相木 孝仁 氏

［7］いつ「経営者になろう」と思われましたか？

「なろう」と思ったきっかけが2度あります。1度目はNTTを辞める直前。後ろ向きだった先輩たちを、いつか前向きに変えることのできる経営者になりたい、と思いました。2度目はベインにいた時。経営を支援する立場から、自分が当事者となって経営を動かしたい、と願うようになりました。

［8］経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう？

私がすべてを満たしているとは思っていませんが、ともかく自分なりに大切だと思っている要素をいくつか挙げてみます。

1つは、アウト・オブ・ザ・ボックスで考えられること。枠にとらわれずに思考できるかどうかという点ですね。ボトムアップで上がってくるアイデアを一緒になって考えるだけでは、経営者としての存在価値がないと思うんです。皆とは違う発想なりを持って、クリエイティブな方向を示し、皆と議論していけるようでなければいけないと思います。

2つめは、プロセスや工数を無視してでも「これをやろう」と言い切れること。
3つめは、必ず最後は自分で責任をとるということ。会社を窮地に陥れるようなことがあってはならないのが経営者です。そのためにもリスクを見抜く力、リスク感度というものが求められます。
4つめは、業界慣習などの既存の価値観に流されないこと。

5つめは、朝令暮改を恐れず、主張を突き通せること。朝考えていたことと、夕方考えたことが違っていたっていいんです。人間の思考は時とともに変化するもの。今この時に正しいと思ったことを突き通すことが大切なんです。ただし前に言っていたことと違う内容を突き通して失敗すれば、周囲からの信頼を失います（笑）。朝令暮改を恐れてはいけませんが、やるからには確実に成功させないといけない。それもまた経営者です。

6つめは、冷酷なジャッジメントを時にはしなければいけない、ということ。それができないようでは勤まりません。ただし、どんなジャッジを下すにしても、そこで味わうことになる痛みについては意識しておかなければいけない。皆の痛みを承知した上で、どれだけ腹を割って話ができるか。そして、痛いのがわかっていても必要とあらば刺すことができるのかどうか。これも経営者に必要な資質だと考えています。

7つめは、結果を出すこと。出し続けること。これは経営者にとって必須です。どんなに「彼はナイスな人柄だね」と言われようが、成果を伴わない経営者は誰にも評価されません。その覚悟が不可欠です。

8つめは、いろいろなシナリオを同時に進行していける力ですね。まさに今の私は6つの事業を同時進行する責任を背負っていますし、三木谷などはその何倍ものことをずっと同時進行してきた。すごい人だな、と思います。仮に1つの事業だけを見つめて行くにしても、経営者には同時に考え、同時に行動すべきテーマがいくつもある。それをしっかり成し遂げていく力量は必要になりますね。

［9］他に経営者に必要な資質や能力などありますか？

私が考える「必要な資質・能力」は前の質問でお答えした通りです。

［10］これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか？

私が今、自分の経験も踏まえて若い人たちによく話している事柄は2つあります。1つは、「背伸びして機会を取りにいけ」。ここまで読んでいただければおわかりの通り、私はいつでも「一つ上のステージ」になんとか入り込もうとしてきました。そのおかげで、最初は必ず苦労をしましたが、上を見て走り抜くことで成長を手に入れることが出来たと考えています。ですから若い皆さんにも同様の経験をして、学びや気づきを高めてほしいのです。

もう1つは、「足もとの仕事で一番になれ」です。今自分が担当している仕事が面白かろうが面白くなかろうが関係ありません。とにかく結果を出す。一番になるまであきらめない。これを辛抱強く繰り返せば、きっと大きな成長につながると考えています。

［11］業界のプロとしての知見はいかがでしょう？　やはり必要だとお考えですか？

業界の経験はないよりもあった方がいい。当然ですよね。特にマネージメントを任される者は、その領域を知っている人間のほうが立ち上がりが早くなります。ただし、立ち上がりが早いだけで成功できるとは限らないのもビジネスの世界。絶対に欠くことの出来ない要素だとは思いません。実際、今の私が手がけている6つの事業の中で、業界知識をもともと備えていたものなどほとんどありません。それでも勝てると信じて走っています。