まずはご自身のご経歴と、現在の役職について教えてください。
大学卒業後、コンサルティングファーム2社を経て、2014年にDTCに入社しました。M&Aに関して言えば、DTC入社前から、ビジネスデューデリジェンスやM&Aの戦略策定などに携わっており、20年近くこの領域で仕事をしていることになります。DTC入社後は一貫してM&Aユニットに所属しており、3年ほど前からリーダーを務めています。
M&A ユニットはどのようなチームなのでしょうか。
ユニットにはパートナー8名のほか、140名ほどが在籍しています。手掛ける領域は大きく5つあり、それぞれ「M&A Strategy(M&A戦略の立案など)」、「M&A Deal Execution(事業戦略・中期事業計画実現に向けたディール推進)」、「Merger for Growth(クロージング前後からの企業統合活動の推進)」、「Strategic Reorganization(グループ組織構造変革など)」、「Technology-based M&A(M&AにおけるIT関連イシューの解決など)」です。
5つの領域があるとは言え、できるだけメンバー一人ひとりにさまざまな経験を積んでもらい、M&Aのプロフェッショナルになってもらいたいと考えていますので、案件のアサインメントは領域を限らず、流動的に行っています。
DTCのM&Aユニットの強みについて教えてください。
DTCはMDM(Multi-Disciplinary Model)という戦略を掲げており、デロイトグループが有する多岐にわたる知見やサービスを融合し、独自の価値を生み出していくことを目指しています。デロイトは監査法人から始まり、現在ではコンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、リスクアドバイザリーなど、多様な領域で専門家が知恵を出し合って、総合的にクライアントのサポートを行っている会社ですが、M&Aは特に、そういった専門家同士の協業が必要な世界です。さらに、組織がインダストリーとオファリングとのマトリックス構造になっていることによって、さまざまな業界の知見を持つメンバーともチームを組んで日常的に一緒に仕事をしています。
これだけの数の専門家を揃えられるのは、数あるコンサルティングファームの中でも基本的にBig4に限られるのではないでしょうか。中でもデロイトは規模が大きく、M&Aは規模の経済的な観点でも、DTCの強みが生かせる領域だと考えています。
M&Aの仕事の醍醐味を感じるのはどんなときでしょうか。
私たちのチームのミッションは、「日本企業の企業価値を上げることにコミットしたい」というところにあります。日本企業が世界からリスペクトされて、経営という観点でもロールモデルになるような、価値ある会社を作っていきたい。そのためには、M&Aではなく研究開発や設備に投資をしなければならないときもあれば、M&A自体を止めなければならないときもある。「企業価値を上げるためにどうすればいいか」にきちんと向き合って、企業に適切なアドバイスしていきたいという矜持があります。ですから、M&Aの冠を掲げているチームではあるものの、M&Aだけにこだわっているわけでもないんです。
ただ、企業価値の指標の一つと言える株価を上げるための手段として、M&Aは圧倒的にパワフルでスピーディーな手段である、ということは間違いありません。買収だけでなく売却も含めて考えると、M&Aの売却を実施している会社ほど、PBR(株価純資産倍率)が上がっているというデータも出ています。
M&Aを実施する際は、多様な専門家がワンチームになり、クライアントのアドバイザーになります。M&Aユニットのメンバーは、特定の領域だけに詳しければいいわけではなく、全てを総合的に把握して判断していかなければなりません。このプロセスは、いわば経営そのもの。M&Aは経営を理解していなければできない、という側面があります。ここにM&Aの面白さ、そして難しさがあると思います。
過去に携わられたプロジェクトで、印象に残っているものはありますか。
日系の大手製造業A社のカーブアウト案件です。昨今、いわゆるJTC、ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニーと呼ばれる企業が、これまでは考えられなかったような何千億、何兆円規模の事業売却を行うということが普通に起こるようになってきています。
A社の案件は、大規模かつクロスカントリーなプロジェクトで、100名以上が出席するオンライン会議を続けるなど非常にタフなプロジェクトでしたが、企業価値の向上につながる形で無事にクロージングできました。
