[5]ご家族やご親戚に経営者はいらっしゃいますか?
いません。祖父が文房具屋さんを営んでいましたが、会社経営とはちょっと違いますからね。ただ、父があの年代には珍しく外資企業に勤めていました。もしかしたら、その影響は何らかの形で受けていたかもしれません。
[6]ご自身の性格について教えてください。
好奇心旺盛で、前向きな楽観的人間だと思います。妻には「楽観的過ぎる」と言われますが(苦笑)、とにかく自分でも不思議に思えるくらい「根拠なき自信」というのを常に持っていて(笑)、いつでも楽観的に物事を判断していますね。[7]いつ「経営者になろう」と思われましたか?
はっきり「なりたい」と感じたのは、学生時代にベインのスプリング・ジョブに参加し、会社経営のシミュレーション的ジョブを経験して面白く思った時です。
ただし、私の中で常に大きかった思いは「経営者になろう」よりも「ルールのないところで成功したい」というものです。この思いは高校時代からずっと胸の内にあって、こっちのほうが私の歩む人生に強く影響を与えてきました。[8]経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう?
メンタリティについては、「前向きな頑固さ」が必要だと思います。自分の責任で最終的決断をするのが経営者ですが、それはやはり前向きであるべきですし、「必ずやれる」という自信を持って決断するべきです。周囲からの反応でフラフラしてもいけません。そういう意味で頑固でなければいけない。判断した事柄を実行する時にも、愚直に成功を信じて突き進むべきだと私は考えています。
スキルについては、幅広く持っていた方がいいと思います。開発、生産、マーケティング、財務などなど、経営者は会社が実行するあらゆる機能を把握して、複合的に判断する役割を求められますから、いずれの領域についてもある程度知っておくことができれば心強い。けれども、これらのスキルが「必要不可欠」だとは思っていません。「あった方がいいね」という程度です。
経験について話をする前に、まずどんな仕事をする場合でもスタイルが大切だと思っています。スタイルとは「自分ならこうする」という思考や行動の型です。それを身につけた上で「自分のスタイルで決定をしてきた経験」をしていくことが、将来経営者になる人には価値を持っていくと思います。私の場合、様々に異なる立場や性質の環境の中で、それぞれ「自分のスタイルに基づいた決定」を経験してくることができ、とてもラッキーだったと思っています。[9]他に経営者に必要な資質や能力などありますか?
話が前後しますけれども、今お話したように、まずは自分のスタイル、自分流の意思決定の型を持つことが重要だと思います。[10]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?
ベインに入って最初の数年間、私は中規模未満の企業の案件を担当することが多かったんです。ベインの場合、大規模なクライアントとの案件が多数ありますから珍しい巡り合わせなのですが、たまたまそうなっただけだと思います。それでも、この巡り合わせが私にとってはラッキーでした。中規模未満のクライアントの案件は予算も大企業のそれに比べれば大きくないし、ベイン側の参加メンバーもおのずと少人数になります。時にはパートナーと私だけで引き受けるプロジェクトもありましたので、若いうちから中小企業の社長さんとダイレクトに接していく機会に恵まれました。
よくわかったのは、どの社長さんも個性的だということ。大企業ならば、いろいろ大人の事情もあって経営者が決まりますから、そうとは限らないケースもあるのでしょうけれど、社員数百名クラスの組織だと、トップに立つ人は個性的になりがちなのかもしれません。ともあれ、「経営者って1つのスタイルじゃないんだな」ということを学び取りました。「頑固じゃなきゃいけないんだな」ということも感じました。そして、どの社長さんもなんだかんだで大変なのに「楽しそうだな」という点で共通していた。経営者という役を「やりたいからやっている」のだと感じ取ったんです。
その後、ビジネススクールに行った時にも、「経営にはいろいろなスタイルがある」ことを知りました。「成功している会社」の分析をしていくと、そこに共通したスタイルが必ずあるわけではなく、どの成功例でも、それぞれに違うスタイルの経営が行われていることがよくわかりました。「それでいいんだ」と考えるようになりました。ですから、インタビューなどで「誰のような経営者になりたいですか?」と聞かれると、「いません」と私は答えます(笑)。
では「企業によって異なるいろいろな経営スタイル」というのがどこから出てくるかといえば、多分にその会社の経営者の色を反映するのだと思います。言い換えれば、経営者というのは個性を持っているべきだと、私は考えているわけです。ベインでの経験がそう教えてくれました。別に、変わり者である必要はありません(笑)。強烈によそと違う色を持っている必要もありません。それでも、やっぱり自分のスタイルを持つ=個性を備えていることが、経営者にはとても大切だということを若いうちに学ぶことができました。