NTTグループのイノベーション組織が取り組む
人間中心のデザイン部門
まず、「KOEL」のミッションを教えてください。
【金】「KOEL」はNTTコミュニケーションズの中にあるデザイン組織で、「デザイン×コミュニケーションで社会の創造力を解放する」ことをミッションに掲げています。「KOEL」というネーミングには、あらゆるものを「超える」という私たちの意志を込めました。
NTTコミュニケーションズは、幅広い領域のクライアントにICTソリューションを提供する「ビジネスソリューション本部」と、デジタル社会に求められる新たなプロダクトを開発する「プラットフォームサービス本部」の2つに大きく分かれています。
「KOEL」が所属する「イノベーションセンター」は、この両方の組織に対する既存事業の変革と新規事業の創出を行っています。「イノベーションセンター」は、事業を生み出すプロデュース部門、エンジニア集団であるテクノロジー部門、技術トレンドを見ている技術戦略部門、そして私たち「KOEL」が担うデザイン部門の4つの組織から成ります。
なぜ、NTTコミュニケーションズにデザインの力が必要だとお考えになったのですか?
【金】NTTコミュニケーションズは「CHANGE COMMUNICATIONS.」「インターネットを変えていく」という挑戦的なスローガンを掲げた戦略的イノベーション組織として誕生し、インターネット事業のOCNをはじめとする様々な社会インフラを開発・整備してきました。NTT一社時代から続く電話事業や、大規模ネットワーク事業など、これまで当社のリリースしたサービスは「人々から情報インフラとして求められ、ニーズが顕在化しているもの」であり、使っていただけることが当たり前。リリースすれば、ユーザーが自然と増えるような状態でした。
しかし次第に次世代の柱となるような新しいプロダクトやビジネスが生まれにくくなります。そこで10年ほど前からデザインの力を活用し、社会にインパクトを生み出す魅力的な事業やプロダクト、プラットフォームを生み出せないかと考えるようになりました。
その中でたどり着いたのが、人間中心でユーザーと向き合い、求められるものを探り当ててプロダクトに昇華させる「デザインシンキング」やUXデザインの考え方。その後、紆余曲折を経て組織を立ち上げることになりました。
それまでマーケターやエンジニアはいてもデザイナーのいなかった組織に、デザインの考え方を持ち込むのは容易ではありませんでした。その一方で、社内には私同様にデザインの重要性を理解してくれる共感者がたくさんいます。そうした熱意のある共感者たちとともに、実践を通じて成果を出しながら、少しずつ仕組みや組織を整えていきました。
KESIKIというデザインファームを運営する石川さんが、「KOEL」のクリエイティブ・アドバイザーを引き受けようと考えた理由は?
【石川】金さんとは2012年ごろ東京大学のイノベーション教育プログラムで出会い、以来NTTコミュニケーションズにUXデザインの考え方を実装したり、新規事業を立ち上げたりなど様々な取り組みを行ってきました。
その中で、UXやユーザーについて知ることの重要性について社内全体で大きな危機感を持っていることがわかってきた。私自身、以前エンタープライズ企業にいた経験があることもあり、大企業をデザインの力で変えていけるかも知れないというところに大きな意義を感じました。
事業会社だから関われるプロジェクトがある
当たり前の日常生活を、ちょっと幸せにしたい
イギリスへの留学経験を経て、海外のデザインファームや大手メーカーでの実績も豊富な田中さんが、「KOEL」で新たなキャリアをスタートさせようと思ったのはなぜですか。
【田中】私が「KOEL」に参加したのは2021年1月です。それまでイギリスで働いていて、日本と海外を自由に行き来できるような環境が好きでした。ところがコロナ禍となりいつ日本に帰国できるかわからない状態になってしまって。そのとき、あらためて日本で働いてみようと思ったんです。そこで石川(俊祐)さんに相談してご紹介いただいたのが「KOEL」でした。
転職の際には、外資系のデザインファームやコンサルティングファームなど、様々な選択肢がありました。しかし「KOEL」の面談でお話を聞くうち、クライアントワークにとどまらない幅広いプロジェクトに関わりたいと思うようになっていきました。
「KOEL」は事業会社の組織なので、自分の手掛けたプロジェクトが最終的にどのような形でユーザーに届くのかわかりやすいのが特徴です。それに「社会インフラ」を変革するという「KOEL」の手掛けるプロジェクトは、これまで経験したことのない種類のものが多く、興味を持ちました。
例えば学校のICT教育環境を充実させる「まなびポケット」など、一企業の取り組みにもかかわらず、NTTコミュニケーションズのネットワークを生かして全国津々浦々までプロダクトやビジネスを届けられる。それは「KOEL」の仕事の醍醐味だと感じました。
他にも、リモートワーク時代のオンラインワークスペース「NeWork」を企画開始から3カ月でリリースしたり、新たな組織の立ち上げフェーズであること、一般の会社では経験できない特殊なプロジェクトがありそうなところ、などに魅力を感じました。NTTコミュニケーションズの既存ネットワークを生かして、人々の当たり前の日常生活を幸せにできるプロジェクトが多いと思います。
NeWorkのプロトタイプ画面。議論を可視化しプロジェクトを加速
実際ご入社して、田中さんはどのような仕事に携わっていますか。
【田中】組織づくり的な部分でいうと、Head of Experience Designとして、プロジェクトを進める際の役割の明確化や、意思決定のプロセスなど体制面を整えています。あるいはメンバーのアウトプットやスキル向上には何が必要か、根本的に見直したりもしています。
デザインのプロジェクトとしては、有志で参加してくれたデザインリサーチのメンバーと一緒に、実験的に短期間のリサーチを行なったりと、かなりフレキシブルに仕事させていただいている実感があります。
いまは入社して3カ月なので体制整備のフェーズですが、これからは自らプロジェクトに入ってアウトプットのクオリティチェックをすることも、新しい領域のプロジェクトを開拓することもあると思います。すでに大きな変化や手応えがあり、心からやりがいを感じています。
田中さんがジョインして、チームはどのように変わりましたか?
