[12]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください。
これまで私は、試練と挫折の連続でした。今もなお試練の中にいます。
最初の大きな試練は明治大学の体育会テニス部に入った時。2つめは25歳でコーネルのビジネススクールに入った時。3つめはベインに格下のポジションから入った時。いずれも、到底かなわないような人たちのいる世界に自ら進んで入り込み、もがき苦しんだのです。
4つめはフュージョンを任された時。当時私は35歳でした。見回せばNTTなど通信業界で私よりもずっと長く経験と実績を積んできた人ばかり。そうした人たちと組んで、信頼をしていただいて、一緒に窮地脱出のターンアラウンドをしなければいけませんでした。
そして5つめ。これは現在進行形の試練です。楽天には私などより多くの重要な経験を積み、多くの成果を上げてきた人が大勢います。この中で今も信頼を勝ち取るべく格闘しているところです。
[13]経営者を志す者には、どのような努力や学びが必要でしょうか?
10番目の質問への返答がここでも答えになると思います。それに付け加えることがあるとすれば、「失敗から学びなさい」ですね。上の領域に滑り込んで、そこで一番になろうともがいていけば、失敗はたくさんするでしょう。辛いと思います。けれども、この失敗こそが成長のチャンスです。「いや、これは俺の責任じゃない」と他責な姿勢を繰り返していたら、せっかくのチャンスをふいにしてしまう。失敗の原因はもちろん、仕事上のすべてのことに自責の姿勢で取り組むことが、後の自分を大きくしていくと考えています。[14]今までに影響を受けた先輩や師匠といえるかたはいらっしゃいますか?
「この人」と1人のかたに限定することはできません。むしろ私はこれまでずっと、まわりにいるたくさんの人たちから、ちょっとずつ見習って、盗んで、消化して自分のパーツに取り込ませてもらうやり方を続けてきました。つまり、いつでも周囲の人をそういう目線で観察しています。今だったら、この観察の目線をもっぱら三木谷に向けています。[15]キャリアの成功とは「計画的に努力して成し遂げるもの」でしょうか?
それとも、「偶然や人との出会いなど、運が影響するもの」だとお思いですか?
どちらも大切なので、どちらか一方だけでいいとは言えませんが、どちらを重く見ているかというと後者ですね。先を見越して計画を立て、その実行努力を重ねていく姿勢は不可欠です。しかし、では「5年後、10年後にこうなりたい、こうありたい」と考え、着実に努力をしたら必ずそうなるかというと、そうとも限りません。
「計画は大事だけれども、想定通りに進むとは限らない。むしろその過程での出会いや縁を大切にしよう」という気持ちをもって前に進むのがよいと思います。ですから、キャリアパス、キャリアプランについては「あまり綿密に考えすぎないほうが良いですよ」というのが私の答えです。[16]なぜ起業ではなかったのでしょうか?
起業でもよかった。そう思います。私は起業することと、すでに存在する会社で経営の仕事に就くことが、対立軸にあるとは考えていないのです。実際、今は楽天にいますが、起業をしたような危機感、焦燥感、オーナーシップをもって経営をしています。[17]特別な信条やモットー、哲学などをお持ちですか?
経営や事業がうまくいっている時は「仲間のおかげ」と捉え、うまくいっていない時は「自分が至らぬせい」と肝に銘じています。
もう1つ挙げるとしたら、どんなに些細なことでも365日継続する、ということでしょうか。1つの事柄をずっと続けるのは、なかなかできることではありません。だから実際にやっている人も少ない。でも、「そうなのだとしたら、365日続けることができれば、たいていの人には勝てるということじゃないか」と考えているんです。[18]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか?
楽天の人間としては、この会社を世界一のインターネット・サービス企業にすること。フュージョンの人間としては、キラリと光る新しいコミュニケーション・サービスを提供し続け、存在価値をもっともっと高めていくことです。[19]現在のポジションを去る時、どういう経営者として記憶されたいですか?
「相木がいなくなったら、あの会社は悪くなったね」とは絶対に言わせたくない。この会社をもっと強くして、「相木はいなくなったけれど、依然としてあの会社はいいね」と言ってもらいたいと思っています。[20]20代、30代のビジネスパーソンにメッセージをお願いします。
ここまで話したことのまとめのようになりますが、4つのメッセージを送りたいと思います。
1つ、目の前の仕事でNo.1になれ。
2つ、より厳しい環境に身を置け。
3つ、たくさん負けて、そこから学べ。
4つ、負けている状態で転職など、身を転じるようなことはするな。