横濱 潤 氏

[9]他に経営者に必要な資質や能力などありますか?

達成意欲です。私はファーストリテイリング時代、子会社の経営者を採用したり、育成したりするような仕事にも就いていましたが、候補者の何を重視していたかといえば、この達成意欲。簡単に現状に満足してしまうのではなく、常に上を見て、可能性を見出して、そこに向かって努力し続けようとする資質です。こればかりは机上での勉強からだけでは身につきません。

人生の中で何か重要な局面と出会い、痛みも感じながら身体に染みこんでいくのが向上心であり達成意欲です。経営知識やスキルが多少不足していても、大抵のものは後からでも補っていくことは可能ですが、この達成意欲はそうもいきません。だからこそ経営人材の採用時にはとても重視していました。

ただし、変に意識しすぎる必要はありません。今この記事を読んで、もしも「自分にはそれほど強烈な達成意欲はないかもしれない」という危機感を覚えたのなら、その危機意識にこそ価値がある。この意識を保ち続けることのできる人には、必ず強い達成意欲が備わっていくだろうとも思っています。

[10]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?

これまでに出会ったすべての環境や人や組織から私なりに学んできました。そうしてわかったのが「リーダーというのは誰かに助けてもらわないといけない立場」だということ。人に助けてもらう人間になるには、倫理観と使命感を忘れずに、一所懸命に働くしかない。そうすることで周囲にいる人たちがメンタリティやスキルを身につけさせてくれる。ですから私も今、この武州製薬でそれを実行しています。

[11]業界のプロとしての知見はいかがでしょう? やはり必要だとお考えですか?

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経営のプロとしての能力さえあれば、業界知見は必須ではない......などとは思いません。その業界にある独自の知見に精通することは、とても重要なことです。たとえば「お客様が何を求めているのか」を発見し、「それを実現するにはどんな技術や組織が必要なのか」を見定め、成果に結びつけていくためには、現場的な見識が不可欠です。

ここまでにお話をしてきた通り、オーナーシップをもって自己の責任で会社を良くするのが経営者だと私は確信していますから、「その経営者に現場の知見がなくてどうする?」なんです。実際、異業種にいた私には業界のプロといえるほどの知見は備わっていませんでしたから、必死で勉強しています。わからないことは、わかっている社員の皆に教わっています。そんな努力もしないで成功できるほど経営という仕事は甘くありません。

[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください

試練はたくさん経験してきましたが、よく思い出すのがBCG時代の上司の言葉。「『楽だな』と思ったら『まずい』と思え」です。「楽」な状態というのは「今までの自分でもできること」しかしていないから。どんな仕事であろうと、新たな価値を創ろうとするなら「今までの自分にはできなかったこと」を成し遂げなければいけない。「楽」なはずがないじゃないか、という意味です。

冒頭でも少し触れましたが、私が在籍していた頃のBCGには、おそろしく厳しい人ばかりが集まっていました(笑)。そこで、こんな言葉を投げかけられながら仕事と向き合ったおかげで、「知的な痛み・試練」には滅法強くなりました。

[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?

人は自分が今携わっていることからしか学べない、と私は考えています。今やっている仕事にどこまでこだわれるか、どのレベルまで仕事の質と成果を引き上げようとしているかによって、学び取れるものも違ってくると思います。目の前にある仕事を最良のものにするために、どこまで「楽」をせずに考え抜き、やりきれるか。それを心がけ、努力していくことをお薦めします。

[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?

多くの方から学び、影響を受けてきましたが、特にこの人、ということであれば、BCG時代の今村さん、御立さん、杉田さん。そしてファーストリテイリングの柳井さんです。加えて、BCGにいたころお会いした数多くのお客様、つまり「良い会社」「良い組織」を率いる経営者の皆さんからも影響を受けました。

「強いリーダーって、こういう人のことなのか」や、「本物の経営者とはこういう人のことなんだろうな」と思えるようなお手本に多数出会うことができた。これが、かけがえのない学びにつながっています。

[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか?
それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?

