[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
大勢のかたがたから影響を受けてきましたが、「この人」と1人特定するのならば、ケン・ギブソンさんです。私が在籍していた時期にマッキンゼーのオーストラリア・オフィスから東京オフィスに移ってきたかたなのですが、頭が良くて、能力が驚くほど高いのはもちろんのこと、人として実に魅力的なかただったんです。
彼と私とでは、コンサルタントとしての実績にせよ何にせよ、段違いでした。それにもかかわらず、英語を流暢に話せない私の言葉をいつも辛抱強く聞いて、しっかり理解しようとしてくれた。能力や成果も大事ですが、こうした人としての奥深さというか、そういうものの大切さを教えてもらったのだと思っています。ギブソンさんはすでにリタイアしていますが、今もなお親交があります。私にとっては今も変わらず大きな存在です。
[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか?
それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?
若いうちの私は、どちらかといえば前者を信じて突っ走っていたところがあります。自分が成長するためのブロックを方々から集めてきて、それを熱心に組み上げていました。しかし社会に出て、多くのかたに出会って、学んで、影響を受けたりもするうちに感じ始めたんです。「単に計画性を持って自分のためにこつこつ努力するだけでは駄目だ」と。
そもそも私は「死ぬ瞬間は幸せでありたい」と考えて生きている人間です。じゃあ、自分は何が幸せなのだろうと考え、徐々にわかっていったのが「目の前の人がハッピーになっていること。それを感じた時、自分は幸せな気持ちになる」ということ。そうして、気づいたら質問で挙げていただいた後者のほうをより強く信じるようになりました。多くの人と出会うこと。その人たちを少しでもハッピーにすること。そしてその人たちの近くで苦楽をともにすることでそれを強く実感できること。それが私にとっての「成功」なんです。
今はHONMAのクラブを愛してくださる人たちをもっと喜ばせたいと思っていますし、本間ゴルフで働く皆が、もっと幸せな気持ちで仕事ができるようにしたいと望んでいます。そのための努力なら厭わないし、それがまた新たな出会いにもつながっていくのだと信じています。大切なのは、自分にとって何が「キャリアの成功」なのか、何が「幸せ」なのか、を明確にすること。すべてはそこからの話だと思います。[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?
自己分析をして、何が好きか、何ができるかを追求した結果、「起業という選択肢は今のところ自分にはない」と判断しているからです。加えて、「そもそも起業とは何か」も考えました。起業には、現在あるいは少しだけ将来の世の中で価値がありその成功を確信できるだけのネタが必要なのです。信じて疑わないネタもないのに、ただ起業を志しても意味がありません。確信できるネタと出会うのは、そんなに簡単なことではないと思ってもいます。以上の理由から、私はこれまで起業という手段を選択していないのです。[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?
「人事を尽くして天命を待つ」です。
意外かもしれませんが、私は後悔してしまいがちな性質の持ち主です。後悔というものが、どれだけイヤな感覚なのかをよく知っています(笑)。だからこそ、「これ以上は本当に不可能」と言い切れるところまで考え抜き、やり抜くようになりました。「これ以上はない」と自分で思えるところまでやった時には、仮に失敗をしても後悔の念はわいてこない。そんな理屈でこの言葉をモットーにするようになりました。[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?
先に申し上げた通り、私にとっての「幸せ」は、人のハッピーな顔を見ることです。経営の仕事は持てるアセットを動員して、マネージして、何か世の中に価値があるものを生み出すことですから、この仕事を通じて会社の内外にハッピーな人を増やしていく。それが私の成し遂げたいことです。
今はHONMAのクラブを通じて、日本の良さを世界に発信していく、皆さんの人生をゴルフという素晴らしいスポーツを通じて豊かにしていくという大仕事に挑んでいます。開発して提供しているのはゴルフ用品というモノですけれども、そこから伝わる「日本の良さ」が必ずあると信じています。たとえば、先のオリンピック招致のプレゼンテーションでも強調されていた「お・も・て・な・し」の心です。相手を思いやる気持ち、丁寧に愛情込めて真面目に何かを作り出す姿勢、というような「良さ」を世界の人々が感じてくれて、ハッピーになってくれたら、私は幸せです。[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?
「去る」ことを前提に話をしたくはない、というのが本音です。今、本間ゴルフのすべての人が一所懸命に取り組んでいることが実を結び、そうして何年か先、皆が「本当によかった」と思ってくれたら、それだけで嬉しいのです。[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
日本とアメリカの大きな違いは、「社長業」というプロフェッションが認知され、現実的に人の流れができているかどうか。この違いが「早くなくなるといいなあ」、と思っています。日本でも以前よりはそのような人材の厚みが出てきていると感じていますが「社長業」というものが1つの「仕事」として認識され、プロ経営者がどんどん増えていったら素晴らしいと思うわけです。
私の場合は、ミスミで非常に貴重な機会をもらいました。経験の浅い若造に経営の仕事を任せてくれた。これがなければ今の私はないと思います。ですから、今の若い人たちにも同じようなチャンスが増えていくといいですね。もちろん日本も昔のように「銀行に行かなければ経営というものは学ぶことが出来ない」というほどの状況ではありません。チャンスは増えています。それでも好機は潤沢にあるわけではない。自分から探し出し、手に入れなければいけない。
何が好機になるのかといえば、私がかつてミスミで経験したように、小さくてもいいから1つの組織のトップを務めることです。そう思って現状を眺めてみれば、例えば大企業の中にだって「子会社の社長になる」「海外現地法人のトップになる」というチャンスはあるはず。人によっては「いや、それは上に行くための本流から外れるキャリアパスなんです」と感じるかもしれません。しかし、バランスシートを手にして、その全責任を負う、という体験だけが教えてくれることというのがあります。ですから、どうかそういうチャンスに積極的に手を挙げていくようなアプローチをしてみてほしい。そう望んでいます。
