[10]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?
生まれ育った環境が今の私に強く影響を及ぼしていると思います。
1つは幼年期。下町で前後5歳位の近所の子供連中とはとにかく朝から晩まで遊びました。子ども同士の様々な遊びの中で、協調性だったり、力関係だったり、いろいろなものを吸収できたと思っています。
もう1つは家族、家業。前に申し上げた通り、商店の子として生まれ育ったおかげで、忙しく働く父や母、お客様からたくさんのことを学びました。「経営は"商い"であり、お客さまがいて、貢献出来る商品・サービスがあるからこそ経営出来る」とシンプルに考えます。
「したたかに」且つ「実直に」
お客様にそっぽを向かれたらそれで経営は終わりなんです。どれだけお客さんに貢献出来るかが成長の鍵なんだ、ということを家族、家業が教えてくれました。
3つめも先に申し上げた内容ですが、学生時代のボードセーリング部での日々。ここで厳しい目標であっても、敢えてチャレンジしてチームで勝利をつかみ取ることの達成感の素晴らしさを学びました。仲間は大切です。
[11]業界のプロとしての知見はいかがでしょう?
やはり必要だとお考えですか?
社長・CEOという役割に限って言えば、言わずもがな業界のプロである必要があります。競合他社製品を知り、自社の強み、弱みを理解し、新たにビジネスを創造していく必要があるわけですから、業界のプロであるのは当然です。さもなくばお客様は評価してくれません。企業TOPである以上「業種のプロ」という円と「経営のプロ」という円が重なり、交わっている部分で力を発揮しなければいけません。どちらかに個人の強みがあってもしかるべきと思いますが、二者択一ではないと思います。
では、外から来た経営者はどうすればいいか? 別にはじめから業界のプロである必要はなく、後から知見を得れればいいんです。周囲から知識を得て、それを知恵に変換し、業界の知見をスピーディーに獲得するのです。知らないことは調べたり、人に聞いたりすればいいので知識はいかようにもなります。
ただ知識だけでは商売になりません。頭で理解できたら、今度はその知識を行動によって知恵にしていく。どんどん現場に出て行き、人と交わり、恥をかいたりしながら、ようやく知恵になる。創業オーナー社長の多くが強烈なカリスマ性を有するのも、この「知恵が宿る行動」を創業時から何度も何度も繰り返してきたからだと思うのです。
先ほど「プロ経営者はまず自分の過去を否定すべき」と申し上げましたが、同じように「知識にのみ頼るのではなく、行動を起すことで知恵に昇華させて意味がある」と思います。真にお客様を感動させるのは、手垢のついた知恵であり、活動の量かと思います。[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください
試練については、話し出したらキリがなくなるくらい体験してきました(笑)。社会人になってからだけでなく、学校受験でも失敗や試練をたくさん味わいました。振り返ってみると、人生の節目ですんなりといったためしがありません。でもこれが私の強さに繋がっていると感じています。
ストレッチについては、正直ピンときません。正直人生そのものがいわばストレッチです。今現在も私は走り続けている身ですし、走っている間はどれくらいストレッチできたか確認できないんじゃないか、と思ったりもします。
変なたとえで恐縮ですが、イメージとして、仮に駅に電車が到着した場面があるとすれば、私はひとまず目一杯駆け出します(笑)。とにかく走る。50メートル先にある電車に乗り込める可能性が少しでもあるのなら駆け出し、幾ばくかある可能性に賭ける。自らの勝手な思い込みや判断で走る事を諦めてしまえば、それで全ては終わり。人生、電車に乗れるか乗れないかなんて全く分からないのに勝手に決めてしまう自分のせいで乗れないことが多いと考えています。[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?
経営の実践の場で目一杯転んで下さい。転んで、失敗して、劣等感を味わったら、今度はめいっぱい「なぜ」と、「どうやったら」を考える。もう一度転ばない様にやってみる。必ず学びがあるはずです。いつかは期待以上の成功につながるはずです。転び続け、考え続ける。そういう学び方をお薦めしたいです。[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
私と関わったすべての人が師匠です。特に、人生の局面で厳しい事を助言頂いた方々が最良の師匠だった気がします。当時必ずしも素直に聞けなかった場合もあったかもしれませんが、人というのは自分に都合の悪い事をどうしても避けがちです。今になってみると、「ああ、あのときのお言葉正しかったな~」ということがあります。私の中に何かが不足しているから受け容れられず「イヤだな」と感じていた。つまり、そういう上司こそ、欠けているものを教えてくれた存在だったなと感じているんです。[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか?
それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?
まずは「自分はこうありたい」というものを念じ続けることが何よりも大切ではないでしょうか。念じ意図している者にしか、偶然とか幸運は降りてこないと思います。なぜなら、そうした偶然や幸運のありがたみをその瞬間に評価できないから、取り入れようがない(=チャンスを逃してしまう)と思うのです。
もっと現実的に言うと、偶然はないと思います。全ては必然。原因があって結果があると思います。思想は現実化しますよね。「経営者になりたい」と思い続け、「そのためにこうありたい」というのを念じ続けたから、今の自分があると感じております。[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?
起業は私が経営に関与する上での一つのチョイスに過ぎないと捉えています。たまたま私にはそういうチャンスが無かったのかと整理しています。これからも「グローバル商人」として、やりたい経営を実現していきたいですね。[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?
既に数多くお話しさせて頂きました。[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?
数社の経営者として多くのいい経験をさせて頂きましたが、まだまだ多くの事を学び、実践し、実現していかなくてはなりません。経営を至上の喜びとして、多くのお客様、社員の人々を幸せにしたいと考えています。
[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?
現状の会社の仲間たちと大きな夢、目的の実現に向けてとことんまで頑張りたいと考えています。去ることは想定しておりません。[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします
「経営者」にとっての最良の教科書は実践しかありません。所謂トラックレコードです。だから、早くなったほうが得だと思います。未熟なうちに経営者になると苦労するという言葉を聞きますが、若いなら、恐れずにリスクを踏み切れることも多いはず。チャンスがあれば臆さずつかみ取ってほしいですね。
その一方で、会社のステータスとか給与とかにとらわれず、やりたいことを愚直に追いかけてほしいと思います。どんな環境にいようと、意識的にどんどん人と会ってほしい。良かれ悪しかれ、人は刺激をくれます。それが何よりの成長をもたらしてくれます。