様々なデリバリーを試行錯誤する中で、クライアントのニーズに合わせて現在の形に進化してきました。
【真保】実際には組織間の垣根はなく、1つのプロジェクトに各組織の専門家が連携して入ることが多いです。クライアントのコンテキストに応じて、プロジェクトごとに柔軟に体制を組んでいます。
BCGのデジタル領域におけるコンサルティングは、クライアントに対しどのようなアプローチでどのような価値を提供しているのでしょうか。
【真保】BCGが最も強みとするのは、ソリューションやシステム開発ありきではなく、「本質的な課題が何か」という、問題の特定から入ることです。この段階では、デジタル組織のメンバーだけでなくコンサルタントも一緒に議論を行います。問題を特定できたら、今度はそれが「ITやデジタルを活用して解くべき問題なのか」を考えます。このステップを必ず踏んでから実行に至る点は、BCGの大きな特色であり強みであると考えています。
また、BCGの"中立性"も大きな強みです。BCGはシステム部隊を持たず、中立的にクライアントのための提案ができるので、クライアントも私たちに対して本音で話してくださいます。
また、BCGの支援はシステムやソリューションの提供にとどまりません。私たちは、プロジェクトが終わった後でも、クライアントが自身でオペレーションを回せる状態になるまで伴走します。そのため、現場の方々がノウハウを身につけるためのご支援もします。結果、「社員の成長につながった」「視野が広がった」といった評価をいただくことも多々あります。
【柴谷】私たちは「B.O.T」(Build, Operate, Transfer)というアプローチをとっています。システムを構築するだけでなく、運用し、最終的にはクライアントに移管し、自走できるようになることを重視しているのです。
私は大手シンクタンクで17年間、主に金融分野のコンサルティングに携わり、その後外資ITコンサルティングファームを経て2020年にBCGに入社しました。様々な企業を経験してきた視点から申しますと、戦略策定やアーキテクチャデザインなど、実務自体の構造はあまり変わりません。最大の違いは、BCGは「業務やシステムを提供することで対価を得ている会社ではない」ということです。
クライアントにとって本当に必要なものは何か、真のバリューは何かというところから向き合えるのが醍醐味です。クライアントが「解決してほしい」と思って依頼してきた内容自体を見直すこともあります。特にデジタルプロジェクトは、後工程に多くの投資やコストがかかるため、「本当にそこが課題なのか?」「市場として向き合うべき課題はもっと別のところにあるのでは?」といった問いかけを最初にしっかり行い、方向性を設定することが重要です。加えて、仮説検証や課題の特定などのプロセスにおいて、BCGのスピード感や調査の深さ、解決策の質は、圧倒的に高いとも感じています。
具体的なプロジェクトについて、印象に残っている事例を教えてください。
【真保】日本のある空港に対するDXプロジェクトが印象に残っています。空港は、日本の交通インフラとしての歴史が長く、ステークホルダーも多種多様です。一方で、業務オペレーションは属人的で、職人技のような業務が積み上げられてきました。そのため、人手不足という課題に対し、デジタルの力で対応する必要があったのです。
私たちはまず「空港としてどうあるべきか」という問いから入りました。問いを設定後、デジタルを活用する必要があると判断できたため、空港オペレーションの最適化に取り組みました。具体的には、データサイエンティストがアルゴリズムやAIを使ったソリューションを提案し、PoCとして実際のオペレーションに適用。効果を測定し、最終的にはそのノウハウをクライアントに移管するところまでを伴走しました。
プロジェクト前には「紙とペン」で行われていた作業が、プロジェクトを経てデジタル化され、その結果効率化に成功。さらに、そのオペレーションを実施してうまくいかない場合でも、その理由を特定できるようになったことが大きな成果だったという声をいただきました。
【柴谷】このプロジェクトの背景には、空港のオペレーションについて、世界的に見れば空港主導で最適化している例がある一方で、日本は航空会社主導で発展してきたという歴史があります。データを集め、「空港のオペレーションや顧客サービスを科学する」ことで、空港管理会社と航空会社の間の関係性にも変化が生まれ、結果的に国際競争力のある空港づくりの基盤となると考えています。
日本企業のDX推進における最大の課題は何だとお考えですか?
