はじめに
コンサル業界は、その高い報酬とやりがいのある仕事の内容から、多くのビジネスパーソンにとって魅力的な転職先です。近年とみに、他業界からの転職が増えているように感じます。しかし、コンサルティングファームでの成功は容易なものではなく、華々しい成功談の裏には数多くの失敗が隠れています。
特に、未経験者にとっては、激しい競争環境の中で成果を出すことが求められるため、適応力と学習意欲が試されます。一方で、コンサル業界経験者であっても、新しい環境やクライアントの特性に適応する必要があり、過去の成功体験が必ずしも通用するわけではありません。
本稿では、アナリスト、コンサルタント、マネージャー、シニア(いわゆるディレクター/プリンシパル以上)といったタイトルごとに、さらに経験者・未経験者の軸を加えて、転職後の成功体験と失敗談を紹介し、これから転職を考えている方に実践的なアドバイスをお届けします。
筆者自身もコンサルティングファーム間の転職を複数経験しているため、客観的な内容に加え、転職者としての経験談も含めてお伝えしたいと思います。
アナリスト:基礎を固める段階
経験者の成功体験
アナリストとして成功するためには、徹底したデータ分析力と論理的思考力が求められます。あるコンサル業界経験者の転職者は、前職でのデータ分析経験を活かし、素早く業務に適応しました。特に、自身として強みと感じていたExcelやSQLのスキルを活用して、効率的なレポート作成を行い、早期に信頼を獲得しました。さらに、過去の知見を活かしながらも、新しい業界のデータ構造や分析手法を積極的に学ぶことで、プロジェクトへの貢献度を高めました。
未経験者の成功体験
未経験で転職したあるアナリストは、最初の半年間で基礎スキルを徹底的に学び、実践的なトレーニングを積んだことで、プロジェクトに貢献できるようになりました。オンラインコースや社内の研修制度を活用し、自主的に学ぶ姿勢が評価されました。特に、仮説検証のプロセスを重視し、積極的に質問をすることで、経験者と同等のレベルに早期に到達しました。
失敗談
一方で、経験者でも新しい業界知識を学ぶことを怠り、過去のやり方に固執してしまい評価を落としたケースもあります。例えば、金融業界の分析経験があるにもかかわらず、製造業クライアントのデータを同じアプローチで扱った結果、適切なインサイトを提供できず、信頼を失った事例があります。
また、未経験者の場合、「指示待ち」の姿勢が抜けず、主体的に動けなかったため、評価が低迷しました。上司やクライアントからの指示を待つばかりで、自分から仮説を立てたり、データを深掘りする姿勢が欠けていたことで、成長の機会を逃してしまいました。
転職の成否を分けるポイント
アナリストは経験者/未経験者を問わず、いかに求められるタスクの処理スピードと品質に対応できるかが重要です。特に事業会社出身者はここで壁を感じる人が多いように思います。更に、失敗談で挙げているように、主体的に考え、動き、自身の意見を発信するという働き方にスイッチを切り替えなければいけません。アナリストだから・・・と受け身になるのではなく、アナリストだからこそ許されるトライアンドエラーを自ら繰り返せる人が、転職で成功する人だと考えます。
● データ分析や資料作成スキルを徹底的に磨く
● 指示待ちではなく、主体的に課題を発見し提案する
● 新しい業界知識やツールの習得を怠らない
コンサルタント:プロジェクト推進の中心
経験者の成功体験
コンサルタントとしての経験がある転職者は、前職で培った問題解決のフレームワークを活かし、プロジェクト推進に貢献しました。特に、クライアントとの関係構築を重視し、積極的にコミュニケーションをとることで、信頼を得ました。
未経験者の成功体験
未経験者の場合、まずは資料作成やリサーチ業務を徹底的にこなし、プロジェクトの流れを理解しました。さらに、ファシリテーションスキルを伸ばすことで、クライアントミーティングでの存在感を高めることに成功しました。
失敗談
経験者であっても、前職のやり方に固執しすぎて新しいファームの文化に適応できず、評価を落としたケースがあります。また、未経験者は、論理的思考が不足していると、的確なコンサルティングができず苦戦することがあります。
成否を分けるポイント
コンサルタントというタイトルに対する期待値としては、単なる作業者ではなく、一定程度の業務範囲を任せられるリーダーというところにあります。また、自身の業務範囲を完遂するためには、プロジェクトの全体像を把握したうえでなければなりません。アナリストとは異なるキャッチアップの仕方が求められます。また、コンサルタントとして転職してくる場合は即戦力としての期待値も上がります。自身に何を求められるかを理解し、柔軟に対応していくことが必要です。
