バイアウトファンドに向いている人 2
前コラム(バイアウトファンドに向いている人 1)に引き続き、バイアウトファンドに向いている人を書いていきます。
向いている特徴の第二弾としては、コミュニケーション力のある人です。読んでくださっている方々から「コミュニケーション力はどの仕事でも必要ですよね?」と言われてしまいそうです。
確かにバイアウトファンドに限った話ではないかもしれませんが、ファンドマネージャーは様々な局面で思惑が相違する人たちと合意形成をしていかなければなりません。そのため、バイアウトファンドにおいてもとても重要です。
バイアウトファンドでのコミュケーション力を私なりに分解すると、1.聞く力、2.周囲を説得して巻き込む力、になるかと思います。それぞれについて具体的に書いていこうと思います。
1.聞く力
最初に断っておきますが、聞く力と言っても、相手が話していることを単純に聞くということではなく、相手が思っていることを聞き出す力のことです。
コラム「バイアウトファンドでの若手の仕事」で書いたフェーズごとに例示すると、ソーシング・フェーズではオーナーに選んでもらわなければなりませんし、投資後の経営関与フェーズでは、投資先の役職員に受け入れてもらわなければなりません。最初にやることは、まさしく相手の話を聞くことです。ここでは、ソーシング・フェーズにおいて具体的にどのように聞く力が求められるのかを書いてみることにします。ソーシング・フェーズでは、オーナーが買い手に期待していることを理解しなければ、投資実行には至りません。単純に、オーナーに「買い手に期待していることは何ですか?」と聞けば良いと思う方々もいるかと思いますが、はじめて会社を売却しようとする人が、買い手に期待していることを整理できているとは限りませんし、いきなり聞いても教えてくれないかもしれません。
そのため、ファンドマネージャーはいろいろな切り口でオーナーに問いかけを行い、反応をみながら、買い手に期待していることをクリアにして、オーナーの期待に応える提案を行うことが重要となります。一つの問いかけの手法として、バイアウトファンドの若手が行う各種分析や財務モデル(コラム「バイアウトファンドでの若手の仕事」を参照)をオーナーと共有することが挙げられます。この共有のプロセスを経ることでオーナーの会社に対する考えや想いを聞き出すことができます。
経験則上、オーナーは全てを合理的に考え、行動するわけではありません。特に創業オーナーは事業そのものや働く役職員に対して強い想いをお持ちの場合が多いです。このような状況において、ファンドがオーナーの想いに共感し、適切な対応を施すことができれば、オーナーは安心感を持ってファンドを選んで頂けると思います。(このような、きめ細やかな気づきができる点が事業会社ではなく、ファンドを選んでもらえる一番の理由かと思います)。
2.周囲を説得して巻き込む力
周囲を説得して巻き込む力が必要となる場面を例示すると、エグゼキューション・フェーズにおける投資委員会での投資実行の承認取得や、投資後の経営関与フェーズにおける投資シナリオを投資先の役職員と共有して合意形成をしていくところなどが挙げられます。ここでは、投資後の経営関与フェーズのエピソードを交えて、周囲を説得して巻き込む力の必要性について書きたいと思います。
投資後の経営関与フェーズに入り、すぐにやることとしては、投資先の経営陣と投資シナリオをもとに具体的なアクションプランの実行方法の検討を行うことです。投資前は特定の役員にしか案件情報を共有しておらず、残りの役員には案件情報を遮断し、クロージング直前に伝えることにする場合があります。
この場合、投資直後、案件の存在を知らされていなかった役員は、そのこと自体を面白く思わず、ファンドに対してネガティブな印象を持ちがちです。ファンドマネージャーとしては、当該役員をいかに協力的になってもらうのかが腕の見せどころとなります。ファンドマネージャーによってアプローチは様々で、会議室にこもって納得するまで意見を交換したりする人もいれば、一緒に飲みに行き、語り合ったりする人もいます。
私なりの解釈では、どのようなアプローチでもファンドマネージャーが行っていることは、相手の言いたいことに耳を傾けて相手の気持ちを理解した上で、自分の言葉で自分たちが目指していることを正確に相手に伝え、納得感を醸成させて同じ方向を向いてもらうことです。
当該役員の言いたいことを聞くことで、当該役員が面白くないと思っていた気持ちが緩和され、徐々にファンドのやりたいことを受け入れようというふうに変わっていきます。そのタイミングで、自分なりの表現で投資シナリオを語れるようになると、当該役員は「自分の言い分も理解してもらえたし、相手の言い分も理解した。今後も言い分があるときは聞いてもらえそうだし、投資シナリオ実現に協力しよう」と心変わりしていくものと思われます。
投資前に描く投資シナリオは投資先の役職員の賛同や協力があった時こそ実現することです。若手は、投資チームの中で一番投資先の役職員と接することになることから、若手の振る舞いが投資シナリオの実現につながると言っても過言ではありません。このようなところがファンドマネージャーの若手にとって、やりがいになっていると日々感じています。