こんにちは。ヘルスケア担当、安井です。私は特に医療機器、デジタルヘルスケア領域をカバーしています。
私は第二新卒で大手人材紹介会社へ入社し、4年間医療機器業界の大手~スタートアップの企業とコミュニケーションを取ってきました。当該業界では特に2010年代中盤以降、デジタル化に伴う事業モデルの変化や、複数のスタートアップの創業、異業界から医療業界への新規参入など目に見える形で大きな変化があり、現状を把握したいという方も多いのではないでしょうか。
デジタルヘルスケアの定義は広範ですが、この数年間で触れてきたデジタルヘルスケアという領域についてご紹介していきます。
医療業界のデジタル化
医療業界に限らずデジタル化の推進が叫ばれて久しいですが、特に医療業界に関してはその変化が他業界と比較すると数年単位で遅いと言われています。
色々な要因は考えられますが、医療業界に従事されている方々から話を伺っていると①規制②ITリテラシーが大きな理由になっているように感じます。
規制に関しては、デジタル化に伴う安全面のリスクや、ミスが発生した際の責任の所在(医師による医療ミスなのかデジタル機器の不具合によるものか)などからくるもので、厚生労働省としても悩ましい点だったと思います。特にAIを用いた医療機器の場合、薬事後にAI自体が学習し続け、承認・認証直後の製品と、学習することによって進化していった製品との間に差異が生まれていく点も事を難しくしていたポイントだったように思います。
ITリテラシーについては、医療機関では町医者と呼ばれるような所謂クリニックになると医師自体の年齢も高く、場合によってはPC用のマウスの使い方もままならないようなケースあると聞きます。電子カルテなどの導入率は比較的高いようですが、まだまだ紙ベースの医療機関もあるようで、この点も障壁になったように思います。患者側では、予防や予後のフェーズでバイタル情報を収集するためのウェアラブルデバイスの利用や、処方された薬を適切に飲んでいるか、症状の改善状況はどうかといった情報をアプリなどで報告し、医療機関と連携をしていくといった行動は中々ハードルの高いことであると聞きます。
とは言えこういった環境の中、医療業界の各社が自社開発や事業提携を通じ、医療のデジタル化を大きく飛躍させていることは間違いありません。事項ではいくつかの例をあげながら、デジタルヘルスケアと呼ばれるサービスの事例に触れていきたいと思います。
デジタルヘルスケアのサービス例
様々な企業の開発、事業提携等を通して生まれているデジタルヘルスケアですが、以下ではいくつかの主要と思われるサービス内容についていくつか概要を記載していきます。
<画像診断AI>
医療本丸と言われる診断~治療において、最も親和性の高いデジタル技術の一つがAI画像認識技術ではないでしょうか。大型診断装置のCT,MRIやその画像管理システムPACSに搭載された機能をはじめ、内視鏡AIなど多くの企業が参入しています。これは受診者の画像をAIを用いて病気の有無を判別する手法です。例えば対象の腫瘍が悪性か否かの判別を行う際に、鑑別精度においてある画像診断AIは90%であるのに対し、熟練医師は70%程度と大きな差が出たという結果もあるようです。この技術は医師によるスキルの差や人的ミスによる見過ごし、更に医師不足といった課題の解決が可能で、個人的には診断機器に強い日系企業が躍進できる領域のひとつだと感じており、非常に期待している領域です。
<オンライン診療>
利用された読者の方も多いかもしれませんが、新型コロナの影響で大きく普及したサービスかと思います。スマートフォンやタブレット、PCを用いて場所を選ばず医療サービスを受けられる機能ですが、当初は離島や僻地等の医療過疎地域での利用を想定したものでした。その後2015年に厚労省から実質遠隔診療解禁の通達を機に、スタートアップを始め急速に企業の参入が始まりました。技術的には難しいものではないため、各社領域ごとの特化や、診療前後での問診や薬の処方(配送)、その他院内業務フローやデータの利活用に向けた各種機能などで差別化を図っているようです。
<ウェアラブルデバイス>
近年の健康ブームで、医療機関を日常的に利用しないような層も触れる機会の多いサービスではないでしょうか。心拍数や睡眠データを収集し、日々の生活習慣の改善に用いられるケースが多いかと思いますが、PSP(Patient Support Program:患者支援プログラム)の考えから、医療機関での診療時情報だけではなく、日常生活におけるバイタル情報を始め、治療状況の確認や製薬メーカーとの連携に用いられるといった活用もされています。
<治療用アプリ>
こちらも非常にホットなトピックの一つですが、国外では2010年にアメリカでFDAより承認を得ており、国内では2020年に禁煙アプリ、2022年に不眠症治療用アプリが薬事承認を受けています。これまで処方と言えば医師からの診断を受け、処方箋を持って薬局から薬を処方されるというものが一般的だったかと思いますが、治療用アプリは特定の疾患の治療に向け、その名の通りアプリが処方されます。スマートフォン等を用いて、アプリで日々の行動改善アドバイス等が通知されることによって治療を行うサービスです。治療用アプリは生活習慣に起因する疾患の治療と親和性が高いと言われており、現代のニーズに即したサービスと言えるのでしょうか。
他にもVRやチャットボットを活用したものなどデジタルヘルスケアに関するサービスの開発は進んでいますが、主要なものとしてまず上記の内容について触れさせて頂きました。
今後のデジタルヘルスケア
このように近年目覚ましい加速を見せるデジタルヘルスケアですが、その市場規模は今後も大きく拡大していくことが予想されています。
デジタルヘルスケアの定義・範囲にもよって調査された数字は異なりますが、米国では2020年段階で1,833億米ドルの市場規模から、2021年には2,012億4,000万米ドルという年平均成長率(CAGR)9.79%の成長を見せています。
ただこれは2020年COVID-19パンデミック時に急激に増加した需要に対応した後、企業が生産量を安定させた上でこの成長率に留まっており、2022年以降の成長として、2030年までには5,491億米ドルに達すると予測されており、CAGR26.9%という数字が予測されています。
(参考:デジタルヘルス市場、2025年に4,837億5,000万米ドル到達見込み)
当該領域にはGAFAをはじめとした巨大IT企業の参入や、保険業界や非医療系製造業といった異業界からの新規参入、また既述の通り様々なスタートアップの勃興も後を絶たず、今後益々の拡大していくことは間違いない市場のひとつではないでしょうか。
まとめ
ここまで医療業界のデジタル化、そして具体的なデジタルヘルスケアサービス事例及び将来の予測を記載してきました。前述の通り規制の厳しさや、加えて個人情報の観点からもデータの利活用に向けたハードルの高さもありますが、少子高齢化に伴う医療・介護需要の拡大に対して人出不足は進み、医療費問題や健康寿命の延伸、医療事故など様々な課題のある業界において、デジタルヘルスケアがそれらの解決を強力に加速させるだろうと思います。
社会的な意義に加え、世界的に拡大するこの市場が今後どのように発展していくか楽しみです。
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