上田 顕 氏

［11］業界のプロとしての知見はいかがでしょう？　やはり必要だとお考えですか？

これまで幾度か転職をしましたが、毎回異領域への挑戦でした。楽天で関わった野球には子どもの頃から親しんでいましたが、あくまでもアマチュアとして楽しんでいただけ。プロ選手になった経験もビジネスとして携わった経験もありませんでした。特に経営者にとって業界知見が必要かどうかという話だとしても、私は不要だと思っています。もちろん、業界経験や知見を持たずにリーダーを務めるからには、一所懸命に学んでいかなければいけませんから、今も現場にいる多くの人とコミュニケーションを多く持ち、いろいろと教えてもらっているんです。知見は必須条件ではないけれども、だからこそ学んでいこうという前向きな姿勢は必ず問われる、といったところでしょうか。

［12］過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください

最大の試練はアクセンチュアの時だったと思います。銀行員の経験しかない中で、コンサルタントになる、ということはほぼすべての仕事が初体験ですから、いつ、何を、どうすればいいのか、まったくわからなくて、入社後しばらくは戸惑っていました。外資系特有の人間関係にも慣れるまで時間がかかりましたが、とにかく情報だけは無数に集まってくるところでしたから、グローバルな事例やノウハウを必死で読みあさって、なんとかキャッチアップすることで、ようやくまともにパフォーマンスを出せるようになりました。

経営者に必要な資質や心構えを学んでストレッチできた場を挙げるとすれば、やはり楽天時代ですね。先ほども言いましたが、オーナーの三木谷さん、社長の立花さん、副会長をされていた星野さんから、たくさんの価値ある教えをもらったと思っています。

［13］経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか？

経営者を志しているかたの中に、もしもあれこれ悩んだり、迷ったりして、身動きがとれなくなっている人がいるのなら、「考えてばかりいないで動け。行動をしろ」と言いたいですね。将来に向けて学習したり、様々な準備をするのも良いと思いますけれども、私が一番にお勧めしたいのは、目の前の仕事にコミットすること。どんなに単純な仕事であっても、必ずベストを尽くしてやりきっていくことができれば、それが最良の学びにつながると思います。

［14］今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか？

これまで出会ったすべて人が、私にとっては師匠です。出会いに恵まれていたのかもしれませんが、本当にあらゆるかたから、価値あるものをその都度教えてもらったんです。

［15］キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか？　それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか？

どちらも重要だとは思うのですが、私の場合はどうだったのかといえば、前者のほうが大きかったような気がします。もともと「野球に携わるビジネスがしたい」とか「経営の仕事を任されたい」という夢は、社会人になる前からありましたし、最初に銀行に入ったのもその計画の1つのステップとしてでした。

「3年間だけ銀行にいて、ある程度学び終えたら次へ」というプラン通りに事が運んだのは、ある種の偶然。「3年」という期間設定には何のロジックもなかったわけですが、たまたま3年が経過した時、一区切りがついて転職のタイミングが来たというだけです。それでも、自分なりに期限を区切って、成長プロセスを思い描くのは良いことだと言えます。やはり経営者の仕事は、ゴール設定とその遂行を問われるものですから、自分のキャリアプランにおいても、設定した期限内にゴールするために走っていくことは1つの鍛錬になると思うんです。

［16］なぜ起業ではなかったのでしょうか？

今まで「起業する」という選択肢を考えたことは一度もありませんでした。自然にそうなったので、あまり深く考えたことはないのですが、おそらく私は「何もないサラ地に何かを作る」ことよりも「どこかで困っている人がいたら、その手助けをして役に立ちたい」という願望というか欲求が圧倒的に強い人間なのだろうと思うんです。高校での野球もそうですし、楽天ゴールデンイーグルスもそうですし、今の日本ポップコーンもそうだと思うのですが、「必死で頑張っているけれども、なかなか結果が出てこない」ようなところに行って、微力ながらお役に立てた時に、最も喜びを感じるような気質なのだと思います。