【柴谷】根本にはソフトウェア人材市場の構造的な課題があります。日本は長年、ハードウェアや製造業が強みとされてきたため、相対的にソフトウェア分野の競争力が低下しています。また、日本のIT産業はSIerやITベンダーが牽引してきましたが、現在は事業会社自らがデジタルのケイパビリティを備えることの重要性が高まっています。これは特定の企業の問題というよりは、日本の業界構造の問題です。政府による規制改革や、海外の先進事例を学ぶなど、様々なアプローチを通して、構造を変革していく必要があるでしょう。
【真保】私がBCGに入社した動機の一つは、そうした「日本のIT業界の構造的な課題を変えたい」という思いでした。IT業界の構造問題を解決することを通して、日本の産業全体の競争力向上に貢献したいと考えたのです。
しかし実際に働く中で、業界構造を変えていくためには、より根本的な問いが必要であることに気づきました。それは「自分たちがどんな企業(存在)なのか」という、アイデンティティへの問いです。
例えば、アメリカのある銀行では「我々はテックカンパニーである」と自己定義し、「その機能の一つとして銀行部門がある」という形で発想の転換をしています。日本企業ではまだ自己の再定義を行っているところは少なく、DXは現状の業務の効率化や省力化に対する手段として捉えがちです。しかし、この思考の転換は、ビジネスを大きく変革していく際に重要なポイントになると考えます。
日本企業のDXを成功させるために、BCGはどのような支援を提供していますか?
【柴谷】デジタルテクノロジーは、実際に使ってみないとその真価がわからないケースが多々あります。経営アジェンダでありながら、調査や分析だけではソリューションの可否を判断するには不十分で、時には「実際にコードを書かないと本質が見えない」という難しさがあるのです。そのような場面でも、戦略から一気通貫で形にするまでの機能を提供できることがBCGの強みです。
【真保】最近では、生成AIへの注目が高まっており、プラクティスも数多く生まれています。10年ほど前にオンプレミスからクラウド化への大規模な移行が進んだように、新たな波として捉えていますが、私たちは生成AIを単なる技術的ソリューションではなく、クライアント企業の変革を加速させる触媒として活用しています。
最後に、お2人のキャリアの展望や今後の取り組みについてお聞かせください。
【真保】「日本のIT産業の構造を変革したい」という思いを実現するためには、現時点ではBCGが最適な場所だと感じています。個人的には、どこに所属したとしても社会にインパクトを残せることが重要だと考えていますが、BCGはそれをより実現できる場所だからです。
【柴谷】私もBCGという環境が合っていると感じています。最近私は、クライアントの人事業務改革のプロジェクトを支援しているのですが、BCG自体のジョブ型キャリア開発の仕組みは、多くのクライアントにベンチマークしていただいています。プロジェクトでの経験や知見が評価され、キャリア形成に反映される仕組みがしっかりとあることは強みだと思います。
BCGでは産官学のオピニオンリーダーやビジネスリーダーとの対話の機会も多く、特定の事業会社では得られない経験ができます。志や能力が高い人々とともに働けることも大きな魅力ですね。特定の事業会社にいるとできないようなプロジェクトや業務がたくさんあるので、非常に働きがいのある環境です。
この場所に魅力を感じ、新たな挑戦をしたいという方と、ぜひご一緒できることを楽しみにしています。
プロフィール
柴谷 雅美 氏
ボストン・コンサルティング・グループ合同会社
Managing Director, Platinion
国内大手シンクタンク、外資ITコンサルティングファームを経て、2020年にBCGに入社。BCGテクノロジー&デジタルアドバンテッジグループ、パブリックセクターグループのコアメンバー。
パブリックセクターおよび金融・通信業界を中心に、デジタルプラットフォームを活用した社会・業界・企業変革の構想・戦略策定から実行サポートまでを手掛ける。特に業態をまたいだ企業連携によるエコシステム作りや、それを推進するデータ流通やトラストなど政府主導の官民共同規制、企業内デジタルケイパビリティを向上させるCoE化などに関する知見、経験が豊富。
真保 英 氏
ボストン・コンサルティング・グループ合同会社
Principal IT Architect, Platinion
国内大手シンクタンクから2021年、BCGに入社。BCGテクノロジー&デジタルアドバンテッジグループのメンバー。データ&デジタルプラットフォーム領域のアーキテクト、プロダクトマネジメント/アジャイルエキスパート。
金融・通信・公共インフラ業界のエンタープライズ企業を中心に、デジタルプラットフォームを活用した企業変革の戦略策定から実行までをサポートし、特にプロダクトやサービス開発を通じて、組織・社員のデジタルケイパビリティ向上を支援。海外企業とのIT統合などグローバルケースにも複数従事。
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