はじめに
コンサルタントの仕事は、単に経営戦略を提案するだけではなく、クライアントの課題を特定し、実行可能な解決策を提示し、ときにはその実行支援まで行うことが求められます。そのためには、幅広いスキルを持ち、それらを適切に活用することが不可欠です。
コンサルタントに求められるスキルは、大きく
「ハードスキル(専門知識・技術)」 と
「ソフトスキル(対人能力・思考力)」
の2種類に分けることができます。
では実際に現場、すなわちプロジェクトにおいて、どのようなスキルとその発揮が求められるのでしょうか。本稿では、それぞれのスキルと具体的な活用シーンについて解説していきます。
1. ハードスキル(専門知識・技術)
ハードスキルとは、明確な方法論やツールを用いて学習・習得できるスキルを指します。コンサルタントはデータ分析やプレゼンテーション、プロジェクトマネジメントなど、具体的な技術を駆使してクライアントに価値を提供します。
① データ分析・リサーチスキル
コンサルタントの提案は、データに基づいたものでなければなりません。市場調査、競合分析、財務データの解析などを行い、客観的な根拠をもとに提案を行う能力が求められます。上記は「など」という形でさらりと書いていますが、実際はそれぞれに対し、課題解決に繋げるための高いレベルが求められます。
《活用シーン》
● クライアント企業の決算書を分析し、収益構造の問題点を明らかにする
● 競合の事業戦略を調査し、クライアントの市場ポジションを明確にする
② ITリテラシー(デジタルスキル)
DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、コンサルタントにもITに関する知識が求められます。データ分析ツールの活用やクラウドサービス、AI技術の理解を深めることで、より高度な提案が可能になります。特に近年はデジタルスキルに対するニーズが増大しており、またSierからコンサルへの転職者の増加も相まって、要求水準はかなり高いと考えています。
《活用シーン》
● BIツール(Tableau、Power BI など)を使い、データを視覚化しながら意思決定を支援する
● クライアント企業のITシステム導入に向け、最適なソリューションを提案する
③ プロジェクトマネジメント能力
コンサルティング業務は、多くの関係者が関与するプロジェクトとして進行します。タスクの管理、スケジュール調整、関係者との連携など、プロジェクトマネジメントスキルが不可欠です。
マネジメント能力とあると、ある程度の経験を経て求められるようなスキルと受け止める人もいるかもしれませんが、ジュニアであっても自身のタスク管理であったり、全体のマネジメントと合わせた調整であったりと、最初から求められるスキルです。また、プロジェクトを設計するうえでもプロジェクトマネジメント能力は必須です。
《活用シーン》
● クライアント企業と合意したスケジュール通りにプロジェクトが進行しているかを確認し、必要に応じて調整する
● 社内外のメンバーを適切にアサインし、業務が円滑に進むようにする
④ プレゼンテーション能力
コンサルタントはクライアントに対して、自らの分析結果や提案を明確に伝え、納得してもらう必要があります。そのため、資料作成の技術や効果的な話し方、データを使った説得方法など、プレゼンテーション能力が求められます。
プレゼンテーション能力はドキュメンテーション能力とコミュニケーション能力の掛け合わせの要素がありますが、「クライアントに対し明確に伝える」ことを文章と説明を通じて実現するための能力として捉える必要があります。
《活用シーン》
● 経営陣に向けた戦略提案を行い、施策の採用を促す
● データ分析結果をスライド資料にまとめ、わかりやすく説明する
専門知識という観点では、
個別産業におけるインダストリーナレッジ(自動車、製薬、金融等)や、個別機能に関するファンクションナレッジ(組織、業務、知財等)を必要なハードスキルとして追加してもよいかもしれません。これらは参加するプロジェクトによって当然異なるため、ご自身の目指す専門性に合わせて強化していくことになるでしょう。
また、留意しなければならないのは、これらハードスキルは「あればよい」のではなく、スキルを保有したうえで、かつクライアントよりも高いレベルで・速く結果を出すことが求められるということです。自分たちではできないからこそ、クライアントはコンサルタントに対して支援を依頼しています。特に成果として目に見えやすいハードスキルは、まず鍛えるべき要素と言えるでしょう。