［17］特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか？

特に座右の銘みたいなものは持っていませんが、やはり「常に前向き」という信条だけは、これまで一貫して持ち続けています。子どもの頃から野球をしていた話をしましたので、「前向き」というのもどこかスポーツ根性論のように捉えられてしまうかもしれません。でも、そうじゃないんです。後ろを向いて後悔しているヒマがあったら、前を向き、自分の周囲を大局観をもって捉え、行動を起こしていく......これはビジネスにおいて、非常に重要だと確信しています。銀行やコンサルの仕事に就いていたことも大きかったかもしれません。どちらも、お客様に前を向いてもらうためのお手伝いをするミッションでしたから。そして今も、日本ポップコーンの皆に「前向き」であることを強く求め、発信しています。

ポップコーンは日本でも長く親しまれているスナック菓子ですが、実は長い歴史の中で、何度もブームがやってきてはそれが終わり、という浮き沈みを繰り返してきました。ところが諸外国では安定して成長しているカテゴリーとして認知され、現在もその市場規模はグローバルベースで拡大を続けています。この会社が成功する、というのも大きな目標ですが、それよりもさらに大きな目線で見て、ポップコーンを日本のかたがたに継続的に愛され続けるものにしていく。そのためには何をどうすれば良いのか、という発想で仕事に挑んでほしいと思っていますし、私自身がそう心がけてもいるんです。そうしているから、ワクワクする感覚も湧いてきますし、それを共有することで今、この小さな会社が一丸になっていることを喜んでいます。

［18］経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか？

前の質問への回答で申し上げた通り、私が成し遂げたいのは、この会社の成功と成長。そしてこの市場の拡大と成長です。そのために私が自分自身に言い聞かせている「やるべきこと」は、社員の皆が自走できる状態を作っていくことです。各自が自信を持ち、前向きな姿勢でチームプレイをしていけば、必ず収益を出し、経営を安定成長軌道に乗せられると信じています。スポーツの世界では、身体能力や生まれ持っての才能で勝敗が決まってしまったりしますが、ビジネスの世界はそうではない。努力が必ず報われる、という魅力を持っています。だからこそ、皆で努力する喜びを共有しながら、大きな目標をつかみ取ろうと思っているんです。

［19］現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか？

ここまで話してきて、こんなことを言うのもなんですが、実は先のことをあまり具体的に考えていないので「日本ポップコーンを去る時が来たら」と言われても、すらすらと答えられない、というのが正直なところです。

楽天時代にプロのアスリートと関わってきた経験もありますし、私自身アマチュアとは言え、長年選手をしてきたので「シーズン中は毎日の試合やプレーのことしか考えていない」というプレーヤーの心境と同じですね。それに、今私は経営者というポジションに就いています。経営の仕事というのは、先を見て動く局面も多いため、結果が遅行してついてくるものだと思うんです。今やっていることの成果は、半年後とか1年後にならないと見えてこない。そう考えると、まだ始めてからほんの数年ですし、結果になって現れていないことが多すぎて「いつかここを去る」という前提で物事を考えることができないんですよ。

「銀行〜コンサル〜野球のビジネス〜事業会社の経営」というところまでは、ある程度事前に自分で思い描いた計画に則って進んできましたが、ここから先はまだわかりません。とはいえ、先ほど話した通り、ここにいる社員の皆が自走力を身につけ、ビジネスで結果を出すようになり、「もう大丈夫」と思えるようになったら、何か思いが湧いてくるんでしょうね。少なくとも「こういう風に記憶されたい」というような願望は、今のところ持ち合わせていません。

［20］20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします

経営者になれるチャンスなんて、そうそうあるわけではないのだから、もしもそういう機会に巡り会えたら、迷わずトライをしてほしい、と考えています。その一方で矛盾するような現実もあります。日本のビジネスシーンを俯瞰すると、実は経営者という人材が不足しています。「めったになれるチャンスがない」のに「実は不足している」という矛盾はあるものの、飛び込んでいけば活躍できるブルーオーシャンであることは間違いありません。あきらめたり、迷ったり、悩んだりするぐらいならば、夢が叶うことを信じて前を向き、遭遇するすべての仕事にコミットしてやり切っていく。そうすれば、きっと道は拓かれていくと思っています。