キャリアの結果だけ見てしまえば、偶然や運によるものが非常に多いと思います。私自身もそうでした。しかし運というものは、本人が引き寄せるものだとも思っています。「何になりたいのか」をイメージして、そのイメージの実現のために努力をしていくと、不思議なくらいそこに関わる出会いが生まれていく。必死でイメージし、努力し続けることで偶然や運をたぐり寄せることは可能だと信じています。

[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?

銀行にいたころは、当時の仕事が「いちばん素晴らしい」と思っていましたし、BCGにいたころも「これがいちばん」だと信じて疑いませんでした。そういう気持ちを超えるほどに「これがしたい」というものを見つけていれば、起業をしていたかもしれませんが、BCGからファーストリテイリングに移る時も「これ」が何なのか自分ではわからなかった。

だからこそ魅力的な環境だったファーストリテイリングに入ったわけですが、そこで学んだのが「創業者的な気持ちでやらなければ経営者ではない」という思想です。ですから今、武州製薬にいる私も創業者の気持ちで仕事と向き合っています。リアルな起業はしませんでしたが、結局、起業をしているような心境で毎日をすごすことができています。

[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?

座右の銘のようなものはありませんが、信条として胸に刻みつけているのは「美しいもの、優れているものが、人の心を動かす」という考え方です。美や善という普遍的な価値があれば、そこに自然と人は集まり、美や善を生み出すために本気で努力しようとするし、協力しあってより美しいもの、善いものを生み出そうとする。経営は人が行うものですから、こうした普遍的価値を大切にし続けることが肝要なのだと思っています。

[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?

言うまでもなくこの会社を成功させたいと思っています。ただし、単に業績を伸ばすという意味ではなく、会社という名の公器としての責任を果たしていきたい。私たちには薬を作るという大切な役目があります。良い薬の製造受託を行っていくことで、社会に何を提供し、貢献できるか。それも含めた成功を志し、成果を上げられる組織にするべくチャレンジをし続けたいと考えています。

[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?

「ずいぶん乱暴にいろいろ変えてくれたよなぁ」と思ってくれたら本望です(笑)。医薬の領域は、非常に制約の多い世界です。それだけに、強烈なエネルギーをぶつけないと変革は起こせません。社会的に医薬品製造に求められる品質をしっかり維持しながら、高い生産性や顧客企業向けのサービスをより高度に産業的に進化させるために、古い仕事の仕方を創造的なパワーで変えていきたい。

もちろん過去を破壊するだけでは未来は生まれませんから、多くの人が共鳴してくれるようなものを見つけ出し、提示し、それを形にして変革へと向かっていかなければいけない。その道筋を見つけるタネを、私は植えていきたいと思っていますので、「変革者」として記憶されたら、とても嬉しく思うはずです。

[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします

リーダーというのは「責任を果たす役割」のことです。人が集まり、ともに何かをしようという場には、必ず必要な存在。誰もリーダーの役割を引き受けなければ、その組織は確実に衰退します。ですから経営者=リーダーになりたいというのならば、自分自身に「皆の責任を果たす役割」を務める意識や覚悟があるのかどうかを問いたいと思います。

「たくさん勉強して、効率良く賢くなれば、その先に経営者という勝ち組キャリアが待っている」などの発想では、経営者など到底務まりません。知識も賢さも、もちろん大切ですが、「まずは無茶でもいいから、チャンスがあるのならば頭から突っ込んでいって、責任という球を拾ってみろ」と言いたいですね。

毎回うまくいくわけではないと思います。けれども、繰り返し突っ込み、球を拾い続けるうちに、確実に力はついていきます。先ほど「運は自分で引き寄せるもの」と言いましたけれど、泥まみれになって突っ込み続けているうちに、きっと人生の師といえるような人にも出会えるはずです。

どうか「責任を果たす」というチャレンジに向かって飛び込んで行くスピリットを持ち続けてください。リオデジャネイロ五輪を見ていてもわかったはずです。「今の若い者はダメ」なんてことは絶対にありません。今の若い人のほうがずっと力がある。私はそう信じています。

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