【金】コミュニケーションの質が大きく変わったように思います。「KOEL」はフルリモートの環境下で立ち上がった組織なので、当たり前に通勤していたときに比べてメンバーの親密度やコミュニケーションの深さに課題がありました。
1つのデザインをつくり上げるためには、「いいね、いいね」とメンバーに賛同しているだけでは難しい局面もあります。ときにはデザインの視点で率直な意見を言い合うことも大切。その際、思ったことはしっかり伝える、丁寧にコミュニケーションしていくという田中さんの姿勢が、チームに良い影響をもたらしました。「メンバーの尊厳を大切にしながら、言うべきことは言う」という田中さんのコミュニケーション力で、アウトプットの質まで変わってきたと感じます。
【石川】「みんなそれぞれ違うんだ」という前提と「自分はここで自分の意見や思いを吐き出していい」という心理的安全性があれば、「自分の意見をみんなにシェアしなきゃ」という発想が生まれるはず。
そういうフランクなディスカッションは、私たち日本人全体がちょっと苦手ですよね。田中さんと共に、そこを変えていけたらいいなと思います。
【田中】私はこれまで海外で仕事をしてきて、多様なバックグラウンドを持つ方々と一緒に働いてきました。その中で感じたのは、各メンバーが率直に自分の意見をぶつけ合うことで「人の考え方はそれぞれ違うのだ」ということが明らかになるということ。意見を持っていて、それを伝えること自体がチームとしてのアイデアの精度、職場での心理的安全性の高さにつながります。
メンバーにフィードバックをするときは、伝えるべきことは伝えますが、「伝え方」には気をつけています。人それぞれ、自分の意見を持っていること自体が素晴らしい。デザインには正解がないし、やってみないとわからないことだらけですから。「正しくないかも知れないけれど、私はこう思う」、そんなスタンスで意見を伝える工夫をしています。
ひとりひとり、意見があることそのものが素晴らしい
「意志あるデザイン組織」にしていきたい
「KOEL」という組織の魅力は?
【石川】ユーザーやクライアントとの会話の質を変えるためにデザインの力を活用できる点です。
田中さんの言うように様々なビジネスやプロダクトがあっても、つくってみないとわからないことが多い。デザイナーやエンジニアがいれば、それを形にすることができます。
「ターゲットユーザーは、どのような人物像で、どのような生活をしていて、どのような考え方をしているのか?」――そこをデザインの力で一度スマホアプリやビジネスモデルなどの形にすることで、実情に則したユーザー像を捉えにいけるところが面白さだと思います。一回スマホアプリにしてからユーザーと会話してみよう、プロダクトにしてからクライアントと話をしてみよう。そんなリーンなやり方ができるところが魅力です。
組織としては上下関係なく気軽にフィードバックできるカジュアルさも大きな魅力です。私自身、様々な企業と仕事をしてきましたが、これほどフラットに率直な意見を言えるチームもありません。レジリエンスの高い、柔軟な組織だと思います。
【金】20年前、「CHANGE COMMUNICATIONS.」という熱い想いを持って立ち上がったNTTコミュニケーションズなので、経営陣をはじめ、社内にその頃の遺伝子は残っていると感じますし、「新しいことを取り入れよう」「会社全体を変えていこう」という空気感は充分にありますね。
これから「KOEL」をどのようなデザインチームにしていきたいですか?