● クライアントとの関係構築を重視する
● プロジェクトの全体像を把握し、的確に動く
● 新しい環境に柔軟に適応する
マネージャー:リーダーシップの発揮
経験者の成功体験
他ファームにおいてマネージャー職の経験がある転職者は、チームマネジメント能力を活かし、プロジェクトを成功に導きました。特に、メンバーの成長を促しながらも自身の専門性を示し、クライアントとの折衝もスムーズに行うことで、高い評価を得ました。
未経験者の成功体験
コンサルティング業界未経験者で、プロジェクトデリバリーをリードするマネージャーにいきなり転職して成功した人を見たことはほぼないです。もしいたとするなら非常にベースとなるスキルが高く、かつコンサルティングワークに対する解像度が高い人なのでしょう。個人的には、未経験者のマネージャーからの転職はお勧めしません。
失敗談
マネージャー職では、リーダーシップ不足が致命的な失敗につながります。経験者でもチームの管理ができず、メンバーの不満が爆発した事例もあります。自身のスタイルと転職先のファームのスタイルが合わないというケースもあります。
成否を分けるポイント
マネージャーになると、個人のコンサルタントとしてのスキルだけでなく、チームマネジメント力を発揮し、チームとしての成果を出せるかどうかがポイントとなります。特にジュニアメンバーはマネージャーのことをよく見ています。新しく来たマネージャーは果たして信頼に足りる人なのか、と常に評価されていると考えたほうが良いでしょう。筆者も最初の転職において、マネージャーからマネージャーで転職しました。やはり転職先でのチームマネジメントをどう行うかについては大変悩みました。自身の個としての力だけではプロジェクトは推進できません。早期にファームやメンバーの特性を理解し、対応していくことが必要です。
● チームマネジメントを重視する
● クライアントとの折衝能力を高める
● メンバーの成長を意識する
シニア:経営戦略の提案
成功体験
シニアクラスでは、クライアントの経営層と直接対話し、戦略立案を主導することが求められます。成功した転職者は、自身の知見を活かした的確な提案と実行力で企業の成長を支援し、長期的な信頼を得ました。また、別のシニアは培った人的ネットワークを生かし、転職先のファームにおいて新しい顧客リレーションを構築することで、ファーム全体の成長に貢献しました。
失敗談
シニアに対しては、即戦力であることはもちろんのこと、いかに数字(売上)を上げられるかということが重要です。シニアの失敗は即ち数字が上がらないと言い換えてもよいかもしれません。実際に、あるパートナーは期待したほどの新規開拓や、既存リレーションの活用ができなかったため、1年程度で転職したファームを去ってしまいました。
成否を分けるポイント
シニアクラスになると、キャリアとしてもいわゆるパートナーを目指す方向と、専門性を生かしたSME(Subject Matter Expert)としての方向性があります。ファームによってその捉え方は異なりますが、どちらの立場においても、シニアとしてファームを成長させるためのキーパーソンとして期待されていると理解すべきでしょう。現職で活躍できていても、転職先で同じように活躍できるか、自身の市場価値とその源泉を冷徹に見据えたうえでの転職でないと、シニアの転職での成功は難しいでしょう。また、シニアクラスはマネージャー以上に大きな単位でのチームを率いる立場にあります。自身が転職先のファームでやりたいことに対し、果たしてどのような/どれくらいの人が協力してくれるのか、それ次第で成功と失敗が分かれるかもしれません。
● 経営視点を持ち、戦略を具体化する
● 市場における認知と評判を得る
● クライアントとの強いリレーションを持ち、開拓する
● チームとの長期的な関係構築を意識する
終わりに
コンサル業界への転職は、多くのビジネスパーソンにとってキャリアアップの大きなチャンスです。しかし、成功するためには、役職や経験値に応じた適応力とスキルが求められます。
これからコンサル業界への転職を目指す方は、成功談を参考にしつつも、失敗談を教訓として活かすことが大切です。事前の準備をしっかり行い、自分自身の強みを明確にすることが重要です。一方で、転職先で自分に何が求められるのかを理解し、それに適応するのも同じくらい重要です。できること、やりたいこと、求められることを天秤にかけ考慮したうえで、新たなキャリアを切り開いてください。