"有事"に直面する顧客に寄り添い、反転攻勢に導く実務家集団
経営環境の急速な変化にうまく対応できず危機に瀕している企業は少なくない。コロナ禍による経済の停滞、ウクライナ危機がもたらしたエネルギーや原材料費の高騰、デフレ下における円安傾向は「失われた30年」からいまだ脱しきれずにいる日本経済を容赦なく直撃しているのはご承知の通りだ。
「国際的な日本のプレゼンスが低下し急速に国富が失われるなかで、われわれへの期待が増しているのを感じます」。そう話すのはアリックスパートナーズ日本代表の植地卓郎氏だ。
「アリックスパートナーズは創業以来、長引く業績不振や倒産の危機など、抜き差しならない状況に陥ってしまった企業の再建支援に取り組んできました。経営、ビジネスを熟知したプロにより目に見える成果を可能な限り短期間で出す。これこそがわれわれの使命であり存在意義だと自負しています」
植地氏は、自社について「企業経営における最も困難な局面を打開する実務家集団」と定義する。
「もちろん業種としては『アドバイザリー』ですし、『コンサルティングファーム』で間違いないのですが、その実態は一般的なコンサルティングファームとは大きく異なります。経営者に対する助言や提言だけに留まらず、ときに暫定経営陣として顧客の懐奥まで入り込み、企業再生と企業変革を牽引するからです。それこそわれわれが自らを『企業経営における最も困難な局面を打開する実務家集団』と自認する所以です」
アリックスパートナーズが経営再建に携わった企業は、冒頭に触れたコダック、ワールドコム、Kマート、ゼネラルモーターズ以外にもある。欧州ではエアバスやABB、東京オフィスでは日本航空やライブドアなどだ。これらの案件で培われた豊富な知見は、企業再生以外の領域でも活かされている。
「現在のところ、経営不振が顕在化した企業へのサービス提供は全体の3割程度で、残りの7割は危機的状況の数歩手前で立ち止まっている企業へのサービス提供です。われわれの実績を聞きつけ『取りうる選択肢がまだあるうちに手を貸してほしい』という依頼が年々増えています」
同社に寄せられる要望は多岐にわたる。たとえば大幅なコスト削減による経営指標の改善や売上高のV字回復、サプライチェーンの再構築のほか、バイアウトファンドやPEファンドなどと協力し、不採算事業からの撤退や売却の支援、またM&Aにまつわるデューデリジェンスやバリューアップ施策を実行することもあるという。
「近年とくに顕著なのが、物言う株主ともいわれるエンゲージメントファンドから、投資先のさらなる成長に力を貸してほしいという要請です。また、ラージキャップ、たとえば売上高にして兆円規模の企業からの引き合いも増えているのもここ数年の傾向といえます」
アリックスパートナーズには、当事者である企業だけでなく株主など多様なステークホルダーからも要望が寄せられるのだ。
これこそが、様々なステークホルダーの利害関係を踏まえ、対象会社の業績改善を支援できる、シニアなプロフェッショナルが集うアリックスパートナーズに対する期待の表れといえるだろう。
経営の最前線に飛び込み、火中の栗を拾うことでしか得られない"凄味"
植地氏は東京大学を卒業後、銀行でキャリアをスタートし、ペンシルベニア大学ウォートンスクールMBA、同ローダーインスティテュート国際学MAの取得を経て、戦略系コンサルファームや米系プライベートエクイティで研鑽を積んだ経歴を持つ。業種や立場を変えながらも、企業経営やビジネスのあるべき姿を問い続けてきた植地氏だが、アリックスパートナーズとの出会いは鮮烈だったと振り返る。
「留学から戻り、戦略系コンサルファームを経て米系プライベートエクイティに移ってしばらく経ったころのことです。ある国際的な製造業のリストラクチャリング案件で、アリックスパートナーズ米国チームのマネージングディレクターと一緒に仕事をする機会に恵まれました。私は日本法人の売却担当としてこの案件に関わったのですが、彼の仕事ぶりには目を見張りました。彼は、投資委員会の席上『銀行から借入枠を増やすため大幅なSKUと在庫の削減を実行する』というプレゼンを行い、わずか数カ月後には、売上は大きいが儲からない顧客との取引をやめSKUを減らし、また数百億円相当の在庫を削減し、言葉通り融資枠の拡大を実現してみせたからです」
しかも関係者にプレゼンする際に用いた資料は数枚のExcelシートのみだったという。その鮮やかな手腕もさることながら、質実剛健なスタイルにも魅了されたと植地氏は話す。
「企業の存亡をかけた有事に『無駄なことに割く時間はない』という強い意志を感じ、非常に感銘を受けました」
それから間もなく植地氏に転機が訪れる。リーマンショックの影響で在籍していたプライベートエクイティの日本撤退が決まったからだ。植地氏は今後の身の処し方について熟考するなかで、真っ先に頭に浮かんだのがアリックスパートナーズだったという。
「このまま投資家としての道を模索するか、コンサルタントに戻るか、はたまた事業会社に転身するか、様々な選択肢を考えましたが、最終的に選んだのはアリックスパートナーズでした。企業再建という抜き差しならない状況に身を置くことでしか得られない経験を重視したからです」
植地氏は2009年にアリックスパートナーズに入社し、国内外の様々な再生案件に携わり、2016年にMDへの昇進を経て、かつて魅了されたアリックスパートナーズ独自のコンサルティングスタイルを我がものにしていく。なかでもグローバルファームならではの環境はその後のキャリアにも大きな影響を与えたと話す。
