バイアウトファンドでの若手の仕事
今回は、よくバイアウトファンドで働きたい友人から質問されるバイアウトファンドでの若手の仕事について紹介したいと思います。
バイアウトファンドでの仕事を大きく区分すると、1.ソーシング、2.エグゼキューション、3.投資後の経営関与、4.エグジット(売却)になります。それぞれのフェーズにおける若手の仕事について書いていこうかと思います。投資には、上場会社の非公開化や大手企業からのカーブアウトなど色々なパターンがありますが、今回は事業承継の場合の若手の仕事として書いていこうかと思います(本コラムは全般的に事業承継を想定しております)(※1)1.ソーシング ~案件の発掘~
ソーシングとは、投資先を発掘することです。投資候補先は、自身の足で探してくることもありますが、証券会社や銀行、M&A仲介会社などフィナンシャルアドバイザー(FA)から紹介を受けるケースが中心です。
投資候補先の紹介を受けて自分たちが興味を示す場合、投資候補先のオーナーに面談を申し込むことになりますので、提案書を作成することになります。初回面談はファンド紹介など簡単なものもありますが、面談を重ねていくうちに、価格等の取引条件やスキーム、投資後の関与等投資シナリオを構築することになり、その投資シナリオを構築するための基礎となる各種分析とバリュエーションを担当するのが若手となります。
具体的なものとしては、業界環境分析、競合分析、投資候補先の優位性の特定、財務分析や初期的な財務モデルの作成です(投資候補先の情報開示の程度や面談回数によって分析やモデリングの深度や範囲は異なります)。
このフェーズでは、オーナーに自分たちのファンドを選んでもらうため、自分たちが投資候補先にとって良いパートナーになれることを示します。そのためにオーナーに各種分析を共有し、自分たちが投資候補先を正しく理解していることをアピールします。次のフェーズに進む確率として、私の肌感覚としては紹介受けた案件のうち、3-5%程しか次のフェーズに進むことができないため、FAから案件が紹介されるたびに若手は分析等を繰り返すことになります。
2.エグゼキューション ~案件の組成~
ソーシング・フェーズをクリアしたら、エグゼキューション・フェーズに進みます。
エグゼキューションとは、オーナーが売却する意思があり、ファンドが提示する価格等の取引条件に概ね合意している場合、法務、会計/税務、ビジネスなどの各専門家を起用したデューディリジェンス(DD)を行い、株式譲渡契約の締結を経て、クロージングまでの過程を指します。
このフェーズではファンドがしなければならないことが多いため、若手が重宝されます。ファンドがしなければならないことを例示すると、DDのとりまとめ、財務モデルの精緻化、銀行借入による資金調達、投資委員会の準備、売り手との契約書の交渉などがあります。
この中で若手が担当するのは、ほぼ全てになります。各事項が連動しておりますので、若手が全ての情報を把握しなければなりません。その結果、若手はどうしても忙しくなりがちです。特に案件スケジュールがタイトな場合、深夜残業や土日出勤になることもあります。
一番時間がかかるのは、やはり財務モデルの精緻化だと思われます。初期的な財務モデルとは異なり、DDでの発見事項を織り込むため、モデル自体が複雑になる傾向にあります。DDをとりまとめしながら財務モデルの精緻化を一人で作成できるようになると、オーナーとの折衝でも十分存在感を示す若手になると思います。
このフェーズは、個人的にはとてもやりがいがあるフェーズだと思います。外部専門家と討議を重ねながら、投資シナリオを構築し、オーナーを口説き落として、投資に仕立てていくのは非常にエキサイティングです。
3.マネジメント ~投資後の経営関与~
このフェーズについては、各ファンドで方針が異なります。若手を完全常駐させるファンドもあれば、モニタリングのみ行うファンドもあります。経営関与度合いも若手が役員として経営に参画する場合もあれば、投資先の経営企画の一社員のように出向する形もあります。傾向としては、若手を常駐もしくは半常駐させるファンドが多いのではないでしょうか。
投資時に決めた投資シナリオに沿って活動することになると思いますが、これまでのフェーズと違い、投資先の役職員の方々と協働することになるため、投資先の役職員の方々に受け入れてもらうところからスタートしなければなりません。投資先の役職員にうまく受け入れてもらえた若手の事例としては、野球観戦好きなど共通の趣味を持っているケースが多いように思います。
とはいえ、投資先の役職員全員と共通の趣味を持つことは不可能なので、若手は投資先の役職員の方々と同じ時間を過ごし、苦楽を共にすることが一番大事だと思います。
4.エグジット ~売却~
投資シナリオの終わりに近づくと、そろそろエグジットかなと話が持ち上がります。
経営陣とも協議しながらエグジットプロセスを進めることになりますが、若手は、ファンド側に就くFAの選定、買い手候補の絞り込み、DD対応、契約書の交渉などを行います。時折、ファンド、経営陣間で思惑が異なる場合もあることから、ファンドと経営陣間で意識を摺り合わせながらプロセスを進めます。
このフェーズでは、若手が投資先の魅力を深く理解しているかが鍵です。トレードセールの場合、買い手候補に投資先の魅力と買い手候補とのシナジーを語ることができれば、買い手候補が投資先を高評価することにつながり、ファンドマネージャーとしての良いトラックレコードをつくることになるでしょう。
(※1)私の主観で書いておりますので、各バイアウトファンドの方針によって異なる可能性がある点につきご留意下さい おそらくファンドに入社した直後は、1.や2.を担当するケースがほとんどかと思われます(既存投資先の担当となるケースもありますが、稀です)。