今回も、前回の「エグゼキューションフェーズにおける具体的な仕事内容2(DDから銀行交渉)」に引き続き、具体的な仕事内容について紹介したいと思います。前回は、図1のDD、財務モデルの精密化、銀行交渉について書きました。今回は次のフェーズの動きについて紹介したいと思います。
図1 エグゼキューションフェーズにおける若手の仕事
DDが終わると、売り手と最終契約(DA、株式譲渡の場合は、株式譲渡契約)の交渉をします。DAには、取引の対象(株式、事業など)、取引価格、クロージング(日程、支払方法)、取引の前提条件、表面保証、誓約事項、秘密保持、契約の解除、補償等の項目が記載されています。DDで発見した事項のうち、ファンドとして売り手に治癒してもらいたい事項をクロージングの前提条件に加えていきます。
余談ですが、DAのドラフト作成は、起用する弁護士の力量次第でファンドマネージャーの作業負担が大きく異なってきます。優秀な弁護士は、他の専門家の発見事項を踏まえ、案件全体を意識してDAをドラフトしてくれますが、他の専門家の発見事項を正確に理解していない場合などは、ファンドマネージャーが都度修正せざるを得ない状況となり、かなり労力と手間がかかってしまいます。そのため、一度起用した専門家のパフォーマンスが高いと判断できた場合、その専門家を起用し続ける動機になっていると思います。
交渉の場では、売り手と利害が対立する場面となりますので、売り手と合意形成をしていかなければなりません。合意形成には売り手と時間かけて対話する以外に方法はありませんので、じっくり時間かけて売り手と交渉していきます。目標の契約締結日があり、その日が近づいている場合、一日に何度も面談して交渉することもあります。交渉時は、経験豊富なシニアメンバーが活躍することが多いかと思いますが、若手であっても売り手から人として信頼されている存在であれば、売り手とのコミュニケーション窓口として交渉の場でも活躍できます。
財務モデルの精緻化/投資シナリオの明確化が完了し、銀行からコミットメントレターを受領して、売り手とDAの内容について合意できたら、投資委員会を開催し、DA締結に関する承認取得を行います。本コラムでは、DA締結に関する投資委員会IC#2とします。IC#2では、IC#1時に情報不足ゆえに質問されて回答できなかった宿題、DDで検証したい事項に関して検証結果の説明、DDでの発見事項、銀行から受領したコミットメントレターの内容、それらを踏まえた投資シナリオ、DAの内容を説明します。IC#1での情報量が少なく、DDでの検証事項が多い場合、IC#1の投資シナリオから修正、変更せざるを得なくなります。その結果、IC#2において、投資委員を含む投資検討チーム以外のメンバーから質問や意見が多く出てしまい、IC#2を複数回開催する場合もあります。
IC#2で承認を取得したら、DAを速やかに締結し、クロージングに向けて準備します。クロージングまでに、銀行と折衝し、融資関連契約の締結や締結したDAのクロージング条件の充足に努めます。ここでは、事務作業が多いため、ミスなくやりきることが重要です。
以上がエグゼキューションフェーズです。このフェーズでは、売り手、投資委員、銀行など第三者に自分の考えを理解、共感してもらうことが鍵です。絶対に本案件を成就させたいという想いをもって論理的に事実を整理して、相手の感情に訴えかけることで第三者に納得してもらえるように思います。よって、コラム「バイアウトファンドに向いている人2」で書いたように、バイアウトファンドのマネージャーは、コミュニケーション力がある人が向いていると強く実感しています。