[11]業界のプロとしての知見はいかがでしょう? やはり必要だとお考えですか?
今まで多くの事業に関わってきましたが、「以前いた業界と同じ」とか「前と同じ役割」などというものとは無縁。常に未体験ゾーンとの格闘でした。ただ、そこには必ずエキスパートがたくさんおり、その方々から「状況判断」の材料を手に入れていくことは可能です。また潜在顧客も含めてお客様に聞くことも大枠の知見を得るのに役立ちます。
その業界のプロとしての知見を、何から何まで自分一人で全て獲得しなくても、チームとして機能していけるならば問題はない。私はそう捉えています。良き理解者、協力者を得るのもその人の力量の1つ。それによって、先に話した「ツボ」を掌握し、その「ツボ」を適切な状況判断のもとでチューニングしていけたなら、経営者としてやっていけると考えています。
[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください
やはり最大の試練は、リコー時代の最初の年に経験した飛び込み営業です。苦しかったのは事実ですが、社会人としての最初の1年でこの試練を乗り越えたことによって、多くのものを得ることができました。
もう1つ、すぐに思い出す試練はローランド・ベルガー時代ですね。やはりコンサルティング領域のプロフェッショナルが備えている「物事を構造的に理解し、解決策を導き出す」能力は、突出しています。転職してしばらくの間は、キャッチアップするのに四苦八苦していました。しかし、これも多くの人の支えもあって、自分の糧にすることができたと思います。[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?
これは私のスタイルなんですが、自分にとって有用だと思える知識やスキルに出会った時は、そのチャンスを逃さず、好奇心を持って身につけていこうとする。これとは別に私がしていたのは、自分が仕事で学んだ事柄に加え、本やインタビューの重要なポイント、興味を持ったサービスや会社の状況などを自分用に体系化していく作業です。
この手法を繰り返して、何か壁に突き当たると、自分で体系化してまとめたドキュメントを読み返したりしていたんです。これがすべての人に有効なやり方かどうかはわかりませんが、もしも興味を感じたかたがいるならば試してみてください。[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
これまでにも繰り返し話してきたように、私にとってはあらゆる人が「私に何かを教えてくれる人」、つまり師匠です。[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか? それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?
どちらか一方ではなく、両方だと思います。私は以前少しカヤックを習ったことがあります。一本のオールで小舟を漕いでいくスポーツですが、そのトレーナーのかたが教えてくれた秘訣が、「なるべく遠くを見ること。自分が向かう遠い先を見ながら漕げば、結果として一番効率よく舟が前に進む」でした。私はまったく同じことがキャリア形成にも言えると思うんです。
目の前にあることに必死で取り組むことも、もちろん大切ですが、いつも自分が何を目指すのかを意識して漕いでいく。そうすれば知らず知らずに努力を重ねるようになりますし、遠い未来を見つめている姿勢が思わぬ出会いの幸運も導いてくれるのではないか。そう考えます。私自身、ローランド・ベルガーに入社するころ、「成熟した企業の経営再生がしたい」と望んでいたことから道が開けていきました。[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?
企業経営には2度、重要な局面があると思います。起業間もない頃と、一度ピークを迎えてからの再成長局面です。私は自分のことを前者の局面に向いているとは思えなかったんです。そして、後者の局面で力を発揮したいと望んで、経験する場も設定してきました。それが今まで起業しようと考えなかった理由です。[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?
「人の行く裏に道あり 花の山」という株式投資の格言があります。私の場合、これを自分の進むべき道は自分で選ぶ、という意味に変えて解釈しています。プライベートでもキャリア上でも大事な節目で周囲から「えっ」「なんで」と驚かれる決断をすることが多くありますが、「自分が成長し、自分が活きる場」に身を置くことが大事だと思っています。
また「人事を尽くして天命を待つ」という言葉も好きです。「やるとなったらとことんやる。」。常に後悔しないようにと心掛けています。[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?
成長を請け負っている中で、「時代を1歩2歩、前に進めること」のできる事業・サービスを生み出すことです。それを、各事業のメンバーと実現させて行きたいと思っています。
[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?
特に何も望んではいません。お客様に愛されるサービスと人が創られ、自ら進化していける文化が根付いていることが重要だと思います。[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
人生は一度しかありませんから、ためらうことなく、自分がしたいと感じていることを思う存分やりきれば良いと思います。経験したことは、それが何であれ、成功でも失敗でも、必ず自分の役に立っていきます。
読んで下さった方の中から、「時代を1歩2歩、前に進める」方が1人でも多く出てくることを期待しております。