[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
特定の個人名が出てきませんね。考えようによっては、それくらい日々たくさんの人に会い、たくさんの人が書いた本と出会っているからかもしれません。
[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか?
それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?
私が思うのは「運や偶然はとても大切。だからこそ常に計画的に努力しましょう」です。我々の世界では商品がヒットする確率は3割だと言われています。どんなに検討を重ねた新製品やサービスでも、ヒットしない現実はありますし、反面、思いもよらない偶然が起き、重要人物と運良く出会ったりもして商品やビジネスがヒットすることもある。
では、単に強運の持ち主というのは生まれつき決まっていて、そういう人だけがヒットや成功を手に入れるのかというとそうではない。結局後々考えてみれば、日々地道に人と会っている者や、目の前にある仕事でこつこつと努力を重ねてきた者が運を呼び込んでいたりするものです。[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?
私は自分がプロ経営者、つまり雇われ社長に合っていると思っています。起業をしてゼロからビジネスを築き上げていく創業社長との違いは「何かあったらクビ」ということ。それが雇われ経営者です。しかし見方を変えれば「クビで済む」のも雇われ経営者。突き詰めれば究極のシミュレーションゲームともいえる経営というものを、負けたらクビ、という条件下で全力で戦うことができる。負けず嫌いで、勝つためにはどんなに打たれても、逆境に立たされても、むしろ楽しみながら戦い続けたい私には、これが合っているのだと思います。
もちろん立派な起業家はたくさんいますし、尊敬しています。しかし、起業そのものはあくまでも手段だと思うのです。時として、起業すること自体を目的にしているような人もいますが、そういう人たちはプロの経営者ではない、と私は一線を引いて考えています。[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?
先にも挙げました「Be Different」、そして「Be Hungry」というのが私の信条です。誰とも違う道をあえて選び、自己の成長に貪欲であり続けること。それが私のフィロソフィーです。[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?
1つは、今この瞬間にもヘンケルという会社が育ち、大きくなっていること。それが私の望みです。もう1つは最近強く抱き始めたもので、「もっと日本や日本人に貢献して、強くなってくれるように役立ちたい」という望みです。この年齢になって「自分に残された時間は少ない」と思い始めたせいかもしれませんが、他の企業で経営をしている人と飲んだ時にも、この話題でひとしきり語り合いました。[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?
経営とはバトンを手渡してつないでいくリレーだと認識しています。ですから、私が経営者の立場から去ったなら、記憶されている必要などないと思います。「面白い人だったな」「変な人だったな」でいいです(笑)。[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
目指すステージを日本ではなく世界に置いてほしい。そして、日本代表となってステージに上がり、「日本のトップ」ではなく「世界のトップ」になることを目指してほしいと思っています。私自身、長年海外の企業に籍を置いてきましたし、海外での仕事に直接タッチする機会を多数経験してきましたが、そうして世界に出て行くほど痛感し、意識するのが「私は日本人なのだ」という事実。
私はこの「日本人である」ことがグローバルな時代における強みになると信じています。世界を舞台にするからこそ、日本をもっと知ってほしいし、日本を知っていることが世界で戦う力になる。そう思えば、世界における日本を強くしていくことがどんどん面白くなるはずです。そして結果としてこの国を強くすることに貢献できる。ですから、ぜひ「私は日本人だ」の意識で世界へ飛び立ってください。