2. ソフトスキル(対人能力・思考力)
ソフトスキルとは、対人関係や思考プロセスに関わるスキルです。
ソフトスキルは明確な数値で測ることが難しいものの、コンサルタントとして成功するためにはこちらも不可欠な要素です。
① ロジカルシンキング(論理的思考力)
コンサルタントは、課題を論理的に整理し、最適な解決策を導き出す必要があります。論理的思考力がなければ、クライアントの信頼を得ることはできません。ある種コンサルタントとしての代名詞的なスキルとも言えるでしょう。
《活用シーン》
● クライアント企業の業績低迷の原因を分析し、論理的に整理して特定する
● 施策のメリット・デメリットを論理的に説明し、クライアントの納得を得る
② コミュニケーション能力
クライアントやチームメンバーと円滑に意思疎通を図るスキルです。相手の意図を正しく理解し、自分の考えを分かりやすく伝えることが求められます。
重要だと言われながら、非常に定義が難しいのがこのコミュニケーション能力です。コンサルにおけるコミュニケーション能力としては、傾聴力と発信力の両方の組み合わせが重要なのではないでしょうか。まずクライアントの課題を聞き、それを踏まえて求める答えを出していくための能力が必要になります。
《活用シーン》
● クライアントの経営層と会話し、意思決定のポイントを引き出す
● ヒアリングを通じて現場の課題を深掘りし、解決策を検討する
③ 柔軟な対応力(アダプタビリティ)
クライアントの状況や市場環境の変化に素早く対応し、最適な解決策を導き出す力です。
提案時に想定していた仮説の変更を余儀なくされたり、進捗に応じて計画を変えなければならなくなったりと、実際のプロジェクトにおいては様々な変化が発生します。そうなっても自分の考えや当初計画に固執せず、よりよい成果のために変化に対応できる力は重要です。
《活用シーン》
● クライアントの経営方針が変更された際、新たな施策を短期間で立案する
● 異なる業界のクライアントに対応し、それぞれの業界特有の課題を理解する
④ 問題解決能力(クリティカルシンキング)
複雑な問題を分解し、最適な解決策を導く力です。論理的思考力と密接に関連しており、コンサルタントには不可欠なスキルです。
これも定義が難しい能力ではありますが、平易な表現を使うと「当たり前のことを当たり前と捉えず、多角的な視点から解決策を導く」といったことでしょうか。まさにクライアントにはない視点を提供するために必要不可欠なスキルだと考えられます。
《活用シーン》
● 売上低迷の原因を分析し、営業プロセスのどこにボトルネックがあるのかを特定する
● クライアントの業務フローを見直し、無駄なプロセスを削減する提案を行う
⑤ 人間関係構築力(リレーションシップ・マネジメント)
クライアントや社内外の関係者と信頼関係を築く能力です。コンサルティングの成果は、関係者との協力なくして実現できません。ひとつのプロジェクトにおける人間関係はもちろんのこと、シニアになればなるほど、この人間関係構築力の期間と対象範囲を拡大することが求められるようになります。
《活用シーン》
● クライアント企業の経営層と信頼関係を築き、長期的なパートナーシップを形成する
● プロジェクトメンバーのモチベーションを維持し、円滑なチーム運営を行う
ソフトスキルはハードスキルよりも言語化や明確化することが難しいものが多く含まれます。そのため、知識として理解するだけでは不十分であり、実践し発揮することが重要です。また他者からのフィードバックによって成長を確認するのも手段として有効でしょう。
終わりに
コンサルタントには、データ分析やプレゼンテーションといった ハードスキル と、ロジカルシンキングやコミュニケーション能力といった ソフトスキル の両方が求められます。どちらか一方だけでは不十分であり、これらを組み合わせて活用することで、クライアントに最大の価値を提供することができます。
少し違った観点でお話をすると、コンサルタントの評価はこれらスキルの体現状況によってなされるということも覚えておいていただくと良いでしょう。実際のプロジェクトにおいて、コンサルタントがこれらスキルをどのように発揮し、クライアントへの価値を提供したのか。その評価結果に応じて、次のタイトルへの昇格判断が決まるファームが大半だと思います(各ファームによって対象とするスキルやまとめ方は異なりますし、稼働率や売上等も当然考慮されますが)。
コンサルタントとして活躍するためには、これらのスキルを継続的に磨き、自分のスキルレベルを確認し、変化するビジネス環境に対応できる柔軟性を持つことが重要です。