[8]経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう?
「自分なりのリーダーシップ」というものをしっかり捉え、それを確立するために自身の強みを伸ばし続けていく。そうすれば、成長の延長線上に「経営者」というポジションも現れてくるのだと思います。
ではリーダーに必要なメンタリティは何かといえば、前向きであること、逆境に強いこと。渡されたもの、手にしたものを右から左へと単に流すのではなく、きちんと受け止め、理解をし、意見を述べて、決定する役目を自ら担う。それが大切なマインドセットだと考えます。決めきれない人間、責任逃れをする人間、言い訳をする人間は、良いリーダーにはなれません。
スキルについては、分析力だったり、コミュニケーションスキルであったり、リーダーに必要だと言われているベーシックなものを一通り持っていることが最低条件になるとは思います。ただし、それらを一定水準以上で備えている人を前提とするならば、加えてある特定のスキルが必須だとは思いません。一方、自分のよりどころとなる、確固たる自信の源となるような強みをしっかり持つことはとても大切だと思います。
経験において大切なのは、タフなシチュエーション、「修羅場」をどれだけくぐってきたか、ではないでしょうか。その修羅場が結果として成功体験になっていようと、挫折体験になっていようと、どちらでもいい。そこから何を学び取ったか、次にどう活かしていくか、に大いなる価値があると考えます。
[9]他に経営者に必要な資質や能力などありますか?
「やりがい」というものを感じ取れるかどうか。「楽しい」「面白い」と感じられる熱意、パッションを持っているかどうか。そして、そうした価値観を共有できる仲間やチームを作っていけるかどうかが問われると思います。
私にとって幸運だったのは、人そのものや、人と人とのつながりというものに徹底的に投資する会社ばかりを経験してきたこと。リクルート、マッキンゼー、GE、シーメンス......こうした環境に身を置けたことで、「人財」と人への投資の大切さをずっと経験してこれたことです。[10]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?
前の質問への回答の通りです。これまで在籍したすべての企業、そして今いるシーメンスで様々なチャレンジと経験を通じて、多くのスキルを身につけてくることができたと思います。[11]業界のプロとしての知見はいかがでしょう? やはり必要だとお考えですか?
ないよりはあった方がもちろんベターだと思います。ただし、業種や業界にもよるかとは思いますが、必須条件ではない。業界のプロといった知見よりもリーダーシップなど経営のプロとしての資質を磨く方がより重要だと考えます。[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください。
冒頭でもお話したように、私はなぜか5〜6年ごとに大きな節目を迎えてきましたが、だいたいその前後のタイミングで大きな試練やストレッチというものも経験してきました。それらを前向きに乗り越え、新天地でチャレンジして、成果を出し続けてこれたことがその後と今につながったのだと思っています。[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?
目の前にあることを最大限の力でやり抜いていく。与えられたハードルよりも遙か上を達成できるように取り組む。それが価値ある学びと成長をもたらしてくれると思います。[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
これまでに在籍したすべての会社に影響や刺激を与えてくれるかたがいました。特に誰かを挙げるのならば、リクルート時代の酒井さん、マッキンゼー時代のパートナーの皆さん、GE時代の藤森さんです。[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか?
それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?
誰にでもキャリアの節目は訪れるはずです。選択肢が提示され、そのいずれかを選ばなければいけない局面がやってくる。どれを選ぶかによって、その人の人生は大きく変わることでしょう。そんな中、チャンスや運や縁も姿を見せるはず。それらは手に入れたらそれで終わりだとは思いません。チャンスも運も、手にした人次第でその価値を最大限に活かせるかどうかが決まる。つまり、積極性や努力が問われるのだと思います。チャンスや運や縁は誰にでもそれなりにやってくるけれど、それを最大限に活かすことができるのは努力して、積極的にチャレンジする人だけ。私はそう考えます。[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?
興味がなかったわけではありません。ただ、具体的な可能性を考えるような機会や人との出会いがなかった。今まで縁がなかった。だから起業をしていないのだと思います。[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?
特にありません。[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?
2番目の質問にお答えした通りです。今は、シーメンスの事業の成長と、人・組織の成長をとにかく成し遂げたい。そして、シーメンスを、多くの人が憧れるような会社にしていきたいと思っています。[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?
幸いなことに「卒業生」に優しい会社ばかりを経験してきましたし、もしもシーメンスを去る時が来た場合にも、願わくば惜しまれて辞めたいですね。織畠がいたおかげで、シーメンスの成長は促進された、とてもいい会社になったと言われ、記憶してもらえたら嬉しく思います。[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
20〜30代は、やればやるほど伸びる時期です。失敗をしても許されるし、伸びしろが最もある貴重な時期です。だからこそ言いたいのは「がむしゃらにやる」ということです。「これをやったら成長できるかな、どうかな」「チェックリストのこれとこれをクリアするべきかな」などと頭で考えている場合ではないのです。なんでもかんでも、目の前にあるものに食らいついて、がむしゃらに頑張る。チャレンジし続ける。"Just Do It!。それしかありません。
もうひとつ言わせてもらえば、人とのつながりを大切にして欲しいと思います。有力な人を見つけて媚びろ、という意味ではありません。様々なチャレンジをしていく過程で、できる限り多くの人を巻き込んでもいく。一緒に頑張る仲間を増やしていく。そうすることで人に対する影響力というものも磨かれていきます。
賢く振る舞おうとするのではなく、真摯に仕事と人に向き合いながら、積極的にチャレンジし続ける。それが私からのメッセージです。
(※2016年1月1日にシーメンスヘルスケア株式会社に社名変更しました)