須原 清貴 氏

［6］ご自身の性格について教えてください。

短気です（笑）。ただし、「何でも自分の考えているプラン通りにいかないと気が済まない」というような性格ではありません。「思い通りにいかないのは当たり前」と考えますし、それが外的要因からであれば、なおのこと素直に受け入れます。ただし、うまくいっていない理由が自分や自分の仲間たちの側にある時には、短気な性格がそのまま感情に表れてしまうこともあります。

［7］いつ「経営者になろう」と思われましたか？

最初に申し上げたように、就職活動の頃には本気で父の後を継ごうと決めていましたから、「経営者になろう」という気持ちは学生の頃にはすでにありました。高校に入った頃は教員になりたかったものの、3年生の時、生徒会長として学校側と意見が対立し、その時の先生たちの対応ぶりを見て失望してしまったんです。その一件がなければ、進学先も教員輩出大学として有名な広島大学の教育学部と決めていましたし、まったく違う人生を歩んでいたと思います。

［8］経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう？

メンタリティについては、3つ重要なものがあると考えています。1つは、しつこさ。あきらめずに何度でも同じことを繰り返し続けていける心が必要だと思っています。2つめは、嫌われることへの耐性です。意志決定者である経営者は、時として社内で嫌われ者になります（笑）。嫌われることを承知していても、厳しい決定を下し、通告しなければいけない立場です。人から嫌われることに耐えられないようでは務まらない役目なんです。

3つめは、矛盾から逃げないメンタリティです。ありがちな例を挙げれば、「長期的な経営目標は●●だ。だから、短期的には■■を犠牲にしても良い」という話。目先の利益を捨ててでも、長期的な成長を追い求めるべき、というような意味合いでこうした話をする方がいますけれども、それは間違っていると思うのです。今目の前にある仕事で成果を収めることができずに、どうして何年も先の成功が手に入るのか？　そんなはずはないんです。経営者になったからには、長期的にも短期的にも成功していくしかない。それを覚悟できているかどうかが重要だと思っています。

スキルについては、どの業界にいるのか、その市場がどういう事態にあるのか、自分の会社がどれくらいの成長段階にあるのか......などなどの条件次第で必要なものが変わってきます。ですから、いちがいに「このスキルはいつでもどこでも必要」などと言い切れません。ただし、それでも比較的ユニバーサルに活用できるスキルとして、経理・財務に関わる知識やスキルはあると考えています。必要十分条件ではないけれど、必要条件ではあると思います。

経営者になる人が経験しておくべきことは、「失敗」です。自己紹介のところでもお答えしたとおり、私は失敗から学ぶことでここまできました。やはり、失敗をして痛みを覚え、必死で這い上がることを体験しなければ、多くの人を責任感を持って率いていくことは難しいと思います。

［9］他に経営者に必要な資質や能力などありますか？

経営者の務めは、社員の為に「ステージを用意する」ことだと考えています。何をするにせよ、最後に直接仕事を動かしていくのは経営者ではなく現場のメンバーです。彼らが持てる力の100％を発揮しないことには、会社はうまくいきません。経営者は、ステージを用意し、演目を決める係です。それをきちんとできれば、用意したステージの上で社員たちが思う存分、歌って踊ってくれる。「ステージを用意する」という役目を理解し、覚悟して、本番を社員に任せる気構えが経営者には必要だと思っています。

［10］これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか？

GABAにいた時、私は今挙げたいずれのメンタリティもスキルも持っていませんでした。そしてGABAを辞めて、その自分の至らなさに気づいた時、手に入れるべき姿勢やメンタリティ、スキルが何なのかを理解することができました。

［11］業界のプロとしての知見はいかがでしょう？　やはり必要だとお考えですか？

先にお答えした「経営者に必要なスキル」と同様、これについても「その時、その会社がどういう状況に置かれているか」で、話は違ってきます。業界についての知識やノウハウは、持っていないより持っていた方がいいに決まっていますが、経営者は「経営」そのものに直結する経理・財務の知識や人を信頼関係で束ねていく度量なども求められます。業界についての知見と、経営一般についての知見。両者をどういうバランス配分で活用すればいいのかが、経営状況次第で変わってくるわけです。

キンコーズに来た時の私が恵まれていたのは、この会社がちょうど変化することを必要としていた時期だったことです。バージン・アイで経営のすべてを見直すべき時期だったおかげで、まったく業界経験のない私の体当たりのトライがかえって奏功したのではないか、と今は思っています。