[4]高校、大学時代はいかがですか?
リーダーシップの芽生えのようなものはあったのでしょうか?
高校1年生までは「目立ちたくない子」のままでした(笑)。しかし、あまりにも高校生活がつまらなくなり、どこか開き直ったんですね。「こうなったら、周りから何かを薦められたら全部引き受けてやる」と決めて、文化祭で演劇をしたり、体育祭で応援団長らしきことをやったりしました。それでどうなったかといえば、面白かったんです、予想外に(笑)。これがちょっとした転機になって、大学では迷わず応援部に入部しました。頑張っている誰かを応援する。そのことに無上の喜びを感じる自分に気づいたんです。
さらに面白かったのは、それが東大の応援部だったことです。スポーツが盛んで、試合でも勝利することや接戦を演じることの多い大学の応援部だったら経験できないことが、東大の応援部だからできた。要するに、どんな競技でも決して強くない東大は、同じ負けるのでも例えば10対0という惨敗をしばしばします。「それじゃあ応援部としても張り合いがないでしょ」と思うかもしれません。確かにその通りでもあるんですが、弱いチームの応援部だからこそ、皆で話し合ったんですよ「応援の存在価値は何か」とね。
そうして話し合い、自分たちの気持ちに折り合いをつけないと「やってられない」気分になるからなんですが(笑)、これが良かった。「仮に10対0で負けていても、母校東大を応援しに来た学生たちが試合終了まで観客席に残っていてくれたら、それは応援部の成果だろう」という結論に到達したんです。もちろん、競技をしている選手の奮闘があってのことですけれど、どんなに大敗していようが、皆で団結して最後まで応援し続けることが出来たら、素晴らしい時間になるはずですからね。
こういうエピソードがリーダーシップとつながるかどうかはわかりませんが、仲間と話し合い、共通の価値を見つけ出して、ともに頑張る経験を大学で得たことは、その後の私にとって貴重だったと思っています。
[5]ご家族やご親戚に経営者はいらっしゃいますか?
祖父がメーカーの経営をしていました。後々会社ごと買収されてはしまいましたが、子どもの頃は祖父の家に行くたびに「おじいちゃんの家はすごいなあ」と思っていたのを思い出します。ただ、それが私のキャリアに影響したとは思っていませんけれども。[6]ご自身の性格について教えてください。
負けず嫌いなのは間違いありません。ただし、そのくせ、変に繊細なところがあるので、厳しいことを口にしてしまった後で、「ああいうことを言われたほうはどんな気持ちになるんだろう」と気にしていたり(笑)。なんというか、気を遣いながら怒っていたりするような、そういう性格です。[7]いつ「経営者になろう」と思われましたか?
やはり、ベインに入って、さまざまな企業経営者と直に接する機会を得たことが引き金になりました。さらに加えて白石さん、火浦さんと出会い、影響された部分が大きかったように思います。その頃、三枝匡さんの『V字回復の経営』がベストセラーになっていて、この本にもかなり影響を受けたと思っています。[8]経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう?
メンタリティで大切なのは「他責にしない」という姿勢だと思っています。どんな仕事をやるのにも、責任感をしっかりと持ってやること。それが第一ではないでしょうか。
スキルについては、「これがないと駄目」というような考え方はあまりしませんが、問題解決のスキルを持っていなかったとしたら、経営者になっても面白くないんじゃないかな、とは思いますね。
経験で特に重要なのは「人を束ねて、なおかつ結果も出した経験」ですね。これを持っていない人が経営者を務めていくのは無理でしょうし、束ねることや結果を出すことにストレスを感じるようならば、経営者という役割には向いていないと思った方がいいです。[9]他に経営者に必要な資質や能力などありますか?
私は、経営者にとって自分の右腕になってくれる存在というのがとても大事だと思っています。役職上の話ではなく、とにかく互いを信頼しながら、本音の意見をバンバンぶつけ合える存在がいることで、経営者はさらにその仕事を高めていくことができます。
実は最近、かつてリクルートで戦友と呼べるような間柄だった人物を右腕として招きました。さらに外部から経営企画室長と管理本部長の2名も招聘しました。彼らとはすぐに信頼関係を築くことができ、一丸となって成果を上げることができています。意見が異なる時には本気で反論し合うこともありますが、相手を信頼しているからこそ、率直に話ができる。なれ合いにならない。そんな良き相棒と次々に出会えたことを私は幸せに感じています。
これから経営者を目指そうという人には、そうした信頼できる相棒に恵まれるだけの人間関係作りをしていく気構えや能力が問われるのではないかと考えています。