はじめに
コンサルティング業務を長く続けているとコンサルタントが作成した資料か否かを精度高く見極めることができるようになります。そして色使いやフォント、パワーポイントのリードの書き方などから、どのファームが作成した資料かもほぼ分かるようになります。
例えばパワーポイントであれば、基本的にはスライドに何らかの軸が設定され、その軸に基づき整理/分析された情報が記載されています。最近は、基本に沿っていない"それっぽい"だけのスライドを見ることも多くなり、コンサルティング業界の地盤沈下をスライドから感じることも多いのは悩みではあります。
そして、この軸の設定はコンサルタントにとって価値を出す上で非常に重要になります。この軸の設定、つまりモノゴトを見る観点、分析の観点とも言い換えることもできますが、それが凡庸だと相手の期待を超えるアウトプットの創出は非常に難しくなります。この重要な軸を毎回ゼロベースで考え抜いて導出する凄い人たちがコンサルタントとのイメージを持つ方もいます。しかし、正直なところ業界を変えていった戦略を導出してきた基となる軸を考える上でのコツがあります。そのコツとはベースとなるフレームワークを念頭に色々と思考を強制的に深める方法です。
コンサルタントにとってのフレームワーク
フレームワークとは、近年コンサルタント以外にも広く知られている
3C(「Customer(市場・顧客)」「Company(自社)」「Competitor(競合)」)や、
5forces(「売り手」「買い手」「競合」「新規参入者」「代替品」)
といった分析や整理のために広く使われている枠組み自体を指す言葉です。
一見、フレームワークを使用することによるメリットは、相手が理解する形で整理し易いことのみのようにも思えます。しかし、コンサルタントとしてはフレームワークは強制的に思考を深めたり広げたり、またインサイト導出に役立つツールとしてもまた非常に重宝するものです。
具体的には、仮説やアイデアを初期的に導出した後、「検討の観点やアイテムに抜け漏れがないか?」あるいは「内容の抽象度の粒度が揃っているか?」といったようなことをフレームワークを使用して強制的に思考させる使い方をしています。
たとえば、ある戦略オプションや検討の軸が導出された後に、
「これは需要の観点からの仮説だから、供給の観点に立つと別の見方ができないか?」
「確かに有力な市場ニーズは見えているが、競合の動きからもまだ気づいていないニーズがあるのではないか?」
といったように、よくあるフレームワークを起点に思考を広げるようなことをします。
ときには、このような検討の過程で、どうしても既存のフレームに当てはまらない概念や仮説が残ることもあります。
そんなときにも、「実はこういう新たなフレームワークや切り口で考えると見えてくるのではないか?」といった形で、思いもよらないエッジの効いた成果に繋がることもあります。
好きなフレームワーク
このような相手が理解する形で整理する観点でのフレームワークと言うより、強制的に思考を深めたり広げたりする目的で好きなフレームワークは2つあります。
1つ目は先ほども触れました5Forces(「売り手」「買い手」「競合」「新規参入者」「代替品」)のフレームワークです。
5Forcesのフレームワークは、簡単に書くとクライアントの取り巻く環境を俯瞰的に見た上で、魅力的なプロフィットプールの存在や現在アドレスするプールにおける収益性への圧力の変化を主に見る目的で使用されます。
しかし現実は、このフレームワークを使用して緻密に分析している人はあまり見かけません。しかし、緻密な分析をしなくても、この5つの観点から戦略オプションの点検を行うだけでも価値はあります。
2つ目は、市場ライフサイクル(「創世記」「成長期」「成熟期」「衰退期」、など。期を分類する表現は色々と存在しています)のフレームワークです。
縦軸に市場浸透率(市場規模/需要指数)、横軸に期間を設定して、今その企業がどこにポジショニングしているか、そのポジショニングにおける定石に従うと抜け漏れている観点がないかといったように活用しています。
特に「成熟期」にある市場が多い中、このままいくと「衰退期」に突入する市場に対して構造転換を促す戦略オプションを策定することで、市場を「創世記」「成長期」へ再定義して成長させる際に価値を発揮します。専門市場へ分化して市場を再定義する、周辺市場と融合(業界間の提携)により市場を再定義するといったように、色々と定石に従いつつ強制的に思考を深めたり広げたりをしています。
最後に
最近、そのフレームワークの意味合いも分からず使用している、フレームワークとで整理するといった仕事の仕方も頭に入ってない、といったコンサルタントの資料をちらほら見かけます。
そのようなコンサルタントがフレームワークの価値を落として、コンサルティング業界外の人が敬遠するようにならなければと思う次第です。
皆さんの事業においても、本稿で述べたような強制的に思考を深めたり広げたりする上では有用だと思うので、是非活用をしてみてはいかがでしょうか。