[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください。
試練はたくさん体験しました。例えばBCGに入って間もない頃、お客様の前でプレゼンをしていると、当のお客様は納得してくれたのに、そのお客様のいる場所で、パートナーから無邪気に「しつもーん」と言われて凍ったこともありました。「これがハシゴをはずすということか」と(笑)。けれどもこういうことの繰り返しが私を強くしてくれました。「お偉いさん」に頼るんではなく、自分が答えを出すんだ、という強い気持ちを持たないとだめだ、ということです。
あるいは、あるお客様とのプロジェクトでどう考えても答えを導き出すことができず「辞めるしかないかな」と覚悟したこともありました。結局、パートナーからの何気ないアドバイスを藁をもつかむ思いで検討することで運よく答えにたどりつくことができました。やっぱり「お偉いさん」は頼りになるな、と。(笑)HBIの時代も、ある事業で重要な契約上のミスがあり絶体絶命だと感じたこともありました。そのときも仲間の踏ん張りで難局を打開できましたが。「お偉いさん」だけじゃなく「仲間」こそ頼りになるな、と(笑)。
こうした試練で得た収穫は、「仲間を信頼する」ことはもちろんですが、「物事には必ず想定外の展開が起こりうる」という覚悟を腹に据えることができた点です。そして「人間のやることなんだから、いつも完全ではない」という考え方も身についていきました。
試練を乗り越えてストレッチすることはいいことだと思いますが、かといってボロボロになるほどの試練はいらないですよね。だから「苦労は買ってでもしろ」的なアドバイスはあまりしませんね。そんなアドバイスを例えば私のような、放っておいても試練にぶち当たるような人間に言っても伝わりません (笑)。何をやらせても苦労せずにスイスイとスムーズに運んでしまうような人だったら、「買ってでも......」というアドバイスも有効でしょうけれど、そんな人間はそんなに多くいませんしね。
そのメッセージの真意を汲んで違う表現で若い世代のかたにアドバイスをさせてもらうならば、「とにかく今あなたの目の前にあることをしっかりとやりなさい」と言いたいですね。それが何よりの試練ですし、ストレッチにつながると思います。ちゃんと向き合ってみると、仕事はそんなに簡単なものじゃないんで。
[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?
自戒を込めて言います(笑)。さっきの話とつながりますが、その時々に真剣にトライすること。いつでもベストを尽くそうとすることです。人間は完全じゃない、と考えている私などは特にそうですが、人は誰しも手を抜く場面や自分への甘さに流される場面がある。だからこそ、本当の意味で今目の前にあるものにベストを尽くしているかどうか、確認しながら向かっていくように意識するのが重要だと思っています。[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
BCG入社時のパートナーやマネジャーには単に仕事を学んだ、というだけでなく、人生の先輩として生き方を学ばせてもらったと思っています。その後も人生の転機や局面ごとに、多くのかたから影響を受け、お世話になりました。1人のかたとの出会いからご縁が広がり、さらに多くのかたから力をいただいたり、年齢や業界を超えて長くお付き合いさせていただくことで、それが私自身の人生にとっての座標軸になったりもしています。[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか?
それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?
どちらか一方を答えなさい、というのならば、言い切ります。運です。縁です。ただし、言うまでもないと思いますが、努力していくのは当たり前の前提です。[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?
私は「起業する」という手段に、何らこだわりを持っていません。私にとって何よりも大切なのは「誰とやるのか」であり、「何を」とか「どうやる」というのは二の次なんです。[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?
座右の銘のようなものは特にありませんが、強いて言うなら「楽しくやる」ですね。自分も、仲間も。何をするにしても楽しみながらやっていけば、パワーも出ますし、そうすると結果的に楽になれたりもする。楽じゃない仕事も楽しくやろうと心がけていれば立ち向かえるものです。
[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?
私が自分自身で大切にしているのは、先に申し上げた「誰とやるか」ともう一つ、「何を残せるか」です。この世の中に生まれてきた以上、社会や未来に何か残していきたいと思っているんです。経営者であり、外食ビジネスに携わっている私ですから、これを通じて何かを残したい。そういう意味では外食業、サービス業はいい選択だなと思っています。食を通じて世の中に残せるものはたくさんある。カフェ・カンパニーは単に外食だけやるわけじゃありませんから、可能性はもっと大きい。ですから、これからも未来につながる何かを残していく仕事をしていきたいと思っています。[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?
想像できません(笑)。きっと、想像できるようになるのはずっと先のことだと思うので、この質問への答えはそれまでとっておきます。[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
限りある時間を大事にしてすごしてください。20代、30代が持っている可能性はもちろん大きなものがあります。だけど、そうこうしているうちに時はあっという間に過ぎていきます。時間だけは人間に止めることも貯めることも出来ないものです。「さっさと動き出せ」と言いたいです(笑)。
私にしたって、まだ社会人になって20年程度ですが、それでも振り返れば「もっとやれたはずなのに」と悔しく思う場面がいくつもある。でも、時は止まりません。過去には戻れません。やっぱり先ほども言ったように、目の前のことにベストを尽くしていくしか我々には出来ないし、ベストを尽くせば必ず前が開けていくとも思っています。