2019年に新しい社名となった、歴史ある組織・人事コンサルティングファーム
キンセントリックは、2019年に登場した比較的新しいブランドネームの会社だが、実は、グローバル人事コンサルタント会社としては長い歴史を持つ組織だ。前身のエーオン・ヒューイットは、大手保険ブローカーであるエーオンの人事コンサルティング部門と元々独立会社だったヒューイット・アソシエイツの統合会社であり、ヒューイットに至っては1940年に米国で企業向けに人事関連のアドバイザリー業を始めたという長い歴史がある。2019年にグローバルで5大エグゼクティブサーチ会社の一角を成すスペンサースチュアートがエーオンから組織開発、リーダーシップ開発コンサルティング事業を買収し、新組織にキンセントリックという社名を付けた。
松崎肇氏と蓜島資幸氏は共に、2008年にエーオンが日本に人事コンサルティング会社を置いた時に入社。エーオン・ヒューイット時代を経てそのまま在籍し、現在、キンセントリックのキーメンバーとなっている。エーオン以前には、松崎氏は銀行員から別の外資系で人事コンサルティング経験を持ち、蓜島氏もまた別の外資系で同種のコンサルタントをしていた。松崎氏が日本で20人ほどを束ねるカントリーマネジャーを務め、蓜島氏は組織全体をプラクティス・サイドから支援する役割を務めている。
【松崎】社名「キンセントリック」は、「仲間や家族といった人の集団」を意味する「KIN」と、「~の中心に」を意味する「CENTRIC」の合成で、そのまま「人を中心とするビジネス」というメッセージになっています。クライアント企業の方々やチームメンバーと「仲間としてビジネスを進めていく」という想いも込められています。また、「人とチームの無限の可能性を引き出すことに貢献し続けます(Unlock the power of people and teams.)」というミッションをグローバル全体で掲げています。
キンセントリックには3つのサービス領域――「Culture & Engagement」、「Leadership Assessment & Development」、「HR & Talent Advisory」――があります。日本語で簡単に言い直すと、それぞれ「組織」、「リーダー」、「人事部門」の「変革を支援する」ということになります。現在の日本では、我々の仕事は前の2つ、「組織」と「リーダー」についてのソリューションを提供することが主になっています。
変化するクライアントのニーズをグローバル体制で解決
人事コンサルティングというと、かつては、新しい人事制度導入をするときに活躍しているイメージだった。だが、今は、そういった個々の制度導入について相談してくる企業は少ないという。
【松崎】まず、「Culture & Engagement」で言うと、キンセントリックは、百数十カ国をカバーするグローバル体制を生かして、客観的に使えるベンチマークを備えた調査・分析をするツールを多数持っています。例えば、エンゲージメントは、ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する関心の高まりを背景に、また優秀人材を惹きつけておく目的で、日本企業も近年になって重視するようになりました。「エンゲージメント・サーベイ」では、日本人は謙虚に回答しすぎるなどと国籍による癖があるため、グローバル比較をするうえで各国のベンチマークが重要です。弊社では2014~5年から、グローバルで調整したベンチマークを備えたエンゲージメント・サーベイを提供し、グローバルに展開しているクライアント企業に活用してもらっています。
今の我々の仕事は、個々のツールを提供することよりも、クライアント企業が抱えている人事の課題を一緒に解決していくスタイルが多いです。課題というのは、チームリーダーがワークしていないのをワークするように変えていきたいとか、組織の上層に人が多くて意思決定・コンセンサス作りに時間がかかりすぎる文化となっており、それを変えていきたいなど、いろいろです。経営陣が人事の課題を認識されると、我々が入って、インタビューやプロジェクトワークを通じて問題の改善策を一緒に作ります。グローバル展開されている大企業の場合、ヘッドクォーターで始まったプロジェクトでも海外各地の弊社コンサルタントと連携し、その現地組織内でじっくり動きます。米国で組織風土改革のプロジェクトを立ち上げタイなどでも同様のプロジェクトを導入し、最後は、また本社で、といった流れになります。オンサイトで結果を見ながら、その組織に適したプロジェクトを作り、改善していくのが仕事の進め方です。