【田中】意志のあるデザイン組織にしていきたいですね。「意志をもってこのデザインを採用する」とそれぞれのデザイナーが明確に自分の軸を大切にできるカルチャーをつくっていきたいと思っています。
【石川】田中さんのような方が5年後も活躍しつづけられるよう、「創造性に対する自信」のある組織にしたいですね。すばらしいデザインをして、すばらしいアウトプットを生み出し、楽しいデザインリサーチもする。そしてそれがきちんと事業につながっている。そんな仕事をたくさん生み出し、「『KOEL』の人たちって、いつも楽しそうだね」と言われるチームにしたいですね。
そんなチームにするために、「KOEL」の求める人物像は?
【金】それぞれの職域・専門領域でプロフェッショナルである方、それに加えてチームで成果を出したい方にきていただきたいですね。
「KOEL」は発展途上のチームです。なかにはデザインの経験が少なく、これまでマーケターやエンジニアとして活躍していたメンバーもいます。そういう多様な方たちとの協働に楽しさを見出していただける方が望ましいですね。
必要な経験としては、デザインリサーチのポジションの場合、事業会社でリサーチを行い、新規事業創出につなげてきたような方。ビジネスデザインの場合は幅広い業種・業態のあらゆるソリューションに対応できる経験の多様さ、多彩さ。また、プロダクト開発の領域では、メガベンチャーで、自分で手を動かしながらプロダクトをグロースさせる体験設計やプロダクト改善の指標づくりを手掛けてきた方を歓迎しています。
【田中】他部署と共創するフェーズが多いので、コミュニケーションにパッションのある方がいいですね。面接では「一緒にやっていこう」とか「一緒にやるために話したい」と前向きにコミュニケーションできる人かどうかを見ています。
転職をお考えの方々へメッセージをお願いします。
【石川】これからの世の中で自分の手を動かしてインパクトのあるアウトプットを社会にダイレクトに届けられることは、とてもやりがいのあることだと思います。NTTコミュニケーションズの中で、そうした仕事のできる「KOEL」は非常にユニークな存在です。
これからも「KOEL」から日本に面白いものを届けたいし、企業のカルチャーを面白くしたい。日本をより刺激的により良い方向へと転換させていきたいと考えています。
KOEL公式noteでは石川・金による対談も取り上げています。こちらもぜひご覧ください。
通信インフラ企業は なぜ今、デザイナーを求めているのか:SPECIAL TALK
プロフィール
石川 俊祐 氏
NTTコミュニケーションズ デザイン部門「KOEL」クリエイティブ・アドバイザー
1977年生まれ。英Central Saint Martinsを卒業。Panasonicデザイン社、英PDDなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画。Design Directorとしてイノベーション事業を多数手がける。BCG Digital VenturesにてHead of Designを務めたのち、2019年、KESIKI設立。多摩美術大学TCL特任准教授、CCC新規事業創出アドバイザー、D&ADやGOOD DESIGN AWARDの審査委員なども務める。Forbes Japan「世界を変えるデザイナー39」選出。著書に『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』
金 智之 氏
NTTコミュニケーションズ デザイン部門「KOEL」UXデザイナー
九州芸術工科大学卒。2005年、NTTコミュニケーションズ株式会社入社。音楽配信サービス、映像配信サービスなど数多くの新規事業開発を経て、11年にUXデザインを社内に普及推進するUXデザインスタジオを設立。デザイン戦略立案、事業部門との実践活動、人材育成活動などに従事。2020年4月デザイン組織「KOEL」設立に携わる。HCD-net認定人間中心設計専門家。
田中 友美子 氏
NTTコミュニケーションズ デザイン部門「KOEL」 Head of Experience Design
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート インタラクション・デザイン科修了。ロンドンとサンフランシスコを拠点に、Hasbro、Nokia、Sonyなどの企業でデバイス・サービス・デジタルプロダクトのデザインに携わり、デザインファームMethodでデザイン戦略を経験した後、NTTコミュニケーションズのデザイン部門「KOEL」の Head of Experience Design として、愛される社会インフラをデザインしている。
デジタルコンサルファームインタビューの最新記事
- PwCコンサルティング合同会社 Technology Laboratory | 所長・上席執行役員 パートナー 三治 信一朗 氏 / 執行役員 パートナー 岩花 修平 氏(2024.3)
- BCG Digital Ventures | Lead Product Manager 伊藤 嘉英 氏 / Lead Product Manager 丸山 由莉 氏(2021.8)
- NTTコミュニケーションズ 「KOEL」 | デザイン部門「KOEL」クリエイティブ・アドバイザー 石川 俊祐 氏/デザイン部門「KOEL」UXデザイナー 金 智之 氏/デザイン部門「KOEL」 Head of Experience Design 田中 友美子 氏(2021.4)
- NTTデータ Tangity | Tangity ADP Service Designer 村岸 史隆 氏(2020.11)
- BCG Digital Ventures | Engineering Director 山家 匠 氏(2020.6)