「アリックスパートナーズ入社前にも英語でプロジェクトを回すことは多少ありましたが、ほとんどが日本語を主体としたコミュニケーションでした。一方、アリックスパートナーズは、日本国内の案件でも、海外メンバーと一緒に働く機会が少なくありません。海外案件であればなおさら、現場で働く方々と英語で対話し、皆さんの心情に訴えかけるコミュニケーションをとることもあれば、経営者の傍らで、孤独や迷いに直面する彼らを叱咤激励するなど、心を揺さぶられる状況を経験したのもアリックスパートナーズが初めてでした。言葉や国の壁を超えて経営やビジネスと向き合える自信がついたのは、アリックスパートナーズのおかげです」
植地氏は、2019年3月から4年半ほど、かつて在籍した戦略コンサルティングファームに戻った後、2023年8月に再びアリックスパートナーズに復帰する。低迷する日本経済を前に自らリスクをとり顧客のビジネスに踏み込む勇気が、いまほど求められている時代はないと考えたからだ。だがそれだけが復帰の理由ではないと植地氏はいう。
「アリックスパートナーズは、MDであろうとも何らかの形でデリバリーに携わるのが通例です。もちろん職位が上がれば営業に割く時間は増えますが、デリバリーから手を離すことはありません。それは、現CEOのサイモン・フリークリー(Simon Freakley)も同じです。トップ自らその手で火中の栗を拾うからこそ、顧客にわれわれの本気や"凄味"が伝わるのではないでしょうか。私自身、前職での仕事を通じ、デリバリーにこだわり続けたい気持ちが強いことを再確認したこともあり、アリックスパートナーズに戻る決意を固めました」
難局を打開する実務家としての資質を示す「6つのコアバリュー」
植地氏はアリックスパートナーズに復帰と同時に東京オフィスの代表に就任した。古巣に戻り代表を務めるいま何を感じているのだろうか。
「国際的な日本のプレゼンスが急速に低下していることに対する危惧はすでにお話しましたが、弊社に支援を要請してくださる企業の数が増え続けるなかで、すべての支援要請にお応えできない心苦しさも感じます」
むろん人材採用に力を入れているが、他社では手に負えない難題を早期解決するには、選りすぐりの人材を集める必要がある。同社では、現在どんな人材を必要としているのだろうか。
「まず、スキルセットから申し上げると、製造業全般、通信・メディア・テクノロジー領域、小売や消費財領域に精通しているなどインダストリーの知識が豊富な方、さらに生産管理や購買といったオペレーションに詳しい方や、経営企画室などで組織再編や事業再編、M&Aに携わったことがある方を歓迎しています。さらにPEファンドや戦略コンサルティングファームなどで、デューデリジェンスやカーブアウト、バリューアップに携わられた方も即戦力として活躍いただけると思います」
マインドセットについては「個として自立しており、常識と誠意を持って行動できる人物かどうかを重視する」と植地氏は話す。
「切迫した状況を打開するのがわれわれの本分です。個として自立しており、常識と誠意を持ってことにあたれる人物かどうかは、よく見極めるようにしています。少数精鋭を自任する以上、能力の高さもさることながら、ひとりのビジネスパーソンとして信頼に足る人物か、職務を最後までやり遂げる気概と情熱は、われわれのビジネスにとってかけがえのない資質だからです。ひと言で表すならば、弊社が掲げる『6つのコアバリュー』に準じる方を求めています」
経験やスキルレベルは、採用ポジションによって大きく変わるが、未来を嘱望される若手にも十分採用のチャンスはあると植地氏は強調する。
「ある程度年齢を重ねた方にはコンサルタントとしての経験に加えて、事業会社での実務経験を問うケースもありますが、若手に限っては一定のインダストリーやオペレーションの知識とスキルセット、マインドセットがマッチすれば積極的に採用する方針です。弊社に関心をお持ちの方、また、厳しい局面でこそ経験が育まれると思われる方にはぜひ積極的に応募いただきたいと思います」
アリックスパートナーズの理念と信念を示すタグライン『When it really matters』には、企業が重大な意思決定を迫られるときにこそ、自らの存在価値が発揮されるという強い自覚と自負が込められている。
顧客が抱える複雑かつ難易度の高い課題を解決することでしか得られない成長を感じたければ、アリックスパートナーズは数少ない有望な選択になるだろう。
プロフィール
植地 卓郎 氏
アリックスパートナーズ(AlixPartners)
Partner & Managing Director
日本代表
25年以上のコンサルティング、プライベートエクイティ、銀行における実務経験を通じ、産業材・化学品・消費財・銀行・航空等の幅広い業界で、企業のキャッシュフロー・利益・企業価値の抜本的な改善を支援している。アリックスパートナーズ参画以前は、戦略系コンサルファームのマネージングディレクター&パートナーとして同社ターンアラウンド・トランスフォーメーション事業の北東アジア地域リーダーを務めた。それ以前は、ベスターキャピタル(米系PE)、三和銀行でも勤務。ペンシルベニア大学ウォートンスクールMBA、同ローダーインスティテュート国際学MA、東京大学経済学部卒。
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アリックスパートナーズ
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