【蓜島】「Leadership Assessment & Development」でも、研修プログラムやアセスメントなど、多数のツールを持っています。この領域でも、個々のツールを使ってもらうことよりも、クライアント企業の課題ベースで、ソリューションを一緒に作り上げていくことが重要になっています。今の時代、求められる人材像・リーダー像が変わってきていますので、新しいリーダー像を定義し、そこへ向けた人材開発のプログラムを作っていく、といったプロジェクトが増えています。
提供するプログラムは、日本企業のグローバル化が進展したことの影響も大きく出ています。例えば、ある大手電子部品メーカーが約8年前から取り組まれている「グローバル・リーダーシップ・プログラム」では、海外拠点でローカル・リーダーを育成することがテーマです。同社の海外拠点は、かつて製造拠点ばかりだったものから、ローカル・マーケット向けに製品開発もマーケティングをしている拠点も多くなってきています。そうすると、日本から経営幹部人材を送り込む方式ではあまり有効ではなくて、ローカル・リーダーを育成する必要があります。そこで、この国・このポジションのリーダーにはどんなスキルを身に着けてもらうかを定めて、各国のリーダー候補者が一同に会し、トレーニングを受けてもらう、という2年間のプログラムを動かしています。プログラムの中でクライアントの経営陣及び人事部と受講対象者の成長をトラックし、その人の昇進へとつながっていきます。このプログラムを作り上げるのには、キンセントリックのグローバルなネットワークが大いに貢献しました。プログラム対象の国ごとに、キンセントリックのコンサルタントが付き、コーチングやトレーニング、アセスメントを実行しています。
1990年代後半には日本の大手企業の間で「成果主義」人事制度の導入が盛んだった。しかし、伝統ある大手企業は日本型雇用慣行やそれに付随する風土が残ったままであることなどから、企業全体の生産性向上という意味では、失敗例が目立った。今、「ジョブ型」雇用の導入を検討する日本企業が多いが、人事制度の改定を相談される例はあまりないらしい。松崎氏によると、「制度というハコものを入れるだけではうまくいかない。成果主義のときの教訓が、各社の人事部門で記憶されているからでしょう」とのことだ。
【松崎】この10年くらいで、クライアント企業のニーズが大きく変化しました。以前は、個別のニーズが多くありました。ある制度を導入したい、リーダー育成のパイプラインを作りたい、といったことを我々に求められました。今は、俯瞰して見ると社会課題といいますか、日本企業全体の構造的な課題についてのソリューションを求められている気がします。わかりやすい例が、逆ピラミッド化した企業内人口構成です。50代以上が約50%に達している企業もあります。これでは、従来の年功序列は成り立ちませんが、一方で、社内に軋轢を生まない人事制度を作るのはとても難しい。実力主義で昇進や解雇をするアメリカ方式で行けるか、といえば、その企業単体は良くても、社会的には様々な軋轢を生むでしょう。企業としては、組織の中に内在する社会的な課題に対応しつつ自社の成長をどのように進めていくかを真剣に考えなくてはいけない。おそらく制度では解決しなくて、うまく運用していくしかない。そのあたりに我々の貢献領域があると思っています。
コミュニケーション力が必要な仕事、好奇心や共感力が大事
現在のキンセントリック ジャパンは、約20人で構成。日本代表・松崎氏のほか、ディレクター、シニアコンサルタント、コンサルタント、アソシエイトという構成だ。ほぼ、すべてのメンバーが、クライアントとプロジェクトを通じてコミュニケーションを行う。加えて、コンサルタント以上のメンバーは、新規クライアント獲得と事業開発という担当も担っている。
ここ数年で採用してきたコンサルタントやアソシエイトは、人事コンサルティング未経験者が多いという。ほとんどが、別業界でパフォーマンスを出してきた方や企業の人事部出身者が、人事コンサルタントになりたいと応募してきたパターンだ。上述の通りクライアント側のニーズは変わってきているが、これからキンセントリックのコンサルタントになりたい人には、どんな資質が求められるのか。