また、M&Aを起点として構造改革に着手した、B社の案件も印象に残っています。赤字を抱えた事業に対して構造改革のプランを考え、製品のコントロールの見直しやプライシングの戦略立案、人的資本の整理、営業生産性の向上やマーケティング、販売戦略を考え直すなど、多岐にわたる施策を提案し、共に実行してきました。2年ほどかけて取り組んだ結果、以前に比べて10ポイント近く営業利益比率が改善し、非常に大きな成果を出すことができました。
昨今のM&A案件におけるトレンドについて教えてください。
先ほど挙げたA社のような日本企業の大型案件は増加しています。また、B社のような、M&A後のPMIやバリュークリエイションを重視したり、M&Aをきっかけにした全社的なトランスフォーメーションを成し遂げたいという企業も増えていると感じています。
伊藤邦雄先生が「伊藤レポート(※)」の中でROE(自己資本利益率)8%以上を最低限目指すべきだと提唱され、最近では経済産業省も「持続的な企業価値の向上」や「価値創造経営の実現」を目指した企業経営や構造改革を支援しているように、「PBRやROEをいかに上げていくか」は昨今のM&A領域における重要なテーマです。
(※)2014年8月に公表された、伊藤邦雄一橋大学教授(当時)を座長とした、経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書の通称
そして、資本効率を上げていくためには、事業の売却は非常に効果的であるということが分かってきていますので、今後も、大企業において事業売却のケースは増えていくだろうと予想しています。
M&Aユニットの今後の展望と、求める人材について教えてください。
デロイト トーマツ グループ全体としては、既存のコンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、リスクアドバイザリーを統合した、コンサルテイティブビジネスを新設した新しい事業体制が始まろうとしています。これまでも一緒に仕事をしてきた仲間ですので、大きく取り組み方が変わるわけではありませんが、より組織の壁がなくなることで、クライアントに対するパフォーマンスも、マーケットにおけるプレゼンスも向上すると見込んでいます。
一方、我々のチーム単独で見た場合も、日本のM&A市場からするとさらに成長していける余地は非常に大きいと考えています。採用にも力を入れているところですが、コンサルティングファームとして、ロジカルシンキングや仮説思考といった基本スキルを持っている人材であることは前提とした上で、求めることは大きく3つあります。
まずは「人間力」があること。M&Aというビジネスは、企業にとっては社運を賭けるほどの重大な意思決定であり、莫大な投資を伴います。そうした場で、「この人の意見を聞いてみたい」と思われる人間になれるかどうかが、やはり大事になります。そのためには、謙虚な姿勢でさまざまな物事から学び、自分に足りないものを認めて成長していくことが求められると思います。
二つ目は、プロフェッショナリズムです。M&Aのプロフェッショナルである以上、働いた時間の長さに関係なく、結果でしか評価されない世界に身を置くことになります。そこに身を置く覚悟を持って、自らを成長させ、クライアントの期待値を少しでも超えようとする矜持を持てるかどうかは、とても重要になるでしょう。
三つ目は、日本企業の価値を上げていきたいという思いを持っているかどうか。我々のミッションに共鳴し、やってみたいという人と、ぜひ一緒に仕事をしたいと思いますね。
最後に、採用候補者へのアドバイス、メッセージをお願いします。
コンサルタントは、はっきり言って厳しい職業です。その厳しい世界でも、「世の中に対して影響力のある仕事をしたい」という思いで仕事をしている仲間が多くいます。自分もやってみたいという意欲のある人には、経営の本質を肌で感じることができるM&Aという領域に、ぜひ若いうちにたくさん触れてもらいたいです。クライアントの経営者に価値のある提案ができて、「何か困ったことがあったら、この人に聞きたい」と思ってもらえる人材を目指してほしいですし、我々もそれを後押しします。
たとえM&Aの経験がなかったとしても、意欲と潜在能力のある人なら、一人前のコンサルタントに成長してもらうための機会と仕組みはDTCに一通り揃っていると自負しています。たくさんの人の挑戦をお待ちしています。
プロフィール
汐谷 俊彦 氏
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
執行役員 パートナー / M&A Unit リーダー
複数のコンサルティングファームおよび事業会社経営企画部門等を経て、2014年にデロイト トーマツ コンサルティング入社。以来、医療機器、重工、生命保険会社等々、幅広い業種の大手日系企業と向き合い、PMI、カーブアウト、M&A基点の経営変革、クロスボーダー案件、事業再編案件などで実績を上げてきた。
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