はじめに
近年、コンサルティング業界では総合系ファームが大きく成長する中で、ブティック系コンサルティングファームは独自の専門性を活かしながらその存在感を保っています。
従来の大手総合コンサルティングファームとは異なり、特定の業界や機能領域に特化した専門性の高さが特徴です。大手コンサルティングファームに比べて規模は小さいものの、顧客に対して高品質なサービスを提供し、深い専門知識を活かしたコンサルティングを行っています。また、従来のファームに加え、新しい独自のポジションを持ったファームも登場してきています。
本稿では、ブティック系コンサルティングファームの定義を一定したうえで、大手総合コンサルティングファームとの違いを踏まえて比較しながら、その魅力と特徴を掘り下げていきます。また、具体的なブティックファームの例を挙げ、それぞれの特色について解説します。
ブティック系コンサルティングファームの定義と特徴
ブティック系コンサルティングファーム(Boutique Consulting Firm)とは、特定の業界や専門分野に特化し、クライアントに対して深い専門性を活かしたコンサルティングを提供するファームを指します。定義をすると言いながら申し訳ありませんが、実はブティックファームに共通した明確な定義は存在しません。大手総合コンサルティングファーム(Big 4など)と比較すると、規模は小さく、特定分野の専門家が集結した組織形態を取っているファーム、というような整理になるでしょう。
実際、現在において総合系と呼ばれるファームも最初からすべての領域をカバーしていたわけではなく、その成長の過程において様々な機能を取り込むことで総合系と呼ばれるに至ったわけであり、最初はほとんど全てのファームがブティックファームだったと言えるでしょう。
したがって、様々議論あるかとは思いますが、まずは「数十~数百人規模の」「特定の領域に対する強みがある」ファーム、という定義で以下の議論を展開していきたいと思います。規模と範囲に加え、それ以外の特徴を加味した比較表を整理しました。
総合系コンサルティングファームとの比較
ブティック系コンサルティングファームの例とその特色
イメージアップのために、以下にブティック系コンサルティングファームの例とその特色を示します。あくまで例であるのと、またどのファームをブティックファームと呼ぶのかについては前述の通り様々議論ありますため、ご参考として捉えてください。(例えばOliver WymanやLEKはグローバルにおいては大手総合系ファームとされますが、日本国内においてはまだブティックという扱いになる、等)
1.フロンティア・マネジメント(日本国内の経営再建・M&A特化)
・経営再建、M&Aアドバイザリー、成長戦略に特化した日本の独立系コンサルティングファーム。
・国内企業向けの実践的な戦略支援を提供。
・規模:約150名(2023年時点)。
2.エム・アンド・アイ コンサルティング(製造業・サプライチェーン特化)
・日本の製造業やサプライチェーンマネジメントに特化したコンサルティングを提供。
・中小企業向けの経営改善やDX支援にも強みを持つ。
・規模:約100名(2023年時点)。
3.ZS Associates(ライフサイエンス・医療業界特化)
・製薬・ヘルスケア業界に特化したコンサルティングを提供。
・データアナリティクスを活用し、戦略策定や営業最適化を支援。
4.Oliver Wyman(金融・リスク管理分野)
・金融業界向けの戦略策定やリスク管理に強み。
・グローバルに展開しながらも、特定分野における専門性が高い。
5.LEK Consulting(戦略コンサルティング)
・プライベートエクイティ向けの市場調査や企業価値評価に特化。
・幅広い業界知識を持ちつつ、投資関連のアドバイザリーを提供。
ブティックファームの魅力と特徴
ではそれらブティックファームで働くことの魅力には、具体的にどういったものがあるのでしょうか。当然各ファームによって多少差異はあると考えられますが、いくつか挙げてみると以下のようなものが考えられます。
1.高い専門性と深い業界知識
・大手総合ファームでは幅広い分野を網羅する一方で、ブティックファームは特定業界に特化しているため、専門性の高いコンサルティングが可能。
・規模が小さい分、業界特化型の専門家が直接プロジェクトに関与するため、顧客満足度が高い。
2.柔軟な対応力と顧客密着型のサービス
・クライアントのニーズに合わせたカスタマイズが可能であり、画一的なソリューションではなく、個別対応ができる。
・長期的なパートナーシップを重視し、実践的なアプローチで顧客企業の成長に貢献。
3.アットホームな社風と働きやすさ
・組織が小さいため、フラットな関係性が構築しやすく、個人の裁量が大きい。
・社内の意思決定がスピーディであり、プロジェクトに関する提案が採用されやすい。
4.成長機会の豊富さ
・若手のうちからクライアントとの直接的な関係構築やプロジェクトマネジメントに関与する機会が多い。
・特定分野の専門家としてのキャリアを形成しやすく、専門スキルを深めながら早期にリーダーシップを発揮できる。
総合すると、具体的にやりたい領域が決まっており(もちろんそれがそのファームと合っており)、かつ大きい裁量でクライアントと近い距離で働きたい人は、ブティックファームが有力候補となるかもしれません。
ブティックファームを志望する場合の注意点
一方で、ブティックファームで働く際に注意すべき点はあるのでしょうか。こちらもいくつか挙げてみると、以下のようなものが考えられます。
1.プロジェクトの多様性が限られる
・特定業界や分野に特化しているため、さまざまな業界の案件に携わる機会は限られる。
・多角的なスキルを身につけたい場合は総合系ファームとの比較が必要。
2.リソースの制約
・総合系ファームに比べて人的・資金的リソースが少ないため、大規模プロジェクトの遂行には制約があることがある。
・一人当たりの責任範囲が広くなるケースが多い。
3.知名度の違い
・総合系ファームに比べてブランド力が低いため、転職やキャリアの展開時に考慮が必要。
・企業によっては認知度が低いことから、クライアント獲得に苦戦することもある。
4.ワークライフバランスの違い
・一部のブティックファームでは案件ごとの負担が大きくなることもあり、ワークライフバランスが取りづらい場合がある。
・ただし、総合系と比べるとプロジェクトのスケジュールが柔軟であることも多い。
ある意味、魅力と特徴の裏返しになるのかもしれませんが、専門特化であるがゆえ、少数であるがゆえの注意点があると考えると良いでしょう。ジェネラリストを目指すのか、スペシャリストを目指すのかといった観点もあるでしょうし、ご自身の特性や好みとどちらが合うのかといった観点から判断することもあるかと思います。
終わりに
ブティック系コンサルティングファームは、大手総合コンサルティングファームとは異なり、特定の業界や機能領域に特化することで、より専門的で質の高いコンサルティングを提供しています。そのため、特定業界の知識を深めたい人や、クライアントとの密接な関係を築きながら柔軟な働き方を求める人にとっては魅力的なキャリアの選択肢となるでしょう。
一方で、総合ファームと比べると、プロジェクトの多様性やグローバルなネットワークの活用機会が限られる場合もあるため、自身のキャリア目標と照らし合わせた上で、適切なファームを選択することが重要です。
今後もコンサルティング業界におけるブティックファームの存在感は増していくことが予想され、専門性の高いサービスを求める企業にとって不可欠なパートナーとなるでしょう。