【松崎】我々の主な仕事であるリーダー育成や組織のチェンジ・マネジメントは、人・組織にインパクトを与えることです。そのために、ダイレクトに人に接し、コミュニケーションできなければなりません。また、コンサルタントですから'事実を基にした正しい分析をする'といったことも一定レベル必要ですが、それよりも大事なことがあります。それは、私なりの言い方をすると、目に見えないものを感じたうえで言語化することであり、左脳(論理など)と右脳(感性など)を両方使って正しい言葉を導き出すことです。例えばクライアント企業から3人を集めてコンサルタントがインタビューする場合、どういう質問をするかで得られる情報の質・量が変わります。また、このときに、コンサルタントは、この3人の人間関係や組織風土を察することができます。そういうセンスを磨くには、"好奇心"がものすごく大事です。人の価値観、考え方、その背後にある世の中の変化を感じ、その会社状況、取り巻く環境など、学ぶことはたくさんあるわけですから、自ら学び、必要なことを身に着ける。そういう志向性を持つ人に向いている仕事です。
蓜島氏は、「自分がクライアント企業の従業員だったら、どう感じるか、と常に考える。そういう"共感力"が必要ですね。正論では納得できない、ということが多いのが人間ですから。その人たちが納得して動きやすいコミュニケーション方法を取る必要があります」と、良い人事コンサルタントの条件を付け加えた。
これからのキンセントリックについて
【蓜島】キンセントリックは、スペンサースチュアートのグループですが、スペンサースチュアートは明確な意図を持って非上場にしている会社です。日本で5年後に100人に、といった短期間の成長を求められてはいません。グループ全体の方針として「クライアント・ファースト」を掲げ、クライアント企業とwin-winの関係を深く、長く、続けることを大事にしています。実際に我々は、5年後、10年後のビジネスのために、アクティブなセールストークなしでクライアント候補企業とコンタクトを取り続けることを多くやっています。同業他社よりビジネススパンが長いようです。また、各オフィスで横のつながりがあって、グローバルなプロジェクトがしやすいのもキンセントリックの特長です。
【松崎】ジャパンの中では、「トラステッド・アドバイザー」になりたいね、とみんなで話しています。以前はコンサルタントの担当をソリューションで分けていましたが、昨年10月からクライアント制に変更しました。各コンサルタントが3~5社担当し、あらゆるHRソリューションを提供する。もちろん専門知識が必要な場合は協力し合います。なぜそんなことをしたかと言うと、会社の冠で取引をしてもらうのではなく、コンサルタント一人ひとりがクライアントから信頼されるアドバイザーになるべきだし、なって欲しいと思っているからです。キンセントリック ジャパンは、トラステッド・アドバイザーの多い組織をめざしていきます。
プロフィール
松崎 肇 氏
キンセントリック ジャパン合同会社
日本代表、パートナー
三菱UFJ銀行と外資系人事コンサルティングファームであるマーサージャパンを経てキンセントリックに参画。現在はキンセントリック ジャパンの代表を務める。
組織風土変革、リーダー人材の育成・開発をはじめ、広く組織・人事領域のコンサルティング経験を有する。現在は、組織開発、タレントマネジメント構築、リーダー人材のアセスメント、コーチングを中心に、人事戦略の立案・設計、組織デザインの設計、人事制度構築・導入支援などに従事。
蓜島 資幸 氏
キンセントリック ジャパン合同会社
アソシエイトパートナー
ウィルソン・ラーニング ワールドワイドにて、主に金融機関、自動車業界を中心に人材開発コンサルタント及び部門マネジメントを歴任。その後、コーン・フェリーにて、人材開発コンサルティングサービスの拡大に向け同部門の日本マーケットの責任者を従事。2008年に現キンセントリック ジャパンの前身であるAon Consultingの日本法人の立ち上げを機に参画。
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