バイアウトファンドに向いている人 1
今回から、バイアウトファンドに向いている人について書こうと思います。バイアウトファンドには色々な組織スタイルがあります。例えば、ヒエラルキーがしっかりしており、職位ごとに役割が変わる組織(大規模なファンドはこのような傾向にあります)もあれば、比較的フラットな組織もあります(小規模なファンドによくあります)。
本コラムを読んで下さっている方がどちらのファンドを志向しているのか分かりかねるので、どちらの組織スタイルのファンドでも共通して言えることを抽出して書いてみようと思います。
向いている人の特徴について、最初に思い浮かんだのは勇気を持った実行力がある人です。勇気を持った実行力と言われてもピンとこないと思われるので、一つ具体的なエピソードを出して説明したいと思います。
バイアウトファンドに投資担当として入社すると、ファンドマネージャーとして、FAから案件の紹介を受けたり、案件を自ら発掘したりして、案件開拓に行います(コラム「バイアウトファンドでの若手の仕事」を参照)。初期的な検討を行った中で、わずか3-5%の案件のみがエグゼキューション・フェーズに進みます。
この時点でのファンドマネージャーは、「対象会社には魅力がたくさんある。投資後も関与することで、アップサイドがありそうだ。なんとか投資実行まで持っていくぞ」という気持ちになります。
しかしながら、DDを進めていくうちに、私の経験では100%の確率で投資実行を妨げる事象に出くわします。なので、このときファンドマネージャーはこのように思います。
「DDでこんなにリスク発見してしまった。発見したリスクの対応策はなんとか立案できるけど、DDで発見できてないだけでもっとリスクは内在しているはずだ。このまま投資実行すると、投資は失敗しちゃうかもな」
ここでファンドマネージャーに向いている人は、「絶対に投資実行するんだ」という強い気持ちで以下の思考をします。
- 1.現時点(DD実施時)で特定可能なリスクは全て洗い上げる
- 2.投資前に手当できるリスクと手当できないリスクに分ける
- 3.投資前に手当できないリスクは、投資後自身の行動でリスクを極小化するもしくはしてみせる
ここで重要なのは、3.の思考です。なぜならば、仮にDD実施時点で全てのリスクを洗い上げたとしても、投資後起こり得る全てのリスクを洗い上げるのは不可能なので、3.のような思考を持つ人がファンドマネージャーに求められるわけです。 (自身の行動でリスクを極小化するとは、個人の力でなんとかするという意味ではなく、経営陣や同僚、外部専門家と協働しながら自ら主体的にリスクを極小化するという意味です)
ファンドマネージャーに向いている人の思考を文章にすると簡単なのですが、実際の投資見極め時にこのような思考をするのが結構難しいのです。賢ければ賢い人ほど、「特定できないリスクがありそう」と思うと、投資実行に消極的になりますし、往々にして投資できない理由を見つけようとしてしまいがちです(誰もがリターンの出ない投資を行って、自身のキャリアに傷をつけたくないと思いますよね?)。
バイアウト投資のリターンは、投資したときと売却したときの株式価値の変化によって決定します(コラム「バイアウトファンドとは」を参照)。そのため、ファンドマネージャーに向いている人は、自ら積極的に経営関与し、投資先の株式価値向上に貢献しようとする人だと思います。
それをより具体的につき突き詰めていくと、「投資時にリスクがあるけれど、投資後自ら経営関与を行うことで、リスクをヘッジ・極小化していき、アップサイドも追求できるから、投資実行したい」と考え、投資を決断できる人がファンドマネージャーに向いている人だと思います。